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イベント情報

2012/03/09

よみっこ運動記念講演会 「言葉がはぐくむ絆」

■出演
高橋源一郎さん
佐伯一麦さん
深谷圭助さん
南沢奈央さん
橋本五郎さん
対崎奈美子さん

 「言葉がはぐくむ絆〜3・11を前に」をテーマに、東日本大震災後に活字や本が果たした役割などを考える「よみっこ運動記念講演会」が2月18日、千葉県市川市文化会館で行われた。基調講演では、作家の高橋源一郎さんが、非常時に作家に求められること、本の力を語った。パネル討論では、仙台在住の作家佐伯一麦さん、女優の南沢奈央さん、辞書引き学習法考案者の深谷圭助さんが、言葉の強さなどについて話し合った。

〈よみっこ運動〉
 市川市に長年住んだ作家の故井上ひさしさんが提唱し、地域住民が実行委員会をつくって始めた。読書を通じて子供たちが社会貢献をしたり、地域交流を深めたりする活動。

 高橋 源一郎さん基調講演
 「あの日」からぼくが考えている「正しさ」について

今こそ文学の出番

掲載 高橋源一郎写真.jpg 3・11以降、いろいろなところから意見を求められました。ニューヨーク・タイムズからも原稿の依頼が来ました。この震災が戦後日本にとってどういう意味を持つのか、文化と絡めて考察してほしいという依頼でした。私は即座に引き受けました。作家は何の専門家でしょうか。強いて言うなら言葉の専門家です。何かを尋ねられたら、難しい問いであっても、取りあえず、すぐ応答するのが作家の務め、言葉を発しながら考えていくことが作家の仕事だと思ったからです。

 震災が起きて、とても早い時期に、作家の川上弘美さんは、19年前のデビュー作を書き直し、放射能に地上が汚染されたという設定で『神様2011』という小説を発表しました。私はそこに今書かなければいけないことがあるという強い意志を感じました。作家が本能的に、あるいは緊急でやってみせた言葉に関する行いだったように思います。

 あの日から、いろいろなことがありました。私が教えている大学では、他の多くの大学同様、予定されていた卒業式が中止になりました。「交通の混乱が予想される」が理由でした。でも、「多数の死者が出たこんな時に、華やかな式典はご法度」というのが本音だったでしょう。

 ある学生が私にメールをしてきました。「周囲には、式をやるぐらいなら、ボランティアに行くという人が多い。私もそうした方がいいのでしょうか」と。行ってもいいし、行かなくてもいい。私はそう伝えました。あることが正しいのかどうかという判断は、個人が自分の責任においてすればいいことです。正しさは幾つもあると教えるのが、我々教師や作家の責務なのかもしれません。

 3・11以降、人々の間で余裕や寛大さがなくなっているように見えます。たとえば、原発について、推進、反対の意見が厳しく対立しています。本当は、その間に多数の意見があるはずです。「本当の正しさ」を突き詰めていくと、人は狭量になり、寛容さを失っていきます。時代が寛容さを失えば失うほど、文学、本の出番が増えてきます。

 この1年、いつもより多くの本を読みました。戦後の小説、鴨長明の『方丈記』など、人ごとのように感じていた、そんな過去の言葉が光り輝いて、身にしみるように分かるようになったりしました。本は今こそ我々の力になってくれるのではないでしょうか。

◇たかはし・げんいちろう 1951年、広島県生まれ。88年、『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞。2005年から明治学院大学国際学部教授。『「あの日」からぼくが考えている「正しさ」について』(河出書房新社)を刊行。

パネル討論 「本の役割、言葉の力」

言葉の力 揺るがない

【橋本】 東日本大震災発生から1年が経過しようとしています。3・11は、皆さんの日常をどのように変えたのでしょうか。

掲載 佐伯一麦写真.jpg【佐伯】 今、この場所にいても、講演会が終わるまで地震が起きなければいいなと思ってしまいます。もう一つは、時間の流れが断ち切られたように感じることです。小説を執筆していても、時間を書こうとすると、手がこわばってしまうようなことがあります。

【橋本】 南沢さんは都内で舞台の稽古中だったそうですね。

【南沢】 公演は4日目に再開されましたが、こんな時に舞台をやっていいのかなという思いもありました。ただ、演技をしていてお客様に拍手を頂けると、今、自分でできることを全力でやらなければと強く感じました。女優という仕事について考えさせられた時期でしたね。

【橋本】 深谷さんは、自分で調べようとした言葉を付箋に書いて、辞書のその言葉のところに貼り付けていくという「辞書引き学習」のイベントを被災地でも開かれています。子どもたちの反応はどうでしたか。

助写真.jpg【深谷】 突然、避難を強いられ、読む本もないところに、辞書を持っていくと、すごく喜んでくれました。前向きになれる言葉を読んで、自らを勇気づけたり、奮い立たせたりする子供が多かった。子どもが困難を乗り越えていこうとする力は大きいと思います。

【橋本】 大人よりも子どもの方が復元力が大きいということでしょうか。3・11の大震災は、そうした言葉の強さ、あるいは怖さ、役割について考えさせられる場面が多かったと思います。

【佐伯】 津波の映像は東京でもいち早く流れていたようですが、我が家は5日間停電をしていたので、ラジオで情報を得て、やがて新聞で詳しい状況を知りました。映像を早い段階で見ていたら、パニックになっていたかもしれない。言葉や活字がクッションとなる、人間の身体(からだ)に見合った災害の受け止め方というものがあると感じました。

掲載 南沢奈央写真.jpg【南沢】 ラジオのパーソナリティーをやっていて、人波にのみ込まれそうだという表現は、津波を連想させるから変えた方がいいかなと考えたり、言葉に対する意識はかなり変わりました。それから、ドラマや舞台の台本に目を通しながら、このセリフは誰に伝えたいのか、この言葉で言いたいことが伝わるのだろうかと、より深く考えるようになりました。

【橋本】 言葉が生死を左右するケースもあった。岩手・釜石では、とにかく逃げるという「津波てんでんこ」という言葉が住民の頭の中にあって、多くの人が避難できた。反面、気象庁が出す津波警報の表現が住民の逃げ遅れにつながったのでは、という指摘もあります。

【深谷】 今回の震災では東京も大きな影響を受けたことで、日本全体の防災への意識が変わっていくのではないかと期待しています。どのように人々が考え、行動していったのかを、言葉としてしっかりと受け継いでいくことが一番大事ではないでしょうか。
        ◇
掲載 橋本五郎写真.jpg【橋本】 この文明国で今なお3000人以上の行方が分からないとはどういうことか。ひたすら便利さという名の文明を追い求めてきた我々は、生活のあり方を根本から問われているのかもしれません。

【佐伯】 停電していた5日間、月と星が非常に美しく見えていました。仙台は年末に光のページェントというイベントがあって、イルミネーションが並木道を彩ります。でも、本当は空を見上げて満天の星を見上げるほうがいいのではないだろうか、そういうことも一度考えてみるべきではないでしょうか。

【南沢】 同じ屋根の下で暮らしていても、自分の部屋にいることが多かった家族が、震災後はリビングに集う時間が長くなり、会話が増えました。家族のあり方、生活様式が無意識のうちに変わりつつあるように思います。

【橋本】 被災地では再開された書店に多くの人が詰めかけ、活字、本が果たす役割が改めて見直されています。

【深谷】 電気がなくなれば携帯電話は全く役に立たない。新しくて便利なものは、非常時にもろいことがわかった。反面、避難所に貼られた壁新聞が人々の心を勇気づけたというニュースも流れました。活字は決してなくならないということを痛感しました。

【佐伯】 ネットの普及で、情報や知識は簡単に得られる時代です。けれども、我々が本当に必要としているのは、情理を兼ね備えている言葉ではないでしょうか。本に書かれている言葉は、誰が、いつ書いたかが明確で、出所がはっきりとしている。そういう言葉は強いと思います。

◇さえき・かずみ 1959年、仙台市生まれ。電気工、週刊誌記者などを経て、91年『ア・ルース・ボーイ』で三島由紀夫賞、2005年『鉄塔家族』で大佛次郎賞。仙台で執筆活動中。
◇ふかや・けいすけ 1965年、愛知県生まれ。小中学校教諭、立命館小学校校長を経て、中部大現代教育学部准教授。「辞書引き学習法」を考案、被災地でも講座を開催。
◇みなみさわ・なお 1990年、埼玉県生まれ。2006年、ドラマ「恋する日曜日・ニュータイプ」でデビュー。4月からNHK・Eテレ「サイエンスZERO」のナビゲーター。立教大在学中。趣味は読書。
◇はしもと・ごろう 1946年、秋田県生まれ。読売新聞社政治部長、論説委員などを経て、現在、同特別編集委員。著書に『範は歴史にあり』(藤原書店)など。

 被災図書館 復興を支援

  基調講演とパネル討論の間には、全国学校図書館協議会震災対応委員長の対崎奈美子さんが、津波などによる被害を受けた被災地の学校図書館の現状を報告した。

 ロビーには、活字文化推進会議などが行っている学校図書館の復興を支援する「学校図書館げんきプロジェクト」の募金箱も設置され、来場者から計4万3055円の浄財が寄せられた。

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