21世紀活字文化プロジェクト

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イベント情報

2015/12/07

本屋に行こう@東京

■出演
林真理子氏
高井昌史氏
中村朱里さん
嶋浩一郎氏

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基調講演

「リアル本屋の魅力」

 ネット書店の隆盛で苦戦が続くリアル本屋の魅力を考える連続シンポジウム「本屋に行こう@東京」(活字文化推進会議主催、読売新聞社主管)が今月9日、東京都千代田区の日本教育会館で開かれた。基調講演で博報堂ケトル社長の嶋浩一郎さんが「本屋は想定外の出会いを提供する場」と語った後、作家の林真理子さん、紀伊國屋書店社長の高井昌史さん、全国高校ビブリオバトル優勝者の中村朱里(あかり)さんによるトークセッションでは、書店員に対する期待の声、本屋を応援したい作家の思いなどが飛び出した。

偶然の出会い生む

 広告のクリエイティブディレクター、テレビCMなどの広告をつくる仕事を本業にしていましたが、3年前に会社の事業として、東京・下北沢に、ブックコーディネーターの内沼晋太郎さんと一緒に「B&B」という名前の本屋を開業しました。

 雑誌の創刊キャンペーンを手がけたり、本屋大賞の創設にかかわったりしてきた自分がなぜ本屋をつくろうと思ったのか。街の本屋は経営が苦しく、閉店に追い込まれるケースが増えています。でも自分が住んでいる街の駅前に、自分の生活動線の中に、好奇心を刺激してくれる場所があるということは素敵(すてき)なことだと思っています。そういう貴重な空間が消えてしまうのが嫌だった。どうすれば街の本屋がやっていけるのか、挑戦したくなったのです。

 僕らの世代ではネットで本を買う人が増えています。僕自身もアマゾンで本を買うことはあります。クリックしたら、翌日に本が届き、便利だと思います。しかし、欲しいものしか探せないところがデジタルの限界なんだと思うのです。一方、本屋では買うつもりのなかった本を買ってしまいます。大げさかもしれませんが、本には「人生のすべて」があり、素晴らしい「無駄」に満ちあふれています。そんな本との偶然の出会いを、街行く人の日常の中に生み出したい。ちょっとした待ち合わせ時間に、切ない恋を描く小説に出会うような場がリアル本屋なのです。人は面白いもので、欲しいものが決まっているとき、それに応えたとしても、そんなに感謝されることはないんですよね。たとえばアマゾンが本を届けてくれても熱烈に感謝はしないでしょ。でも、皆さんは本屋にぶらりと立ち寄って、買うつもりのなかった本を買ってしまうことはありませんか。本屋に立ち寄り、棚や平積みの本を眺めているうちに欲しかった本に気づくわけです。いい本屋は、言葉に出来ない欲望を次々に言語化してくれる場所だからファンがいるのだと思います。

 本屋に5分間滞在するだけで浴びる情報量というのは、とてつもないものです。僕の本屋は30坪で、7000冊しかありません。でも、恋愛小説があれば、歴史の本もある、芝居や食の本もあるし、ワインやチーズの本もある。簡単に言えば、5分間で世界一周ができるのです。5分間で世界一周する体験はネットではできないはずです。

 B&Bは東京で5年ぶりの新しい新刊書店の開業でした。本の仕入れ値は決まっているなど様々なルールを実体験しました。作家や編集者を呼んだり、店内でビールを飲めるようにしたりして、なんとか黒字経営になっています。その分、店員の負担は大きいですが。

 最後に本屋への誤解を解きたいと思います。「本屋なんて、今日行っても明日行っても同じでしょう」と言われます。違います。本屋は毎日変化しています。僕は毎朝お店に行って必ずすることがあります。面陳と呼ばれる、本の表紙を見せるような置き方がありますが、毎日一冊は別の本を面陳してきます。たとえば、今ギリシャ危機が問題になっています。そうするとギリシャ神話の本を置くわけです。オリンピックの時期には、ふだんはあまり売れない国旗図鑑です、そうすると、ちゃんと売れていきます。

 本屋は元祖セレクトショップだと思っています。本屋ごとにプレゼンテーションの仕方が違います。皆さんの好みに合う本屋がきっとあるはずです。

◇嶋浩一郎氏(博報堂ケトル社長)
1968年東京都生まれ。上智大学法学部卒。博報堂入社。著書に「なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか」。

「手にとって見たい」 来場者アンケート

 活字文化推進会議は「本屋に行こう@東京」を聴講した来場者のうち250人に、アンケートに答えてもらった。

「本をどこで買うことが多いか」(複数回答可)の質問に対し、大型書店を挙げたのは約4割だった。アマゾンなどのネット書店は約3割だった。

 リアル書店で購入する理由は、「実際に本を手にとって見たいから」「思いがけない本に出会うことがあるから」が多かった。ネット書店で購入する理由としては「すぐ手に入るから」「目当ての本が本屋で見つからないから」「配達料が無料だから」が目立った。

 リアル書店に対する希望や感想も尋ねた。「店員さんの本への情熱が伝わってくるような店に行きたい」(40代女性)「悩みを打ち明けたら、お薦めの本を示してくれるような話しやすい店員さんがいる本屋に行きたい」(40代女性)「プロの書店員の素晴らしさを知ってもらうために、コンテストのようなイベントを開いてはどうか」(50代女性)といった書店員に関するものが目立った。一方で、「記念日に本を贈ろうとおもったら、ラッピングの良くない本屋が多い」(50代女性)「品ぞろえの悪い本屋が多いから、ネットで買う頻度が増えてしまう」(40代男性)などの意見もあった。

トークセッション

ページめくる幸福

楽しい空間

【嶋】 まず林さんから本屋の魅力をお聞かせください。

【林】 本屋で棚差しを見るだけでもいいんです。子どものときに連れて行ってもらって好きな本を買ってもらったり、ぐるぐる回ったりする思い出があれば大人になってからも本屋のことを好きなんじゃないでしょうか。家を買うとき、駅前に本屋と喫茶店があることが条件でした。昼下がりに文庫本を買い込んで、隣の喫茶店でコーヒーを飲みながらページをめくる。この幸福感は本屋があってこそのものです。

【嶋】 山梨のご実家が本屋さんでしたね。

【林】 小さな店の片隅で本を読みながら店番をしていたという記憶があって、本屋を大切にしたいという気持ちは人一倍強いです。私の住む街の駅前に「幸福書房」という本屋さんがあります。作家として何かできることはないだろうかと考えて、私の本にはサインをするようにしたら、けっこう反響が大きいんです。ほかの作家の方にも「たまには近くの本屋で店番したり、ハタキをかけたりしてみない」と声を掛けているのですが、なかなか実現しません。

【嶋】 林さんがハタキをかけていたらお客さんがびっくりしますよ。(笑)

【高井】 本屋大賞の影響もあると思いますが、最近、作家の方がお店に足を運ぶことが多くなっています。文芸が今は非常に弱くなっていますから、サイン会やトークショーをやってくれるのはいいことじゃないでしょうか。

【嶋】 ネットで本を買う人が増えています。あえて本屋に行く意味はどういうところにあるのでしょうか。

【林】 私の場合、本は中身を見ないと、買うか買わないか決められない。本を開いてみて、文字の並び方、漢字の割合、ひらがなの割合を確認しないと買えないです。

【高井】 じかに本を見たり、触ったり、歩き回ったりできるところでしょう。たとえば弊社の新宿本店には120万冊の本があります。新刊コーナー、文庫コーナー、経済書コーナー……どこに行っても構わない。本好きには楽しい空間でしょう。

【林】 私たちの年代だと、紀伊國屋の新宿本店に行くというのは知の殿堂に入っていく感じです。本屋さんには「ハレ」と「ケ」があると思っていて、紀伊國屋さんはハイヒールを履いて、おしゃれをして行く「ハレ」の本屋さん、地元の本屋はサンダル履きで行く「ケ」の本屋さんみたいな感じでしょうか。

目当てなくても

【嶋】 平日は地元の本屋、週末は紀伊國屋のような大型書店というように、本屋を選ぶというのはいいですね。高校生の書評合戦「ビブリオバトル」という大会で優勝した中村さんは寄り道が禁止されていたから、友達に見張りを頼んで本屋に通っていたそうですね。

【中村】 店に入った瞬間、外の音が遠くに聞こえるような雰囲気とか、本の匂い、店員さんと、「この本面白いですよ」「今度、あの作家さんの新刊出ましたよ」というような会話が出来るところが好きです。目当ての本がなくて、たまたま別の本を手に取ってみたら、面白くて、その作家が好きになることもあります。そういう出会いが本屋にはあると思います。

【嶋】 僕が本屋に感じる魅力をそのまま話してくれましたね。高校生という立場から、こんな本屋さんが身近にあるといいのになと思うことはありますか。

【中村】 本について会話が出来る店員さんがいる本屋があるといいなと思います。目当ての本がない場合、「じゃあネットで注文しようか」とならないように、本屋さんにとっても、お客さんと店員さんのつながりが強い方がいいのではないでしょうか。

【嶋】 中村さんはどんな会話をしているのですか。

【中村】 下巻を買うときに、店員さんから「面白かった?」と聞かれて、「はい」と答えたら、「自分は上巻で読むのやめちゃった」とか。それで私は「下巻から面白くなりますよ」と話したりします。

【嶋】 いい本屋さんは、いいお客から学んで棚ぞろえがよくなっていくと聞きますが、その本屋さんもちゃんとアンテナを張って、情報をキャッチしているようですね。

【林】 中村さんの話、本当にいいなと思います。地方の書店に行って、自分の本が平積みされているのを見ると、「林です。いつもお世話になってありがとうございます」とお礼を言うのですが、たいてい「はぁ?あなた誰」みたいな顔をされます。何かすごく寂しい。

【嶋】 紀伊國屋書店の場合、書店員教育はどうされていますか。

【高井】 毎年、新入社員が20人近く入ってきます。本を読むのに慣れていて、読むスピードも速い。書評を書く書店員もいるし、中村さんのようなお客さんと会話が出来る書店員はたくさんいます。

【嶋】 エプロンに「歴史物」「恋愛小説」など、得意分野のバッジを付けていただいたら、お客さんは声を掛けやすいかもしれません。

【高井】 会場の皆さんも、どんどん書店員に声を掛けてください。このあいだ、若いお母さんから感謝のお手紙をもらいました。「子どもにどんな本を読ませたらいいのか分からない」と店員に声を掛けたら、ある本を薦められ、買って帰ったらお子さんが非常に喜んだそうなんです。

【林】 紀伊國屋さんは教育が行き届いていると思いますが、明らかにアルバイトが面倒くさそうに接客しているお店もありますよね。本に対する愛情も知識もあまり感じられない。例えば新刊でベストセラーの10位以内に入っている本について尋ねても「は?」みたいな対応はちょっとまずい。

【嶋】 書店業界全体として書店員のレベルをどうやって上げていけばいいのでしょうか。

【高井】 書店で働いている方は基本的に本が好きな方たちです。ただ、短い時間で働いている方だと、本に関する知識量などで差がどうしても出てしまいます。

【嶋】 ビブリオバトルで優勝する中村さんみたいに本の説明が上手な書店員がいるといいですね。

【高井】 レジに行列が出来るかもしれません。(笑)

素敵な一冊

【嶋】 最近、本屋さんで出会った素敵な本を一冊ずつ紹介してください。

【林】 澤地久枝さんの「14歳〈フォーティーン〉 満州開拓村からの帰還」です。14歳の時に旧満州で敗戦を迎えた澤地さんが、日本に引き揚げるまでの難民生活などをつづっておられます。今年は戦後70年でいろいろな本が出ていますが、とても目を引きました。昨日買って、締め切りの原稿があったのですが、夕飯の後、食器を水につけている間に読ませていただきました。

【中村】 私は谷川俊太郎さんの詩集「あたしとあなた」です。店員さんが「この本いいですよ」と薦めてくれました。

【林】 すごくきれいな装丁ですね。

【中村】 はい。青や金の箔(はく)が押されています。詩にはあまり興味がなかったし、ネットだったら、この美しさも分からないし、出会わなかったと思います。

【嶋】 店員さんのお薦めがあって、読むジャンルがどんどん広がって行くわけですね。高井さんはどうでしょうか。

【高井】 火坂雅志さんの遺作となった「天下 家康伝」。凡庸な家康がなぜ天下を取れたのか、新しい家康像が描かれています。POPは私が自ら書いています。

売り方に工夫

【嶋】 本屋の未来を考えて、何か提案はありますか。

【林】 偉くなる人はだいたい本が好きなんです。「子どもの時から本屋に行っていた。だけど、お金を払ったことはない、親が後から払ってくれていたのだ」と、皆さん伝記に書いている。すごく重要なことだと思います。親御さんが書店と契約して、子どもの本は後で親の口座から引き落とすようなシステムを作ってみたらどうでしょうか。(会場から拍手)

【高井】 本にお金を出すか出さないかでお子さんの学習意欲は違ってくるでしょうね。最近、大学の図書館が学生による「ブックハンティング」という試みをやっています。図書館員が本を集めてもあまり読まれないから、学生に選書を任せる。大学生に店に行ってもらい、好きな本を購入してもらい、代金は大学が支払うわけです。

【嶋】 会場の皆さんにメッセージをお願いします。

【中村】 会場を見ると、たくさんの方が来られていて、少し安心しました。シンポジウムがきっかけとなって、本屋に行こうと思ってくれる人が増えたらうれしいです。

【林】 最近、CDも売れなくなっていて、握手券を付けないことには壊滅状態です。ところが、ライブのコンサートにはファンが集まってきて、グッズを買っていくでしょう。私は作家もこれではないかと思います。講演会を開いて、本を売るという方式もあるのではないかと思います。

【高井】 中村さんが優勝したビブリオバトルですが、紀伊國屋書店も力を入れてきました。皆さん、読んだ本を日常生活で自慢しあってほしい。「源氏物語」から千年、日本人は本を読み続けてきました。後世の日本人に「平成の時代に本は読まれなくなっていたね」と言われたくありません。よく言っているんですが、「読書は忘れた頃に知恵となる」ものです。たくさんの読書の中で、たまたま良い本に出会うものなんです。どこの本屋でも結構ですから足を運んでください。

◇林真理子氏(作家)
1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部卒。1986年「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞。近作に「中島ハルコの恋愛相談室」。
◇高井昌史氏(紀伊國屋書店代表取締役社長)
1947年東京都生まれ。成蹊大学法学部卒。2008年から現職。著書に「本の力」。
◇中村朱里さん(日大三島高校3年)
1月に行われた書評合戦「第1回全国高校ビブリオバトル」で優勝。
◇嶋浩一郎氏(博報堂ケトル社長)
1968年東京都生まれ。上智大学法学部卒。博報堂入社。著書に「なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか」。

 

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