21世紀活字文化プロジェクト

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イベント情報

2010/07/05

国民読書年フォーラムin近畿大 伝える力 読書が育む

■出演
石田 衣良さん(作家)
いとう せいこうさん(作家・近畿大学文芸学部教授)
北川 達夫さん(日本教育大学院大学客員教授)
帯野 久美子さん(インターアクトジャパン代表取締役)

 「国民読書年フォーラム」が5月29日、大阪府東大阪市の近畿大で開かれた。作家の石田衣良さんが「坂の下の湖〜成熟社会の人間と読書」と題して基調講演、身近なエピソードを交えながら読書の素晴らしさについて語ると、詰めかけた約700人の市民や学生らがメモを手に熱心に耳を傾けていた。続いて石田さんと、作家で近畿大教授のいとうせいこうさん、日本教育大学院大客員教授の北川達夫さん、インターアクトジャパン代表取締役の帯野久美子さんが「言葉の力、読む力〜これから求められる人間像」をテーマにパネルディスカッション。読書によって育まれるコミュニケーション能力や電子書籍の可能性などについて話し合った。(コーディネーターは橋本五郎・読売新聞特別編集委員)

石田衣良さん講演「坂の下の湖〜成熟社会の人間と読書」 

WEB石田衣良さん本番.jpg 本を読むことのメリット、素晴らしさについてお話ししたいのですが、これが難しいんです。なぜかというと、30、40年くらい前の世代にとっては、読書はそのまま出世につながっていた。本を読んで大学に行って大企業の幹部候補生になる。基礎的な教養を身につけておくと、豊かな暮らしができるというパスポートになったんです。でも、その形は崩れてしまいました。
 
 今、読書に伴う実利を口にできないのは残念なことですが、一つだけ言えることはあります。いい仕事をしている、いい男やいい女をつかまえている人は、必ずある程度の読書家です。本を読むことで、コミュニケーション能力がぐっと上がるからです。
 
 一冊の本は、すごくいい逃げ場所になります。身を守るためのシェルターです。その本を読んでいる間は、本の世界で主人公と一緒に泣いたり笑ったりしていられる。このシェルターの素晴らしいところは、そうやって逃げているうちに、体と心が強くなっているということなんです。
 
 今春、僕は50歳になりました。30歳、40歳の時とは違い、初めて「大人になっちゃったじゃない」と思ったんです。一番感じたのは「日本の国と一緒だ」ということです。東証平均が3万9000円をつけたのが1989年12月。今は1万円を割っていますから、4分の1以下。そこまでに20年かかりました。みんなが日本が変わったんだと気がつくのに20年かかるんです。
 
 これから日本に坂本龍馬は出てこないでしょう。もう日本が一つのピークを越えてしまっているからなんです。青春が終わっちゃったんです。豊かだけれど、夢見るような大きな変化や、さらに豊かな生活は、もうないんだということが、みんな今ようやくわかったんだと思います。
 
 司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』のような時代は、もう日本には来ないだろうと思っています。山を登り、峠を越えて、これからは長い下り坂です。でも、坂の上の雲の人たちが、坂道のはるか上で見ていたキラキラした光る雲、近代的な豊かな生活、WEB聴衆本番.jpg自由や民主主義、それらを僕たちはすべて持っているんです。
 
 すてきな贈り物をたくさんもらった僕たちが「つまらない、つまらない」と言って生きるのは、あまりにももったいないことだと思います。坂道を下って行けば、その先には大きな湖があるかもしれません。空の青が映ってキラキラ光っているかもしれません。「成熟国家日本」のゆったりとした下り坂を、今あるものを最大限に生かしながら楽しみつつ生きる。そういうチャレンジが一人ひとりに求められているんじゃないでしょうか。  

パネルディスカッション
「言葉の力、読む力 〜これから求められる人間像」 

【橋本】 若者が本を読んでいないとか、コミュニケーション能力もさっぱりだとか、よく言われていますが。
 
WEBいとうせいこうさん本番.jpg【いとう】 携帯メールにしても、大量の文字は流通しているわけで、日本の歴史の中でコミュニケーションにこんなに文字を使っている時代はないともいえます。問題は、それがどんなニュアンスまで表し得るか、表現したいことを伝え合う能力があるのかということ。立身出世が目的となり得ない成熟社会で、どういう活字文化が可能なのかを考えていかなければ。

【石田】 下り坂の世の中でも、楽しみがあるって思いたいじゃないですか。本の中にはすごく豊かな世界がありますから、活字文化を通して希望を語りたいですよね。

【北川】 そもそも成長しなきゃいけないんだろうか。金持ちにならなければ、リーダーにならなければというような価値観そのものを見直すことに意味があると思います。

【帯野】 若い人のコミュニケーション能力の低下は如実で、次の世紀、日本語には形容詞しか残らないんじゃないかと危惧(きぐ)するほどです。コミュニケーション能力は、幼い頃から読んだ本の積み重ねではないかと思うので、やっぱり読書が基本だと感じています。

【いとう】 一番大事なことは、自分の価値をプレゼンテーションできる能力、人から聞き出す能力、つまり言語ですね。その言語のトレーニングとして、活字があるのかもしれません。

【石田】 ツイッターとiPadはどう思われますか。

【いとう】 ツイッターは非常に面白いメディアだと思います。一人ひとりがいろんな価値を持っているということがわかる。昔から日本には「座」の文化がありましたしね。

WEB帯野久美子さん本番.jpg【帯野】 成熟社会になるにつれ、集う場所がなくなってきた。近所つき合いや町内会なんかも崩壊しかかっている中で、ツイッターは、新しい広場なのかもしれない。集う形は変わるけど、人は人とのつながりを求めている。それぞれ人生のどこかで出会いがある。

【石田】 直木賞受賞の記者会見で、僕はこう言いました。「本に命を助けられていない人は一人もいないと思います」って。心が折れそうになる時、本は助けになるんです。あの主人公は、こういうときにこんな方法は選ばなかった。ましてや、こんなところで死のうなんて思わなかったよなという、それだけで生きる支えになる。そういう本を何冊持っているかというのは生きていく上ですごく大きな貯金ですよね。

【橋本】 しかも、今読んだから、明日に生きるという話ではなくて、その人の中に、沈殿していくものだと思うんです。それが20年、30年WEB北川達夫さん本番.jpgたって、かぐわしいその人の人格を形成していく。

【北川】 そのことに関連して気になるのは、iPad。疑問があれば、意味を教えてくれるサイトにつながるとか、すごく便利だそうです。私が子どもの頃、外国の翻訳物なんてわからないことだらけでした。だから、いろいろ想像したり、調べたりしたものです。便利さというのが、逆に紙媒体じゃないと蓄積できない部分をなくす方向に行かないかと若干危惧しています。

【いとう】 いい面があれば悪い面もある。文庫本が読みづらくなってきた世代にとって、自分用の活字の大きさにできることはすごく大事なことですよね。ただ、デジタルのデータというのは、この意見まずいなと思ったら、変えて更新してしまうことができる。そうすると、その人の言質がとれなくなる。その人の発言の責任を問う場合には、紙に変わらない形で刷るべきだと思う。

WEB橋本五郎さん本番.jpg【橋本】 石田さんの息子さんは6年生になって本格的に本を読み始めたそうですが、これからどんどん読むようになるでしょうね。やっぱり「読みたい」と思う時があるんです。その時を大事にしないと。

【石田】 ロバを水飲み場に連れて行くことはできる。でも、どんなに頑張っても飲ませることはできないんです。

【いとう】 昔だったら、「いい会社に入れないよ」と強制的に水を飲ませるやり方はあった。だけど今、それを失った。そこに全く別な視点から価値を与えてあげるのが、大人の役目じゃないでしょうか。

【帯野】 その子にとって宝物になるような本との出会いをセッティングしてあげる。チャンスを逃さないためにも、環境をもっと整備する必要があるんじゃないかと思います。

【石田】 本の世界は恐ろしいほど広くて、どんな下劣なことも最低の想像力も、もちろん最高のものもすべてがある。水辺へ連れて行っても、飲ませることはできないと言いましたけど、その答えは本当は一つなんです。「水がおいしい」ことを知ること。しかも、その味が驚くほど多彩であるということをね。

主催=近畿大学、活字文化推進会議、文字・活字文化推進機構 主管=読売新聞社
後援=文部科学省、文化庁、関西経済同友会、大阪府教委

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