21世紀活字文化プロジェクト

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活字文化公開講座

2005/06/29

九州大学で大沢在昌さんが会場の笑いを誘う

■出演
大沢在昌さん(作家)
石川巧さん(九州大学大学院教授)

 6月18日、九州大学で開かれた「活字文化公開講座」は、約250人が参加。作家の大沢在昌さんが「ミステリーと私」をタイトルに基調講演を行い、ユーモアを交えた興味深い話に聴講者は熱心に聞き入りました。

 大沢さんに続いて、九州大学大学院助教授の石川巧さん(日本近代文学専攻)が「『刑事』の登場」と題し関連講演。その後行われた2人による対談も聴講者の関心をそそりました。

 対談では、石川さんが「子供たちの活字離れを防ぐにはどうすればいいのでしょうか」と水を向けると、大沢さんは「文科省や教育委員会は、つまらない課題図書をやめること。もっと、面白い本を与えなければ。もっとも、私の本は教育上良くないが」と応じ、会場の笑いを誘いました。

 講演終了後に行われたサイン会では、長い行列ができるなか、大沢さんは一人ひとりに丁寧に応じ、聴講者は大いに満足した様子でした。

 聴講した同大学経済学部3年の稲田光朗さん(21)は「大沢さんの作品を読んだことはなかったが、生の話を聞いて、興味を持った。早速、読みたい」と感想を話しました。

基調講演「書店は情報発信の場〜“永久初版作家”口コミが救った」/大沢在昌さん

「ミステリーと私」

20050629_01.jpg どうして小説を書くようになったかを考えますと、家に本がたくさんあったからというのが、一番簡単な答えです。私の父親は新聞社に勤めており、家に本がたくさんあったうえ、やたらに本を買い与えてくれました。

 小学校高学年から中学生のころ、エラリー・クイーン、アガサ・クリスティといった、探偵小説に引き付けられましたが、中学3年生の時に、アメリカのハードボイルド小説と出会い、読み漁(あさ)りました。

 日本のハードボイルド小説は、生島治郎さんが代表格でした。一連の作品を読んで、完全に生島さんの小説世界のとりこになりました。

 ある時、生島さんに、「お前、ちゃんと仕事してんのか」と言われて、「書き下ろし小説を書いていますが、なかなか前に進まなくて」と言うと、「今年中に書き上げると約束しろ」と言われるんです。そうやって、書き上げたのが新宿鮫でした。

 新宿鮫が本屋さんに並んで、1週間くらいして本屋さんに行きました。ないんです。2週間くらいしましたら、担当者から電話がかかってきて「新宿鮫、売れてます。重版します」と。非常にうれしかったですね。

 新宿鮫は私の29冊目の本です。それまで売れなかったのに、突然本屋さんの店頭から消えるくらいに売れていく。考えられる理由は一つしかない、口コミなんです。「これ面白かったよ」と誰かが言ってくれる。「おお、じゃあ読んでみよう」というように、口から口に情報が伝わる。本屋さんというのはやはり情報交換の場なんだなとその時に思いました。

20050629_02.jpg そうやって、ある日を境に私の環境は激変してしまいました。永久初版作家だった私の本がベストセラーになり、そして、それまでまったく売れなかったそれ以前の本も売れるようになりました。

 でも、今から考えますと、まったく売れない私の作品をいろんな出版社がちゃんと本にして出してくれました。それは、出版界に今よりも力があったからでしょう。

 しかし、正直言って、今はそういう時代ではなくなりました。本が売れなくなっています。1冊が売れないから2種類出して売り上げを確保するという状況になってきています。本屋さんは、本の洪水になってしまう。それは出版界にとって結局はタコの足食いと同じと思います。出版社の方はあまりたくさん本を出さないで、それを長く売るということを考えてほしい。

 どんな本であっても、それを書いた人間は苦労をしていますし、作った編集者、印刷した人、製本した人、そして運んでくれた人、本屋さんで売ってくれた人、いろんな方の手を経ている。本というのはそれ自体がドラマですが、そのものにもドラマが含まれています。どうぞ皆さん、これからも本を愛してください。

関連講演「新宿鮫」弱さ持つヒーロー/石川巧さん

「『刑事』の登場」

20050629_03.jpg 明治初期に探偵という言葉が出てきたとき、それはルポルタージュを意味していました。普通の人が行けない場所に行ってそこで見えないところを調べてくる、あるいは報告する、それが探偵という意味として使われていたわけです。

 今でもそのルポルタージュ精神の基本は失われていないと思います。特に大沢さんの物語はルポルタージュの資質を持っていると考えています。

 大正時代に「新青年」という雑誌が創刊され、江戸川乱歩などを中心として、トリックを解いていくスタイルが主流になります。戦後になって、松本清張が現れ、魅力的な存在として刑事を登場させることによって多くの読者の共感を得ます。

 大沢さんは、小説の持っている本質的な問題をずっと追求していると思います。新しいものを書き続ける一方で、ミステリーというものが持っているある限界と、それから可能性というものを常に複眼的に見つめていく姿勢があります。

 新宿鮫でいいますと、主人公の鮫島は、スーパースターではないわけです。おびえたり、恐怖を感じる、そういうある弱さを持っています。晶という愛する存在を守るために憶病になる。そこにたぶん、ある現代的な問題点があると思います。

 大沢さんの描く刑事たちというのは警察機構とか権力と対峙(たいじ)する一方で、愛する女さえ守ることができないという、そういうおびえる場所にいるわけです。

 個人の卑小な世界が実は大きな世界システムと連環していくスタイル。それこそ新宿鮫の魅力であり、大沢在昌の本領だと思います。

対談

「ハードボイルドむしろ女性 つまらない課題図書やめよう」

20050629_04.jpg【石川】 女性主人公、あるいは女性の読者について、どんな考えをお持ちですか。

【大沢】 今の時代、強い意志を持ち、世間の流れ、周りの状況に流されることなく生き抜くというハードボイルドな生き方は、むしろ男性よりも女性の方が要求されていると思うんです。日本は男性優位社会ですから。

【石川】 大沢さんにとって面白いとはどういうものでしょうか。

【大沢】 時間を忘れるということじゃないでしょうか。自分の書いたものが後世に残ってほしいとか、思わないんです。私の本を読んだ時に、あっという間に2時間が過ぎてしまった、気が付たら徹夜してしまいました、そう言われることがうれしい。

【石川】 読売新聞社は活字文化の普及に取り組んでいますが、子供たちが活字に親しみ、読書を楽しいと思えるようになるために、何が必要でしょうか。

【大沢】 つまらない課題図書をやめることでしょう。ハリポタでもいいですし、とにかく面白いなと思うものを与えてあげないとダメだと思うんです。人間の苦悩とかそんなものは今の子供たちは山ほどしょってるんですよ。これほど未来に希望をもてない時代というのは過去にないんです。だったらせめて、読んで面白かったという本を与えなくては。

【大沢】 生きていく悩みを読書で解決するならば、そういう本に求めていくでしょうし、そんなものは解決できないと思ったら、自分でもっと現実的な解決をするでしょう。本を読んでいたら、もしかして小説を書いていたら、この子は極端な犯罪に行かなかったのではないかということもあるんです。楽しい読書をさせてあげたい。つまらない本を読ますなよ、と言いたいです。

(2005/06/29)

大沢在昌(おおさわ・ありまさ)
1956年名古屋生まれ。慶応大中退。79年、「感傷の街角」で第1回小説推理新人賞、「新宿鮫」で吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞受賞。94年「無間人形 新宿鮫4」で直木賞。「新宿鮫」シリーズはすべてベストセラー。近著に「パンドラ・アイランド」「ニッポン泥棒」など。現在、日本推理作家協会理事長。趣味はゴルフ、釣りなど幅広い。同じ大沢オフィスに所属する宮部みゆき、京極夏彦の3人で朗読会も開いている。
石川巧(いしかわ・たくみ)
九州大学大学院比較社会文化研究院助教授。1963年、秋田県生まれ。立教大学大学院博士後期課程満期退学。山口大学専任講師、助教授を経て現職。専門は日本近代文学。川端康成、横光利一、菊池寛、プロレタリア文学などを中心に、大正後期から昭和にかけての文学・文化を研究。

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