21世紀活字文化プロジェクト

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活字文化公開講座

2012/01/23

創価大学 活字文化公開講座

■出演
石田衣良さん
山中正樹さん

 21世紀活字文化プロジェクトの一環である「活字文化公開講座」(主催・活字文化推進会議、創価大学、主管・読売新聞社)が昨年12月17日、東京都八王子市の創価大学で開かれた。作家の石田衣良さんが「本の世界はどう変わったか」と題して基調講演を行った。続いて、同大文学部准教授の山中正樹さんとの対談では、読書論からお薦めの本にも話題は及び、一般市民も含めた約350人の参加者を大いに沸かせていた。

主催者挨拶 山本英夫 創価大学学長

掲載 山本学長.jpg活字文化は偉大な教師

 活字文化は、若者の心に光をともす偉大な教師ではないでしょうか。本学では、こよなく本を愛する創立者、池田大作先生の気持ちをくんで、4年間で500冊を読もうという運動を行っております。100万冊以上の蔵書がある図書館は、学生たちでいつもいっぱいです。活字文化を通して、本学が建学の理念に掲げている教育・文化・平和の世紀を構築し、人々に浸透させていくことが大切だと考えています。

石田衣良さん基調講演 「本の世界はどう変わったか」

日本の小説 強力なソフトに

掲載 講演 石田衣良氏.jpg あちこちの大学で学生と話をする時に、ここ1か月で本を何冊読んだか尋ねています。すると、大体3分の1から半数は全く読んでいないか、せいぜい1冊。特定の人以外は本を読まなくなったと感じます。

 昔、本を読むということが出世の道具でした。国立大学に入って、ドイツの哲学書、フランス小説、イギリスの詩集というワンセットの教養を読んでおけば、大企業に入って幹部候補生になれた時代がありました。もちろん、仲間同士で読んでいないのは恥ずかしいという気持ちもありましたけど。

 (大学を出ていれば出世できるという)ホワイトカラーの神話が崩れてから、本を読まなくてもいいことになってしまった。それに、政治家だって、作家だって、偉くなっている人はあまり本を読まない。目の前のことが楽しければいいという風潮も強まっています。

 アメリカで、本の購買量と所得の相関関係を調べたデータがあります。日本の文部科学省のようなお役所が調べているのですが、読む家庭ほど豊かであるという傾向が出ています。本を読むことが豊かさにつながっていると、お子さんに言って下さい。ただ、立派な本だけを薦めることはありませんよ。小学生の時に、アメリカの1950年代のパニックSFに夢中になりました。作家になってみたいと目覚めたのも、これほど人を楽しませられるいい仕事はないと思ったからです。

 皆さんもこれが本当に面白いというジャンルに思い切り飛び込んでみてほしい。男性同士の恋を扱ったボーイズラブ、純愛小説のハーレクインロマンスでも構わない。最近は読者が保守的になっていて、特定の本に偏る傾向がありますけど、自分のセンスを信じて、井戸を掘るようにガーと読んでみて下さい。

 もう一つお願いしたいのは、おしゃれで格好良くなってほしいということ。貿易輸出国としての日本は成熟し、これからはソフトを売っていくようになる。実は日本の作家の本が、中国、台湾、韓国をはじめ、タイ、シンガポールなどアジアで良く売れているのです。僕の本でさえ、韓国で30冊ぐらい訳されています。日本人のライフスタイルに憧れて、日本人のように暮らしたいと思われているからです。そう思われている限り、小説も映画も音楽も日本のソフトはすごく強い力を持ち続けます。

 ただ、日本は震災からの復興という大きな仕事に加えて、ひたすら借金を返済していかなきゃいけない。おしゃれをして楽しい生活をしているふりだけでもいい。机の下では汗をかいたり、あがきながらも、何となく素敵に見えるようなライフスタイルをつくることが日本の大きなテーマじゃないかと感じています。

掲載 聴衆.jpg

◇いしだ・いら 1960年、東京都生まれ。97年、『池袋ウエストゲートパーク』でデビュー。2003年『4TEEN フォーティーン』で直木賞。近著に『明日のマーチ』『カンタ』。

対談 石田衣良さん × 山中正樹准教授

掲載 対談 山中氏.jpg山中 石田さんの作品からは、現代に生きる若者たち、特に社会の流れから外れてしまった人に対する温かいエールが聞こえてきます。

石田 僕自身、新卒で正社員として企業に入る道から外れ、寂しい気持ち、つらい心境が分かる。自分の生きる場所が見つからない人には思い入れが強くなってしまいます。

山中 大人も、社会も成熟していない。だから本を読むべきだということを教員の立場からは言うのですが、活字に触れて、世界をイメージしていくには、想像力が求められますよね。

石田 想像力というと、少し構えてしまうかもしれません。NHK交響楽団のコンサートマスターと話をした時です。作曲家が、どんな気持ちで曲を書いたのかと勝手に妄想を膨らませ、表現をしていかないと、いい音楽にならないそうです。本を読む時にも、そういう“妄想力”を働かせてほしいと思います。

山中 最近は作家志望の学生が増えています。何かアドバイスはありますか。

石田 僕と同じように地下鉄工事の仕事をしたり、いろんなアルバイトをする、乱読をする、異性と付き合う、普通のことを普通にするのが一番です。

お薦めの本 

掲載 対談 石田衣良氏.jpg石田 まず柳家小三治さんの『ま・く・ら』。落語家がネタに入る前に前置きにする話を集めた本で、もう28刷だから、40万部は楽に売れているはずです。

山中 小三治さんの落語は、高座にあがって、ただ「うー」と言っているだけで笑いが起きてしまいますね。

石田 落語というのは、成熟した日本の伝統芸能だと思います。成熟と言えば、山中さんのお薦め、川端康成の『掌の小説』もこれに近い世界では。

山中 人生の一瞬を写真で切り取ったような、きらびやかな小説とでも言うのでしょうか。川端は10のうち、3ぐらいしか書かないと言われ、繰り返しが多かったり、省略を多用したりしている。読者に想像させていく巧みさが際立っていると思います。

石田 次に挙げる山本周五郎は大好きな作家のひとりですが、雑誌の特集の「今売れている作家ベスト100」に入っていないのがショックだった。端正で、どんなに苦労しても汚れない人物を描く力量はすごい。

山中 最後に私からは出久根達郎さんの『古本・貸本・気になる本』を。電子書籍が話題になっていますが、本そのものにこだわっているところにひかれました。

石田 いずれにしても本というのは、最高に面白い人と、変な人が自分のために話しかけてくれるメディアで、とても安い趣味だと思います。

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◇やまなか・まさき 1962年、名古屋市生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期満期退学。桜花学園大学准教授等を経て現職。専攻は、近代日本文学、現代思想・現代文化。

 

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