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イベント情報

2005/12/07

光文社創立60周年記念トークセッション 「私の好きな街、私の好きな本屋さん」 〜作家が語る街と本屋さんの愉しみ〜

■出演
大沢在昌さん(作家)
角田光代さん(作家)

 11月22日、光文社創立60周年を記念したトークイベント「私の好きな街、私の好きな本屋さん」〜作家が語る街と本屋さんの愉しみ〜がよみうりホールで開催されました。街歩きや本屋さん探訪が好きな1000人が参加し、大沢在昌さんと角田光代さんの人気作家おふたりによる楽しいトークが繰り広げられました。

基調講演「本と書店について作家が考えていること」

 私はこれまで66冊ぐらい本を出していますが、直木賞を受賞した「新宿鮫」が29冊目。28冊目までは、まったく売れませんでした。友だちからは、本屋さんに行っても売ってないと言われるんです。当時は僕の顔なんて誰も知りませんから、自分で本屋さんに行って「すみません、大沢在昌の○○っていう本ありますか」って聞くと、「は?」って言われて。ものすごく恥ずかしいんですが、もう一度聞くと「ああ、あれ赤川次郎さんの台になってるよ」。これ本当の話です(笑)。

 そして「新宿鮫」が出て、本屋さんの新刊コーナーを見ると、やはりないんです。また誰かの台になってるのかと思っていたら「売れてます」と。その年の暮れにミステリーのベストテンで1位に選ばれたり、翌年には賞をいただくわけですが、そういう話題になる前から「新宿鮫」だけは本屋さんで売れていたんですね。

 それまで28冊出ていたのに、読者は手に取ってくれなかった。でも29冊目の「新宿鮫」は買ってくれた。何が違う?

 本屋さんで全部立ち読みできるわけじゃないのに。唯一考えられるのは、本屋さんで誰かが「これおもしろいよ」と言って、一緒にいた友だちが「じゃあ読もうかな」と手に取る。そして、それを見ていた他のお客さんが「俺も読んでみようかな」となる。本屋さんの中での情報のやり取りという、すごく原始的なコミュニケーションがあって、そこからベストセラーが生まれてるんじゃないかと思います。

 今の本屋さんは本が多すぎて、いったいどれを読んで良いのやら判断に困ります。ほんの10数年前なら、本屋さんの中を歩いていれば、本の方から「おもしろいよ、読んでよ」っていう声が聞こえてきたものです。本好きの方は皆さんご経験があると思います。でも今は、あまりに本が多すぎてそれがわからなくなってしまっている。そういう中にあって、お金を出して本屋さんで買ってくださった方の「おもしろい」っていう声は、一番信用できるわけです。

 今、出版界全体に言いたいのは、本が多すぎやしませんかということ。それともう一点、たとえば風邪をひいて薬屋さんに行き、風邪薬ありますかと聞いた時、○○製薬のはこちら、××製薬のはあちらということはありえません。だけど本屋さんで大沢在昌の文庫を買おうと思ったら、出版社ごとにバラバラに並んでいる。これは決してユーザーフレンドリーとは言えないですよね。本屋さんにとっては、出版社別に分けて並べた方が在庫管理などがしやすいのはわかります。だけど、他の業界はこれだけ消費者に対して、より使いやすい、買いやすい、選びやすいという形を取って工夫している中で、本屋さんは旧態依然とした部分が変わらない。それはお前ら作家だって同じだろうといわれればそうかもしれません。作家が書いたものは出版社に渡るまでは「作品」ですが、出版社から読者に渡る時は「商品」となる。商品としてどういう魅力があるかが大事なんです。

 難しいのは、本には効能書きがなく、それを読んでどうなるかは読み終わった時にしかわからないということ。中には途中でやめたほうがよかったなという作品もあります。そういう意味で、これだけ本が氾濫している状況は健全ではないと思います。このままでは、お客さんは本屋さんに足を踏み入れるだけでイヤになってしまいます。

 どこの街に行っても、本屋さんは本好きにとって安心できる場所なんです。全然この街に馴染まないなと思っても、本屋さんに入った瞬間、同じ本が並んでいることによって安心感を与えてくれる。同時に、いつも行っている本屋さんであれば、どの棚には何があるかわかっていて、その一角の風景が変わっていると、新しい本が出たんだな、どんな本だろう、読んでみようと思わせてくれる。本屋さんは情報の発信基地であると同時に、生活の中での拠り所でもあり、そして旅先での安心の場所でもある、素晴らしい存在だと思うんです。

 これから出版界は大きな変動期を迎えると僕は思っています。それは良いことばかりではなく、作家も出版社も本屋さんも、恐らくその変化の後で、半数近くが消えてしまうことだってあるかもしれません。すべての作家や出版社や本屋さんが、それぞれの立場で、新しい出版界の、あるいはお客さんの変化に対して、何ができるかを考えていくべき時期が来ていると思います。

トークショー 「街と本屋さんの魅力をお話しましょう」

学生時代

【大沢】 角田さん、生まれは?

【角田】 横浜の山の方で、とても田舎なんです。本屋さんが一軒あったんですけど、本を売っていないんですよ。売ってるのは文房具と週刊誌で、単行本や文庫本はベストセラーがちょっとあるぐらい。でも、通っていた学校が横浜駅の近くだったので、学校帰りに大きな本屋さんに行くのが本当に夢のように楽しかったです。

【大沢】 子どもがお金を使って何かを買うという社会的行為を初めてするのは、まず駄菓子屋さんかな。その次は本屋さんっていう人、多いと思うんですよ。僕は中学、高校とバス通学だったんですね。それで行動半径が広がったとしても、中学生の頃は坊主頭で肩掛けカバンですから、そんな格好で喫茶店になんか入れない。でも本屋さんだけは、そこは大人の売買をしている場なんだけれども、入っていくことに対するためらいを覚えない。そこでずっとミステリーの棚を見て、お小遣いをもらった翌日に買ったりしてましたね。

【角田】 はじめて自分のお小遣いで買った本は覚えてらっしゃいますか。

【大沢】 覚えてますよ。当時「0011ナポレオンソロ」というアメリカのスパイもののテレビドラマがあったんですけど、そのノベライズ本。表紙にテレビのスチール写真が巻いてあるので、「これ知ってる」って思って買ったんです。実家は名古屋のサラリーマンの典型みたいな家で、日曜日に車で都心部にあるデパートに行くわけです。でも中学生は大人の買い物につきあっていられないじゃないですか。ある時一計を案じて、デパートの中の書籍売場にいるから、買い物終わったら迎えに来てって。それから毎週日曜日はデパートに行くのがすごく楽しみになりましたね。

本と雑学

【大沢】 原稿を書くときはパソコンですか?

【角田】 はい。

【大沢】 実は僕、パソコンも携帯電話も持ってないんですよ。パソコンはパソコンを使える人を雇えるうちは、自分で持たなくてもいいかなと。角田 じゃあ本屋さんに行かずにネットで本を注文したりは?大沢 やったことないです。

【角田】 私はどうしても本屋さんで手に入らないものはネットに頼りますけど、やっぱり本屋さんに触りに行きますね。

【大沢】 今、うちの子どもは高校2年生なんですけど、百科事典を持ってないんですよ。電子辞書があるから。だけどそういう電子モノって、雑学が身につかないよね。つまり、何か調べたい単語があって、辞書や事典でそのページを開いた後、その隣の欄を見たり、ページをめくっているうちに雑学が身につくことってあるじゃないですか。それが電子モノは知りたいところにピンポイントで行ってしまうから、調べ終わってそれを閉じてしまえばそこに情報は残らない。だからやっぱり紙の方が良いかなっていう気がするんですよね。子どもの頃、家には本がいっぱいあったんです。当然男の子ですから、百科事典でちょっといやらしい言葉を調べてみたり、大人の小説に手をのばしてみたりして。そういう環境の中で本にはちょこちょこ触れてましたね。

本オタク?

【角田】 最近よく「活字離れ」と言われてますが、私が子どもの頃も、本好きな子は読んでいたけど、好きじゃない人は読んでいたという記憶が全くないんですよね。だから「活字離れ」って本当は今だけのことじゃなくて、昔から読まない人は読まないし、読む人は読むっていう感じだったのではないかと思うのですが。

【大沢】 今、オタクという言葉が市民権を得てるけど、もともとオタクって本好きですよね。日本に昔からいたオタクで一番多いのは、本好きな人です。分厚いメガネかけて本屋さんと自宅しか往復しないとか、図書館に引きこもってるとか。でもなぜか日本人って、読書は良いことだと思ってるから、本好きを「本オタク」と言ってバカにしないよね。自分だって子どもの頃はいわゆるミステリーオタクだったと思うし、やたら外国の作家や、作品の主人公の名前とか拳銃の種類に詳しかったり。それはオタクの世界ですからね。でもそれをオタクだとバカにされることもなかったし、自分をオタクだと思うこともなかった。不思議だよね。

【角田】 そうですね。そういえばこの前仕事でウィーンに行ったんです。私はジョン・アーヴィングという作家がすごく好きなんですが、「ホテルニューハンプシャー」と「ガープの世界」という作品に、ウィーンのことがすごく細かく描かれているんです。だから私はガイドブックではなく「ガープの世界」を手に、ガープが歩いたとおりに歩いて、ガープが行った博物館で感動に打ち震えて、私ってすごくミーハーなんだと思えてきて…。それこそ小説だから、誰もおかしいよとは言わないけど、これってスターが歩いた道を歩いて、触ったところを触って、間接的に触れ合ったと思うのと同じようなことを私はしてるんだなって思いながら歩いてました(笑)。

【大沢】 それはミーハーじゃなくてオタクなんですよ(笑)。

作家と本屋さん

【角田】 本屋さんでご自分の本を買っている人を見たことありますか。

【大沢】 それねえ…。角田さんはある?

【角田】 ないんです。

【大沢】 そう、これ意外とないんですよね。僕は一回だけ、神保町の本屋さんで見たんです。「新宿鮫」の3作目が出てすぐの頃に、レジにそれを持って並んでる大学生ぐらいの男の子をね。

【角田】 へー、いいなあ! 私は立ち読みしてる人は見たことがあるんですよ。

【大沢】 僕もある。「買えよ」とか思うでしょ。

【角田】 ハイ! 柱の陰からずっと見て、「買え、買え、買え〜」って念波を送ってたら、何とその人は最後まで読んでしまったんですよ。それで本を閉じて棚に戻して帰っちゃって。念波が通じなかったんです。

【大沢】 それ、念波が「買え〜」じゃなくて、「読め〜」になって、読み切っちゃったんじゃない(笑)。

デビュー作

【角田】 先ほどの講演で、デビュー作が単行本になった時、本屋さんでそれを見つけられなかったとおっしゃいましたが、私も実際、確かめに行った経験があります。自分では一生懸命頑張って書いたんだから、モスクワにマクドナルドができた時みたいにみんなが取り合って、表紙とかちぎれてすごいことになってるだろうなと想像して見に行ってみたら、やっぱりそこに置いてなかったんですね。それでちょっと怖くなって、デビューしてから2年ぐらい、本屋さんに行かないようにしてました。

【大沢】 角田さんは今、何冊くらい出してるの?

【角田】 30冊ぐらいだと思います。実は私、管理がすごく悪くて、絶版とか、もう二度と手に入らなくなるとか考えずにいたら、デビューしてから5年ぐらいの本がほぼ絶版になってしまっていたんです。私自身も持っていなくて、最近文庫にはなりましたが、親本がないんです。

【大沢】 それはちょっとつらいね。

【角田】 本ってなくなるんですね…。

【大沢】 僕は売れなかった時代でも、親本はとってあるので。売れば金になるかなと思って(笑)。

【角田】 たぶん古本屋さんなどの業界の方だと思うんですけど、サイン会などでいつもたくさん本を持ってきてくださる方がいて、自分のデビュー作を持ってないんだと訴えたら、一冊くれたんです。

【大沢】 なんか情けない言い方だな(笑)。

【角田】 その方にはすごく感謝してるんです。もし会場にいらしてたら、ありがとうございます(笑)。

(2005/12/07)

大沢在昌(おおさわ・ありまさ)〜本オタクはバカにされない
愛知県生まれ。1979年「感傷の街角」でデビュー。91年「新宿鮫」で吉川英治文学新人賞および日本推理作家協会賞長編部門、94年「新宿鮫 無間人形」で第110回直木賞を受賞。
最新刊「亡命者 ザ・ジョーカー」(講談社)。来年1月には裏社会に生きる女性を主人公にした「魔女の笑窪」(文藝春秋)発売予定。
角田光代(かくた・みつよ)〜立ち読みしてる人に念波を
神奈川県生まれ。1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、98年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、05年「対岸の彼女」で第132回直木賞を受賞。ショートストーリーを集めた最新刊「プレゼンツ」(双葉社)発売中。11月21日より、読売新聞夕刊にて新作『八日目の蝉』の連載がスタート。

共催:読売新聞東京本社、光文社 
後援:活字文化推進会議

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