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イベント情報

2010/02/22

国民読書年フォーラム in 市川 

■出演
齋藤 孝さん
奥泉 光さん
水越 さくえさん
肥田 美代子さん
長井 好弘編集委員

 「国民読書年フォーラム」が2月6日、千葉県市川市の行徳文化ホールで開かれた。明治大教授の齋藤孝さんが「読書力とコミュニケーション力」をテーマに講演、随所にユーモアを交えながら、本の魅力や読書の効用を話すと、550人の参加者はメモを取りながら熱心に聞き入っていた。続いて作家の奥泉光さん、セブン&アイ出版社長水越さくえさん、文字・活字文化推進機構の肥田美代子理事長が「言葉の力と心をはぐくむ」について語り合った。(コーディネーターは長井好弘・読売新聞東京本社編集委員)

 〜 基調講演 〜 齋藤 孝さん
 「読書力とコミュニケーション力」

読書力は対話力

 日本人の半分近くの人がほとんど本を読まないという調査結果が出ました。大学生でも1か月に1冊、まともな本を読むことが少なくなっています。本を読ませるために、学生同士でお薦めブックリストを見せ合いながら話をさせる方法も取っています。
 
 どうして本が大事なのか、読書が大切なのか。家に本があるということが大切なことなんです。本があるということは、大変な偉人、先人が部屋にいて刺激を与えてくれるということです。ニーチェやフロイト、福沢諭吉などが本棚に並んで背表紙からにらみをきかせてくれているわけです。
 
 人間の文明は元来、言葉、中でも書き言葉によって成り立っていますW 齋藤孝さん.jpg。活版印刷術が生まれ、知が共有されるようになってから急激に文明が発達したのです。書き言葉を共有していない日本人が半数近くいるとなると、社会は発展をあきらめただけではなく、相互のコミュニケーションができにくくなってしまいます。「むかつく」という言葉の流行を研究したとき、生徒たちが授業中に「むかつく」ばかり言って、授業にならないという相談を学校の先生から受けたことがあり、ここまで日本人の知性がなくなったのかと驚きました。
 
 実は、他者に対する態度というのは、読書量と関係があります。読書というのは、人の話をたくさん聞くという行為だから、他者の話を落ち着いて聞けるようになります。「むかつく」「うざい」と、コミュニケーションを断ち切るような態度には出なくなるわけです。まずは話を聞き、ちゃんと理解した上で、自分のコメントをする、そういう対話ができるようになります。本を読まない人でも会話はできていますが、その会話と対話はレベルが違います。大学のゼミで学生と話をすれば、どの程度読書をしているかが分かります。書き言葉にしか出てこない語彙(ごい)を話し言葉で使っているかどうかで分かるわけです。
 
 皆さんは漢字の力があるから私の話が聞き取れます。意味の含有率が高い話をしようとしたら、漢字の熟語を使わざるを得ません。従って、話す、聞くの根底には漢字変換力、文字に直す力が無意識に働き、それらは読書量に支えられているわけです。
 
 内容の濃い対話をするためには、要約力、質問力、コメント力が大切です。要約力は、相手の言っていることをぎゅっとまとめる力。本を読んでいると、まとめる力は付いてきます。質問力は、相手に「ああ、いいことを聞いてくれた」と思わせる力です。私の場合、筆者らに聞きたいというところに印を付けながら読んでいます。相手の言葉にコメントしてあげると、コミュニケーションがうまくいきます。自分の考えを研ぎ澄まして、ひとつの言葉に凝縮する作業には集中力がいりますが、読書によって得られる語彙や言い回しを引用しながら話すと、キレのいいコメントができるようになります。
 
 読書とは人間における知性の土台みたいなものです。ちゃんと歩かないと健康が損なわれるように、本を読んでいないと粗雑な人間になってしまいがちです。落ち着いて話すことができるメンタリティーと力を育ててくれるのです。

◇齋藤 孝さん(さいとう・たかし) 静岡県出身。『身体感覚を取り戻す』で新潮学芸賞受賞。ベストセラーとなった『声に出して読みたい日本語』で毎日出版文化賞特別賞に輝き、日本語ブームをつくった。著書に『読書力』『コミュニケーション力』。NHK教育「にほんごであそぼ」総合指導。
〈国民読書年〉
 文字・活字という知的財産を受け継ぎ、心豊かな社会を実現するため、政官民が協力し国を挙げて読書活動を盛り上げようと、活字文化議員連盟が呼びかけて2008年6月、衆参両院で採択した決議に基づいてつくられた記念年。2000年の子ども読書年から10年。これまでに「子どもの読書活動推進法」(01年)と「文字・活字文化振興法」(05年)が制定された。 

〜 パネル討論 〜 「言葉の力と心をはぐくむ」 

本は心育む栄養 言語力を磨こう 

【長井】 活字離れが進んで、読書が好きな人、読まない人、はっきり二極化が進んでいます。読書と言葉の力の関係ですが、日本では生徒、学生の言葉を理解する力が衰退しているんじゃないかと言われています。

【肥田】 15歳を対象とした国際調査によると、教育熱心だと言われてきた日本の子供たちの読解力はどんどん低下しています。文章、図表を正確に理解し、論理的に自分の言葉で相手に伝える力が読解力なんですが、一番成績がいいとされるフィンランドは世界で一番本を読む国だと言われています。日本はといいますと、調査対象国の中では一番本を読まないこともわかりました。日本では、教科書以外の本を紹介したり、本や新聞を読みなさいと言う先生が少ない。読書指導の大切さを感じます。

【奥泉】 会社組織がセーフティーネットじゃなくなり、今、社会にとってW 奥泉光さん.jpg一番の課題は、人と人が新しい関係をどうやってつくるかということだと思うんです。そのためには、自分の主張をはっきりさせ、相手の主張をきちんと聞くコミュニケーション能力が大切です。その際の最大のポイントである言葉の力が失われていくとなると大変ショッキングです。

【長井】 読解力の問題は、ひいては若い人の言葉の問題としてもとらえられると思いますが。

【水越】 若い人の言葉が乱れていると言われていますが、私たちの青春時代にも、もててもてて困るということを「MMK」と言ったりしてたし、枕草子で清少納言が言っているように、いつの時代でも若者の言葉は乱れていると言われ続けてきました。社会に出て、これまで乱用していた言葉が通じない社会であるということを肌身で感じるときがあるんじゃないでしょうか。ただ、家庭では、きちっとした言葉遣いで子供と接することが重要だと思います。

【奥泉】 言葉の乱れは問題だと思いません。主語、述語がある文章を話すことが重要だと思います。

【長井】 ちゃんと完結した言葉で話すということですね。

【奥泉】 美しい日本語というよりも、むしろ日本語という言語が持っている表現力や思考力の可能性を広げていかないと、日本語はどんどんしぼんでしまうのではという危機感の方が強いです。大学で勉強するときは全部英語という国はたくさんあります。日本語がずっと自動的に「基軸言語」であり続けるわけじゃないと思う。日本語は簡単に習得できる言語ではありません。読書が大事だということも含め、財産として継承し、表現をどう拡大していくかが大きな課題と考えます。

【長井】 肥田さんは、若い人の言葉ということに関してはどうでしょう。

【肥田】 若い人たちが言葉のやりとりでは解決できず、暴力に走ってしまうケースが多くなりました。物語性が若い人たちから、なくなってしまったなと感じます。友達同士でけんかになり、自分が隠し持っているナイフで相手に切りつけたら、次の瞬間どういうことが起こり、どういう結果になるのかを物語として想像できないで行動に移してしまう。悲惨な事件はこうして起こっています。

【長井】 齋藤さんは基調講演で、読書をすると落ち着いて人の話を聞いて対話ができるようになると話しました。読書がどれだけコミュニケーションに力を及ぼすことができるかということがこれからの課題だと思いますが。

【奥泉】 対話力、あるいは言語力をつけるためには、読書が一番早い。というか、ほかに手段がなかなかないんです。学生には、読むという中から初めて自分の言葉や表現が出てくるんだということを繰り返し言っています。

W 水越さくえさん.jpg【水越】 グローバル化した社会では、カルチャーが異なる外国の方を相手にしなければならないし、社内でも20代と60代では人類が違うくらい言葉遣いが違っていることがあります。そういう相手の思考を理解しないと、自分が言いたいことを相手に理解してもらえるはずがありません。本は長い歴史の中で、先人たちがいろいろと悩んだり苦しんだり、考えたことが書かれているわけですから、しっかりと読むことによって、視野が広がり、他者を理解するということが可能になってくるんじゃないかなと思います。

【長井】 読書体験の話をそれぞれにしていただきたいと思います。

【肥田】 10円玉を握って、街の貸本屋さんにしょっちゅう行っていました。借りることが楽しくて誇らしかった。ところが、中高生になると、受験もあってあまり読まなくなり、薬学部に進学した大学時代は、大学の図書館に一回も足を運びませんでした。理科系だから、文学を読まなくていいんだよと自分に許しを与えていたんです。この4年間はもったいなかったと痛切に思います。私のような失敗をしないでって若い人に言いたい。

【奥泉】 僕の場合は小6のときに夏目漱石の『吾輩は猫である』に出会ったのが大きくて。中1、中2、中3の夏休みの読書感想文は3年連続、『吾輩は猫である』なんです。浪人中には、ドストエフスキーを読んで、ほんとうにおもしろい小説が世の中にあるんだなと思いました。大学に入ってからは、マルクスやウェーバーを人と一緒に読む体験をしました。

【長井】 人と一緒に読む?

【奥泉】 カント、ヘーゲル、マルクス、ウェーバー……。一人じゃ読めない本って世の中にあるんです。一人では読み切れない本を複数で読むという形で読んでいった本はたくさんあります。だから、大学時代、読書会に六つぐらい入っていました。

【水越】 私も学生時代に読後感を語り合える先輩や友人がいたことが、読書を促進したと思います。触発されて、あまり興味のなかった安部公房、高橋和巳を読むようになりました。同じ本でも別の人が全く違う感想を話すことも勉強になりました。本に向き合うということは、経験できなかったことを経験したり、知識を得たりするということはもちろんですが、語り合っていくことによって考える力や知恵というものも生まれてくるんじゃないかなと思います。

【長井】 読書をしていてこんな効用があるんだ、本を読んでいて良かったという具体的な体験はありますか。

【肥田】 童話を書こうと思ってから、子供向けの本を一生懸命読んW 肥田美代子さん.jpgで、短いフレーズで表現することを学びました。それらの本は、子供の呼吸に合わせて簡潔な文章で書かれています。もうひとつは、年を取っても子供の心を持っていることの難しさと大事さを学んだことでしょうか。サン・テグジュペリの『星の王子さま』の一文は人生訓になっています。

【奥泉】 本を読んだことによって、いろいろな人に知り合えたということです。精神が健康になったというか、栄養をとって体が丈夫になった感じです。

【水越】 二十数年前、取引先の中国に行く前に、山崎豊子さんの『大地の子』を読んでいきました。戦後の日中関係を少しでも押さえておくことによって、相手に対する接し方も違っていたと思います。以来、海外に出張する時は、いろいろな本を読むようにしています。

W 長井編集委員.jpg【長井】 読売新聞が昨年10月に行った世論調査だと、1か月間に1冊も本を読まなかった大人が52%という数字が出ています。国民読書年に当たって、本を読んでもらうための方策も考えなければいけません。

【水越】 一番重要なのは、良書の選定ではないかなと思いますが、同じくらい大切なのは、司書の存在です。それぞれの学校に志のある司書を配置していただいて、自然な形で子供たちの水先案内をしてほしいと願っています。それから、ある時期忙しくて本を読まない時期も人生にはたくさんあるでしょう。でも、一度、本の魅力を感じたことがあれば、何かのきっかけでまた、本にふれあうようになると思います。

【肥田】 学校図書館は本があっても、司書がいないといけません。専任の人を置いて、子供たちの読書環境を充実させてほしいのです。機構では国民読書年のロゴマークやポスターもつくりました。10月23日には東京で大きな祭典も行います。みんなで楽しく本を読む国をつくりましょう。
 

【フォーラム宣言文】
 フォーラムでは最後に参加者一同で宣言文を採択した。内容は以下の通り。
 
 わが国は千数百年の書物文化の歴史を持ち、すばらしい文学などを生み出してきました。本や新聞などの活字文化は考える力や想像力はもちろん、言葉の力や人を慈しむ心もはぐくんでくれます。
 こうした貴重な財産を受け継ぎ、発展させて、心豊かな活力あふれる社会を築くことは私たちの願いです。
 今年は「国民読書年」です。これを機に、私たち、国民一人ひとりが家庭で、学校で、職場で、地域で、文字・活字文化に親しむ行動を起こすことを誓います。
 ◇奥泉 光さん(おくいずみ・ひかる) 山形県出身。『ノヴァーリスの引用』で野間文芸新人賞、『石の来歴』で芥川賞、『神器 軍艦「橿原」殺人事件』で野間文芸賞を受賞。近畿大助教授を経て2003年から近畿大教授。朗読のパフォーマンスやジャズバンドでフルート奏者としても活躍している。
◇水越 さくえさん(みずこし・さくえ) 東京都出身。イトーヨーカ堂入社後、取締役、常務取締役を歴任。1995年芝パーク出版(現セブン&アイ出版)常務取締役を兼務、生活情報誌「saita(咲いた)」の発行人に。2003年同出版社長兼務。06年セブン&アイホールディングス常務執行役員。
◇肥田 美代子さん(ひだ・みよこ) 大阪府出身。1978年『先生しごいたる』で童話作家デビュー。89年参院選初当選。参院議員1期、衆院議員3期。活字文化議員連盟事務局長などを務めた。2006年出版文化産業振興財団理事長に就任。07年10月から現職。著書に『ゆずちゃん』など

【主催】市川市文化振興財団、活字文化推進会議、文字・活字文化推進機構
【主管】読売新聞社
【後援】経済同友会、市川市
【協力】市川よみうり新聞社

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