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学校図書館げんきプロジェクト

2013/10/07

学校図書館げんきフォーラム@宮城

■出演
辻村深月さん(作家)ほか

学校図書館の活用法を考え、読書の魅力を伝える「学校図書館げんきフォーラム@宮城」(活字文化推進会議など主催)が8月3日、仙台市で開かれた。東日本大震災で大きな被害を受けた岩手、宮城、福島3県の小中高校に本を届ける「学校図書館げんきプロジェクト」の一環だ。一部で作家の辻村深月さんの基調講演、実践講義、二部でパネル討論が行われ、約200人の来場者が聴き入った。

 

基調講演 辻村深月さん 書き手の情熱実感


 基調講演「物語の力」は、鵜飼哲夫・読売新聞編集委員が聞き手を務めた。
     ◇
 鵜飼 辻村さんは本との出会いが早いですね。
 辻村 図書館が読書の世界の入り口になりました。小学校の時、本を積んだ地域の図書館のワゴン車が近所の公民館に来てくれていたんです。毎週1回本を借りて、返してというのがすごく楽しみでした。
 鵜飼 ペンネームに「辻」の一字をつけるほどあこがれの作家の綾辻行人さんを知ったのはいつのことですか。辻村深月 フォーラム写真.jpg
 辻村 読んだのは小学6年生の時で、こんなに面白いものを書いている人が同時代にいるんだと衝撃を受けました。その出会いがあったからこそ、作家を志したのだろうと思います。
 鵜飼 図書館の思い出はどうですか。
 辻村 中学校のすぐ隣が地域の図書館でした。よく通って家族の分の貸出券を使って何冊も借りていました。一番思い入れのあるのが、小学1年生の時の司書の先生です。親しみを込めて、おばあちゃん先生と呼んでいました。すごく優しくしてくださって。先生が2年間で異動されてしまう時に、初めて人との別れが嫌で泣くという経験をしました。先生から、遊びの場所と学びの場所は違うことを教わりました。どんなに本を読むことが楽しくても、休み時間が終わったら、授業のために教室に戻る。本を読むことは遊びでしょうという意識をくれたのがうれしくて。
 鵜飼 物語の面白さはどんなところにあるのでしょう。
 辻村 どんなジャンルでも、その世界に没頭すること。私のことが書いてあると思えるような一冊に出会ったら、この経験をまたしたいという気持ちから、いろいろな本に手を伸ばすことになると思います。
     ◇
 鵜飼 思い出の本を挙げてください。
 辻村 綾辻さんと、もう一人、すごく影響を受けたと思うのが宮部みゆきさん。宮部さんの小説で、ある登場人物が女の子に向かって言った言葉に、世の中の人はよくも悪くも、君のことをそんなに気にしていないよという意味のものがあって、最初に読んだ時、境遇は全く違うけど胸に突き刺さるものを感じて、それからすごく楽になったんです。小説に出てくる言葉は、教訓という概念をはるかに超えて、人に響くことがあると感じました。
 鵜飼 綾辻さんに手紙も書いたそうですね。
 辻村 中学校後半から書くようになりました。雑誌の企画で、手紙を書くと、綾辻さんに渡り、抽選で3人にサイン本が当たるというものが当時あり、100枚ぐらい書きました。
 鵜飼 100枚ですか!
 辻村 サイン本を無事いただきましたけど、ストーカーみたいだなと反省して、今後はストーカーではありませんという手紙を書いたんです。そうしたら、お返事を下さったんです。その時、本の向こう側には人がいて、その人が持っている情熱、思いによって自分は今読ませてもらっていると実感しました。綾辻さんは、初めて本の向こう側と私をつなげてくださった人。その手紙は励みになりました。
 鵜飼 後日譚(ごじつたん)もあると聞いています。
 辻村 そうなんです。メフィスト賞の結果を待っている時、綾辻さんから受賞を知らせる電話をいただきました。その時、デビューまでは情熱があれば一点突破できるかもしれないけど、大変なのはこの後です。だけど、書きたいという情熱があるうちは、その情熱はあなたから逃げないので取り組んでみてください、と言われました。
 鵜飼 フェリーで本土に通う高校生が主人公の新作『島はぼくらと』が出ました。いい人も、困った大人も、小さな島で、みんないきいきしている。とても元気が出る小説です。これからの抱負をお願いします。
 辻村 私にとって、本の一番の魅力は、その本を「私のために書いてもらったよう」と勘違いさせてもらえるところ。著者以上の愛情を持って作品が愛されることは実際にあるはずで、読者ひとりひとりのもとに「私のための本」と思ってもらえる小説を届けていきたいです。
     ◇
 つじむら・みづき 1980年、山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年第31回メフィスト賞を受けた『冷たい校舎の時は止まる』でデビュー。10年、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』で直木賞、吉川英治文学新人賞候補。11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』が第147回直木賞受賞。直木賞受賞後第1作となる『島はぼくらと』(講談社)を今年6月に出版。

パネル討論  子供に働きかけ必要


 ◇深谷優子さん 東北大学大学院教育学研究科准教授
 ◇滝川洋二さん NPO法人ガリレオ工房理事長
 ◇森田盛行さん 全国学校図書館協議会理事長
 二部では、東北大学准教授の深谷優子さんが、中高生の読書傾向などを調査した「子どもの読書活動と人材育成に関する調査研究」結果=要旨別掲=を報告、続いてパネル討論で学校図書館の可能性などを探った。深谷優子 フォーラム写真.jpg
 森田 滝川さん、深谷さんの報告について感想をお願いします。
 滝川 世界的な学力調査でも、家庭にたくさん本があるだけで子供の学力が高いという結果が出ています。報告を聞き、ああなるほどと思いました。
 森田 深谷さん、ほかの調査も蔵書数と学力の相関があることを提示いただきましたが、どうですか。
 深谷 ある程度、読書習慣と学力の関連については各種の調査で報告されています。定期的に本を読む習慣があるということは確実に学力や意識、意欲の向上につながっていきます。
 森田 読書の効能をもう少し詳しくお願いします。
 深谷 本の良さは、時間や空間を超えて、違う時代や遠い国に生きた人と出会い、自分のペースでじっくり向き合えることです。
 森田 時空を超えて色々な方と出会えるという良さがありながら、報告によると、約80%の子供が学校図書館、公共図書館で本を借りていないんですね。
 深谷 図書館に本があるだけでは不十分ということが示されていますので、読みたいと思える本と子供をつなげる働きかけが必要ではないかと思います。
 森田 どういう働きかけが良いのでしょう。
 深谷 個人的に知っている人の推薦が有効ではないでしょうか。まず学校司書や担任から滝川洋二 フォーラム写真.jpgの本の紹介ですね。クラスで気に入った本をお互い発表しあったり、学級文庫を設置したりすることも効果があるようです。
 森田 滝川さん、理科読の実験等を通し、本の読み方でお薦めはありますか。
 滝川 科学は遠くのことというふうに思わないで、ぜひ学校の理科の先生、社会科の先生、国語の先生、いろいろな先生と図書館の先生が取り組んで、これはこっちと結びつけると子供がもっと広がるということを学校の中で、共有しながら文化を作っていただければと思います。
 森田 学校図書館は持っている力をまだ十分発揮していないのではないかと思います。学校図書館の可能性をお話しください。
 滝川 司書の方の話を聞くと、毎月テーマを決めて本を紹介していくとか、いろいろと工夫をされているようです。色々な隠れた本をこういう視点で見ると面白いよと発信していただけると、生徒にとってずいぶんプラスになるのではないかなと思います。
 森田 深谷さん、いかがですか。
 深谷 子供の家庭環境による違い、格差というのが確かにあるわけですが、学校図書館は、それを超えて子供の健全育成を保森田盛行 フォーラム写真.jpg障する場だと考えます。うまく機能させるには、本と子供をつなぐ人が必要で、その人数や教育も大事です。あと、書籍購入費などで学校間格差があり、そういった格差を解消していくうえで、自治体の読書推進施策が重要であり、今後は自治体に対してもスタッフの人数や教育の充実を働きかける必要があるのではないかと思います。
 森田 私たちは学校間格差、自治体間格差を毎年調査していますが、図書購入費は年間2、3万円から100万円を超えるものと、差が大きくなっています。学校司書の配置も自治体でばらつきがあります。一方で、本がない、新聞を取っていない家庭が増えています。活字に慣れ親しんでいない子がどこで活字や本に親しむのかと言うと、学校図書館ではないでしょうか。学校図書館の可能性は非常に大きなものがあります。今日のフォーラムを、学校図書館をさらに活用するきっかけにできればと考えます。

 ◇ふかや・ゆうこ 東京都生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。博士(教育学)。専門は教育心理学。日本学術振興会特別研究員を経て現職。日本読書学会会員。国立青少年教育振興機構「子どもの読書活動と人材育成に関する調査研究会」(2011〜12年度)委員。
 ◇たきかわ・ようじ 岡山県生まれ。埼玉大学理工学部卒業。国際基督教大学高校教諭、東京大学教養学部特任教授などを経て東海大学教育研究開発研究所所長。2000年ガリレオ工房設立。「世界一受けたい授業」「ほこ×たて」などテレビ番組に出演。テレビ、映画の実験監修も務める。
 ◇もりた・もりゆきさん 東京都生まれ。中央大学法学部卒業。埼玉県の小学校教諭を経て、1997年、全国学校図書館協議会事務局入り。研究・調査部長、事務局長などを歴任、2008年、理事長就任。著書に『学校図書館の活用名人になる』『気になる著作権 Q&A』など。

実践講義 光の現象 体験 

 
 ガリレオ工房理事長の滝川洋二さんによる実践講義「理科読(りかどく)をはじめよう」は「光」がテーマ。聴講客にも実験キットが配布され、光が生む様々な現象を体験した。
 滝川さんは「光の色は虹の7色だが、赤、緑、青の3色をまぜると白になる」と説明。3色の照明を用意、赤と緑をまぜると黄色になり、青をまぜると説明通り白になると、会場がどよめいた。影の実験では、恐竜をかたどった同じ大きさの紙を2枚用意、1メートルほど離して、光を当てると、同じ大きさでも、光源との位置で影の大きさが変わることを見せた。
 次に行ったのは、白熱電球、蛍光灯、LEDの三つの電球と、まざり合った色の光を元の光に分けることができる分光シートを使う実験。シートを通して白熱電球とLEDを見ると、虹の7色を見ることができ、客席のあちこちで歓声が上がった。ビー玉プロジェクターと銘打った実験では、ビー玉、LED、電池、紙のスクリーンを使用。ビー玉の前に透明シートを置き、LEDの光を当て、紙のスクリーンに「仙」と「台」という文字を浮かび上がらせた。

「子供と読書」調査報告 東北大・深谷さん                 借りぬ生徒80%


 調査は2012年3月、岩手、宮城、福島3県を除く全国の中学2年生、高校2年生各約1万人を対象に行った。
 これまでの読書活動や現在の読書量が多いほど意識、意欲、能力が高い。読書をしたから高くなったという因果関係は強く主張できないが、関連性はある。青少年育成に読書が機能するという実証的な証拠を示し、これが読書の効能となる。
 1か月に本を読まなかった中学生は約15%、高校生は約40%いる。理由は、1番が「読む習慣がない」、2番目は「読みたい本がない」で、読みたい本があれば読むのではないか。
 地域や学校の図書館で1か月に借りる本の冊数を調べると、借りない生徒が約80%いる。また、読まない、借りない生徒は一定数いて割合は高校生の方が高い。
 学校図書館、地域図書館が活用されていない。個人格差があるなか、どの生徒も平等に本と接する場である学校図書館をうまく機能させていくことが求められる。

 


 主催=活字文化推進会議、全国学校図書館協議会、文字・活字文化推進機構
 主管=読売新聞社
 後援=文部科学省、宮城県教育委員会、仙台市教育委員会
 協力=日本生活協同組合連合会
 

 

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