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イベント情報

2012/01/05

学校図書館シンポ「手を伸ばせば、そこに本がある」

■出演
あさのあつこさん
河村建夫さん
山本希さん
肥田美代子さん

 シンポジウム「手を伸ばせば、そこに本がある ― 学校図書館の活性化を考える」が2011年12月11日、山口県山陽小野田市の山口東京理科大学で開かれた。作家のあさのあつこさんが「私の読書体験」と題して基調講演をしたあと、文字・活字文化推進機構の肥田美代子理事長がコーディネーター、あさのさんと、元文部科学大臣の河村建夫衆院議員、同市学校図書支援員の山本希さんの3人がパネリストを務め、学校図書館の充実に向けて活発な討論を繰り広げ、約300人が熱心に耳を傾けた。シンポジウムに先立って、白井博文市長と竹永満学長代理が歓迎のあいさつを述べた。

あさのあつこさん基調講演 「私の読書体験」

生きる糧 与えてくれる

掲載紙面 あさのあつこ.jpg 私は岡山県美作(みまさか)市の湯郷という、山あいの温泉町で生まれ育ちました。小学校まではほとんど本を読まない子で、学校から帰ってランドセルをぽんと放り投げると、そのまま外に飛び出して、日が暮れるまで遊んでいました。

 四つ年上の姉は読書家で、中学生のとき源氏物語、谷崎潤一郎の谷崎源氏を読んでいたのを覚えています。すごいな、私は、お姉ちゃんみたいになれない。コンプレックスの裏返しもあって、本には縁がないと思っていたんです。

 それが、中学生になって1冊の本に出会い、百八十度転換しちゃった。コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズに「バスカビル家の犬」という中編があるんですが、それを文庫で読んだのです。

 親から渡されたのか、家の本棚にあったのか、全く覚えていないんですが、床の冷たさをすごく覚えているんです。床にぺたんと座って、足に冷たさが伝わってくる。その中で一生懸命本を読んでいる。「物語ってこんなに面白いものなんだ」と思ったんですね。

 シャーロック・ホームズという私の全く知らない人物像に出会ったのが衝撃で、それからホームズものを全部読みました。霧のロンドンの風景が目に浮かび、向こうから馬車の音が聞こえ、シルクハットの人たちの影が揺れる。本だけが教えてくれる体験がものすごく新鮮でした。

 私は非常にコンプレックスが強く、私なんて、というのが口癖のような人間だったんです。山に囲まれた小さな町の中で生きていると、自分に自信がないし、自分が閉ざされている、壁に囲まれている気になっていたんです。

 本を読んで、壁と思っていたものは、実は扉であるということを知ったと思うんです。自分の足で広い世界に歩み出すことができると信じさせてくれたのが、本という存在でした。

 私も扉になりたいと思いました。夢中で読みあさった海外ミステリーの影響で、高校生になって、ヨーロッパのどこかの町みたいなのを舞台に、30枚の作品を書きました。高校の先生が赤ペンでびっしり感想を書いてくださいました。初めて私が得た読者でした。書けば誰かが読んでくれる、と教えてくださったのです。

 本と人は、私の中ではとてもよく似た存在です。人は、自分を変えてくれる、生きる糧を与えてくれる人に、あるいはものに、必ず出会えるんだと思います。

掲載紙面 聴講者.jpg

◇1954年岡山県生まれ。青山学院大卒。子育ての傍ら作家デビュー。「バッテリー」で野間児童文芸賞、「バッテリー2」で日本児童文学者協会賞、昨年は「たまゆら」で島清恋愛文学賞を受賞。児童書から時代小説まで幅広い分野で活躍している。

パネルディスカッション

読解力向上の中心に

肥田 中学校まであまり本を読まなかったと言われるあさのさんが、児童文学をお書きになったのはどういう理由からでしょう。

あさの 私は子供の本というと「泣いた赤鬼」「ごん狐(ぎつね)」のようなものと思っていました。大学で友達に誘われて児童文学のサークルに入り、そこで初めて日本の現代を書く児童文学に出会ったんです。佐藤さとるさんの「だれも知らない小さな国」、後藤竜二さんの「天使で大地はいっぱいだ」など、キツネさんや鬼が出てこなくても、生きてそこに動いている少年少女を書くのが児童文学だと初めて知り、自分の10代を見直すきっかけもつくってくれて、児童文学から離れられなくなりました。

肥田 政治家の言葉がいろいろと問題になります。政治家はもっと本を、中でも古典は読んだほうがいいですね。

掲載紙面 河村建夫.jpg河村 2008年に「古典の日」宣言というのがありましたが、「紫式部日記」に「源氏物語」が最初に記録されたのが1008年11月1日とあることから、11月1日を国で「古典の日」に定めることを考えています。日本に1000年以上前からこれだけの文学作品があることに、我々は誇りを持っていい。

肥田 山本さんの読書体験をお聞かせください。

山本 小さい頃、父が絵本の読み聞かせをしてくれました。「桃太郎」も「ブレーメンの音楽隊」も普通に始まるんですけど、途中から登場しない動物がどんどん出てきて、全然違う話になっていく。父の話が、最初の読書体験です。
 図書館に行くようになったのは、まず自宅近くの公民館の図書館でした。そこの司書さんがいろいろな本を薦めてくださったり、本以外の話も聞いてくださったりする方で、そんな出会いがあって、支援員になるときも、その司書さんのイメージが浮かびました。

肥田 あさのさんは3人のお子さんをお持ちですね。本好きな子供を育てる上で、家庭の役割ってどんなものでしょう。

あさの 「手を伸ばせば、そこに本がある」環境を整えるのは、大人の義務と思います。子供と図書館に本を借りにいく。買わなくても本屋さんに行って、こんな本があるんだねと言う。家庭でも本の話をする。「お母さん、こんな本を読んだんだよ」と話すことは、とても大切と思うんです。
 同時に、自戒と反省を込めてですが、「お母さん、あのな」と話しかけた子供に、ちゃんと「どうしたの」ってうなずきながら聞ける良質の耳を持つ大人に、子育てをしているお母さんにはなっていただきたいですね。この人は私の言葉をちゃんと聞いてくれる。言葉に対して愛情や信頼を持った子供は、必ず本が好きになる。もっと言葉を知りたい、言葉で紡がれる世界を知りたいと思う。本を好きになるって、人を、自分を、生きることを好きになることと思うんです。

肥田 河村さんは4人のお子さんのパパでいらっしゃいますが、どういう育て方をなさいましたか。

河村 子育ての真っ盛りにほとんど家を空けていました。特に一番下の女の子は、帰ってきて起きていたら私がふろに入れることになっていたんですが、10歳になった誕生日に、今日からもう一緒に入りませんと言われ、それから日曜日に帰ったときは図書館に連れて行き、一緒に本を探した覚えがあります。

肥田 山本さんは、中学生に本を好きになってもらうのに、ご苦労はありますか。

掲載紙面 山本希.jpg山本 本に親しんでいる子は、「この本読んでみない」と言えばすっと手に取ってくれます。でも、小学校のときに親しんでいない子に、「本を読みなさい」と一言で済ますと「何で読まなきゃいけないんだ」と反抗されてしまうことがあります。中学生に本を紹介するときは、まず、その子と話をします。それから、こういう本が好きかな、こういう系統でいくか、とこっちが考えるんですね。本が読みたくないときって、あると思うんです。読みたいと思ったら、また図書室においでよ、そういう感じで本を紹介しています。

肥田 保健室登校のような感じで、中学生が図書館にやって来ることってありますか。

山本 ありますね。教室には行けなくとも、保健室と教室の間に図書館が入って、まず図書館で好きな本を見つけてみたり、読書をしたりという、教室までのワンクッションという形で図書館を利用することはあります。

司書教諭 専属1人でも変わる

肥田 学校図書館は戦後間もなく学校図書館法に、学校教育に欠くことのできない基礎的な設備と書かれました。随分と時間がたちましたが、本当にそうなっているか。学校図書館の役割について、河村さんはどうお考えになりますか。

河村 子供のたまり場になるような学校図書館を整備してもらいたい。ある幼稚園で、絵本がいっぱい、きれいなトイレの入り口に置いてあるんです。子供が必ず通る所で絵本を見てもらう。いい発想と思いました。子供が本に触れるチャンスをつくる。図書館がその中心にならなきゃいかんと思いますね。
 図書館をつくっても、山本さんのような子供を指導する人がいるのか。非常に少ない。司書教諭は法律で12学級以上の学校に置くようになっていますが、小規模校には置いていない。教諭はほとんどが兼務です。

掲載紙面 肥田美代子.jpg肥田 山本さん、今はとてもいい学校図書館にしてもらったけど、来たときはそんなじゃなかったんでしょう。

山本 ドアの下のレールがちゃんとしてなくて、重くて、「うーん」とやらないと開かない。最後に開けたのはいつかな、というような図書館でした。空気がよどんでいて、高い書架が窓をふさぎ、日が入らなくてじめじめしている。まず、「環境整備をしなきゃ」と思いました。

肥田 全国の学校図書館の7、8割がそうなんです。人が1人入ることでどんなに変わるか。あさのさんからも、学校図書館の役目などについてお話しいただけますか。

あさの 子供たちの居場所であってほしい。本を好きになる子ばかりではない。ただ黙って座っている子、隅で友達としゃべっている子もいると思いますが、ここにいていいんだと思える場所が、学校の中に異質の空間としてあるというのは、ものすごく大切なことです。そういう子供たちの何人かが、現実の風穴に、ドアに、なるのが本だと知っていく。そういうふうに、人に向かって図書室が開かれている。おいで、と呼び込んでくれる雰囲気がある。それには司書の先生がいらっしゃることが絶対条件と思うんですね。

山本 学校司書はまだ認知されていないという思いがあります。「暇でしょう」「毎日、やることある?」と言う人がいます。そんなことはない。本って、重いんです。それを移動する。こういう本がないかと聞かれたら、きっとこの人はこういう情報が欲しいんだろう、と考えないといけない。肉体も精神も使う。パワーがないとやっていけない仕事だと思います。

河村 学校図書館の担当職員の配置を、島根県は知事さんが市町村に働きかけ、県が半分出す、市が半分出しなさいという格好でやっています。そうでない県もあり、首長さんがそこへ関心を持つか持たないかの差です。法律で義務づけないと、格差が生まれる。
 PISA(国際学習到達度調査)というのがあります。日本に追いつけ追い越せの目標だったのが完全に抜かれています。特に日本が落ちたのは読解力と言われています。子どもの読書活動推進法という法律をつくりましたが、その中心はやっぱり学校図書館でないといけないと思います。

肥田 読解力は要するに言葉の力。その力が国民全体に落ちているというのをどう感じられますか。
 あさの 言葉というものが自分を表せる、自分の思いを誰かに伝えられるということを、子供たちは信じていないところがある。信じてもいいと思えるチャンスを、子供たちは与えてもらっていないんですね。
 言葉が揺らぐと、学力というより、人間の根っこが育たない。根を深く地中に張れないと、極論かもしれませんが、生きる根っこが浅くなり、簡単に死のほうに向かう。人としての根っこを太くしていく一つが、言葉と思っています。

河村 司書教諭に専属で図書館にいてもらいたいですね。言語力を高めようとすれば、どうしても必要と考えます。法律で置かなければいけないとうたえば、そこに雇用も生まれます。

肥田 学校の先生方は、「言語活動の充実」の授業の進め方で困っていると思います。山本さんに先生方から質問が来ていませんか。

山本 図書館での調べ学習がしやすい教科としにくい教科がありますが、全くやらないより、やれる教科だけでもやったほうがいい。先生方自身が、子供の頃に調べ学習をした経験がきっと少なくて、どう図書室を使っていいかわからないこともあると思うんです。依頼をいただいたときは、一から一緒にお手伝いをしています。

掲載紙面  パネリスト.jpg

◇河村建夫(かわむら・たけお)氏
衆院議員、学校図書館活性化協議会会長、子どもの未来を考える議員連盟会長     
【山口県生まれ。文部科学大臣、内閣官房長官など歴任】
◇学校図書支援員 山本希(やまもと・のぞみ)氏 
【着任1年で、勤務する山陽小野田市の中学校図書館の年間貸出冊数を10倍に伸ばす】
◇肥田美代子(ひだ・みよこ)氏 文字・活字文化推進機構理事長、童話作家   
【大阪府生まれ。参院議員、衆院議員を経て、出版文化産業振興財団理事長】 

■主催 公益財団法人文字・活字文化推進機構 学校図書館活性化協議会
■共催 子どもの未来を考える議員連盟 山陽小野田市 山陽小野田市教育委員会 読売新聞社
■後援 日本児童図書出版協会 学校図書館整備推進会議 読書推進運動協議会

担当者配置 沖縄全国2位97% 自治体によりばらつき  

 役割が大きくなっている学校図書館で、子供と本をつなぐガイド役となる担当職員などの配置状況は自治体によってまちまちだ。
 文科省が昨年6月に発表した「学校図書館の現状調査」(数値は2010年5月現在)によれば、公立小学校での配置状況は九州、沖縄、山口県の場合、沖縄が全国2位の97.8%で、佐賀87.7%、鹿児島78.6%、熊本65.8%、福岡61.2%、大分56.1%、宮崎40.1%、山口31.2%、長崎31.0%と続く。
 司書教諭の発令状況は法律で義務づけられていない11学級以下では軒並み低く、小学校だと、福岡以外は1けた台で、発令されている学校がない県もある。
 一方、市町村によっては、独自に予算措置を講じて学校図書館の施策に力を入れているところもある。
 このシンポジウムが開かれた山陽小野田市は、2010年度から市内小中学校への図書支援員の配置に乗り出した。図書の貸し出し冊数が伸び、図書館を活用した授業も増えるなどの効果がみられ、12年度には全18校への配置を終える予定。市教委は支援員のレベルアップのため研修にも力を入れている。

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