21世紀活字文化プロジェクト

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活字文化公開講座

2009/11/04

活字文化公開講座in水都大阪 本は食物や水と同じ

■出演
角田光代さん

 読売新聞社などが進める21世紀活字文化プロジェクトの一環として、「活字文化公開講座 in水都大阪2009」(活字文化推進会議、京都女子大学主催)が、大阪市中央区の朝日生命ホールで行われた。京都女子大を運営する京都女子学園の創立100周年を記念した事業で、作家の角田光代さんが「私たちの世界には小説がある」と題して講演。矢井田修・同大教授が進行役を務め、学生代表2人とトークを繰り広げた。

角田光代さん 講演 「私たちの世界には小説がある」

 角田さんWeb用.jpg今日は書き手としてではなく、読み手として「本がある世界で良かった」という話をしたいと思います。極論を言えば、小説がなくとも生きていける。じゃあ、本は不要なのか。
 私は一人旅が趣味で10年ほど前、ミャンマーのパゴンという遺跡の町を訪れた際、滞在先の人がホームレスタウンに連れて行ってくれました。広大な空き地に路上生活者が集まり、共同水道を引いて、みんなで勝手に暮らしている場所です。
 ちっちゃなわらぶきの家がわっとあって、床屋さん、古着屋さん、コーヒー屋さん、屋台のような飲食店があって、本屋さんがあった。地べたに布を広げ、ぼろぼろの薄っぺらな本から、分厚い本、辞書まで全部売っていて、子どもたちがしゃがみこんでずっと本を読んでいる。必要最低限のものしかないホームレスタウンに、本屋がある。私たちが生きていく上で、本は食物や水と同じように必要なんじゃないか、と思った。
 本の力、それは私たちのイメージを喚起する力です。例えば主人公がコーヒーカップを持つ場合、漫画は絵で、映画は映像で見せてくれる。でも活字なら1行を読むうちに、私たちはそれがどんなカップなのか、取っ手の感触は、コーヒーは熱いのか冷たいのか、すべてを無意識のうちに想像する。
 つまり読書は、想像力を鍛えてくれる。想像力が鍛えられると、私だけが正しいのではなく、ほかにも生きている人がいて、自分とは全然違うことがわかる。
 ただ読書は、若いうちに始めないと難しい。本だけでなく学問、文化、絵画、数学、歴史……学校で教わることのほとんどは、扉なのだと思う。どの扉を開けるのか。私自身は幼稚園のころ話すのが苦手で、友達ができず、ずっと一人で本を読んでいた。一回のめり込めば、本は人を離しません。「もっといろんな扉に興味を持てばよかった」とは思うのですが、それでもやっぱり本と出会えてよかった。
 今は一見面白いこと、簡単に手に入る面白さがあり過ぎて、興味の扉を見つけにくい時代かもしれません。例えば携帯電話をいじっていると、30分ぐらい平気でたってしまう。でも本なら、その30分で別の場所に行って帰ってこられる。
 「豊かな社会とは何か」と考える時、私が思い出すのはあのホームレスタウンです。経済で量れない価値が確固としてある。本を読む楽しみに代表されるように、経済でない価値観があった方が、私たちは豊かに生きやすいと思うのです。

◇かくた・みつよ 1967年、横浜市生まれ。90年『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受けデビュー。現代を生きる若い世代や女性の心理をリアリティーをもって描く。2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、06年『ロック母』で川端康成文学賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞など、著書多数。旅好きとしても知られる。

京都女子大学生代表とトーク

 ◆書くのも読むのも大好き 言葉増やすのは本がいい
 
 矢井田 最近の学生は、本を読むよりパソコンと会話している。今、どのぐらい読書をしてますか。

 学生 就職活動を控え、一会場Web用.jpg般常識として有名な本は知っておきたいので週1冊は読むようにしています。

 角田 私は書くのも好きですが、読むのも大好きでトイレ、お風呂、電車、昼食、エレベーターに乗っている時、すべての生活のすき間に本が入っています。

 矢井田 読む本はどうやって選ぶのですか?

 角田 新刊が出たら必ず買う作家が何人かいて、あとは本屋さんで見渡すと立ち上がって見える本を。

 矢井田 娘も本好きで、月に5冊は読む。男親としてはドキッとする歌詞もあるのだが、必ずしも実体験ではないと思う。娘は歌詞も曲も、脈絡なく浮かんでくると言うんですよ。例えば食卓で話しながらポッと立っていって書く。角田さんも、すらすら文章が出てくるんですか?

 角田 はい。ただ私の場合、そう何か降りてくることはなく、机の前に座っていないと書けないんです。

 矢井田 ところでインターネット、パソコン、携帯電話が普及して、活字や言葉は変化したと思いますか?

 角田 ある年配の男性が、20代前半の娘さんと会話がなかったのに、互いに携帯を持ったらメールのやりとりをするようになったというんです。それで、お父さんが「熱があるので、今から帰る」と知らせたら、漢字1文字で「弱」と返ってきたんですって。面白いと思いませんか? メールがなければ存在しなかった会話ってあると思います。

 矢井田 確かに、携帯から新しい何かが生まれるかもしれません。

 角田 どんな職業につこうが、どんな大人になろうが、誰もが言葉を使って生きている。言葉が出てこなくてイライラすることが、今の若い人に多い気がする。では、どうやって言葉を増やすかというと、やっぱり本がてっとり早いんです。

 矢井田 学生側は、活字離れの実感がありますか?

 学生 携帯の漢字変換機能を辞書代わりにしていて、漢字力が落ちた気がします。

 学生 メールの短い言葉のやりとりでは誤解もあるし、正確に伝わっていないことも。言葉って難しい。ブログを書けば、うまく書けるようになるでしょうか?

 角田 書くだけでは語彙(ごい)は増えないですね。つらいと100回書いても、つらい気持ちは変わらないけれど、なぜつらいのか、どうしてそうなったのかを考える時、言葉が重要になってくる。書くことと考えることはつながっているんです。

 矢井田 理系の学生でも、専門分野に限らず幅広い教養を身につけた人のほうが、ある現象に対して様々な角度からアタックできる。本を読むことは、絶対に無駄ではないですね。対談Web用.jpg

◇矢井田修・京都女子大教授(家政学部生活造形学科)はシンガー・ソングライター、矢井田瞳さんの父。織らない布「不織布」の開発、研究を行う。トークには同大3年の尾崎由梨さん(写真左から3人目)、福島侑子さん(同右端)が参加した。
角田光代さんが薦める「学生時代に読んでおきたい5冊」

▽尾崎翠『第七官界彷徨』
  私自身が学生時代に出会い、大好きになった作家。今、読んでも新しい小説。

▽ジョン・アーヴィング『ホテル・ニューハンプシャー』
   30代で読み、あまりの面白さになぜもっと早く読まなかったかと後悔した。

▽ドストエフスキー『罪と罰』
  こういう大作は、若くて時間と体力があるうちでないと、なかなか読めない。

▽開高健『青い月曜日』
  作家が10〜20代のころ何をしていたか。本で、同世代の開高に出会える。

▽宮本輝『骸骨ビルの庭』
    私の学生時代、同級生がみんな宮本輝を読んでいた。その理由が、この最新作を読んでなんとなくわかった 
矢井田修さんが薦める3冊

▽吉川英治『三国志』
  歴史上の人物の行動が、自分の生き方に示唆を与えてくれる。

▽イザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』
  一神教と多神教など、ユダヤ人との比較を通じて浮かびあがる斬新な現代日本人論。

▽山崎豊子『白い巨塔』
  京都女子大出身の国民的作家による代表作。実は主人公のモデルを知っている。 
〈21世紀活字文化プロジェクト〉
 読売新聞社が作家や翻訳家ら文化人、出版業界に呼びかけ「活字文化推進会議」(委員長=山崎正和・劇作家、評論家)を結成し、取り組んでいる事業です。本の魅力を作家らが語り、おすすめ本を紹介する「新!読書生活」、著名人や作家を講師に招き、大学生だけでなく一般にも開放する「活字文化公開講座」など、活動は多岐にわたります。

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