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読書教養講座

2005/11/03

感動した言葉、書き写して〜出久根達郎さんが本の楽しみ方を学生に伝える

■出演
出久根達郎さん(作家)

 「読書教養講座」の公開授業が10月15日、大阪府吹田市の関西大学千里山キャンパスで開かれ、作家の出久根達郎さんが「古本屋の本の読み方」をテーマに講演しました。学生や一般市民ら約400人が参加し、古書店主の仕事を通じて培われた本の楽しみ方に、熱心に聴き入りました。


  出久根さんは、就職した少年時代に古典と格闘した経験を披露しながら、「頭から読んでも面白くない。まず自分の関心のあるところを索引で探してから読むといい」とアドバイス。「感動した文章を書き写すと、読書を2度楽しめる。後で読み返すと3度味わえ、自分の精神を培ってきた過程を見ることができる」と、読書の面白さを語りました。

  講演後は、山野博史教授(日本政治史、書誌学)との対談が行われ、風呂や階段などでも執筆するという作家生活の一端を紹介しました。

関西大学 読書教養講座 一般公開授業

基調講演「古本屋の本の読み方」/出久根達郎さん

20051103_01.jpg 私には、小説家と古本屋の親父(おやじ)という二つの顔がある。今日は古本屋の親父としてお話ししたい。

  東京・神田では、毎年秋に古本まつりが行われる。今年はこれまでに1冊しかないと言われていた、藤村操の『煩悶記』の2冊目が出品された。日光・華厳の滝から明治36年(1903年)に投身自殺した一高生の著書といわれ、発禁処分を受けた。

  天下一本を持っていたのは関西大学名誉教授の谷沢永一さん。25年前、古本屋の目録で購入したという。

  自著『遊星群』に全文収録されている『煩悶記』を読むと、「社会問題は飢餓問題」など、社会主義に通じる表現が出てくる。本人をかたった偽書であるが、発禁となったのは、後追い自殺が相次いでいたためではなく、主張が過激だったからではないか。

  この本に147万円の売値がつけられた。古本屋にはお宝が眠っている。もしかしたら、古本屋の百円均一の棚にあるかもしれない。ただ、知識がなければもうからない。

 少年時代、貧乏で本を買えなかったため、移動図書館に父親が連れて行ってくれた。1人3冊の本を架空名義を使ってまで借り、漱石全集や江戸川乱歩全集を読んだ。

  中学生の時には、新刊屋で立ち読みする楽しみを覚えた。邪魔だと文句を言う客に、女性のご主人は「あの子たちは、将来のお客さんなの」と言ってとがめなかった。本屋というのはいいなあ。貧乏人だろうとお金持ちだろうと、大人だろうと子供だろうと人を区別しない。就職先は決まったと思った。

  学校に来た求人で東京・月島の本屋に就職が決まり、14歳で上京した。そこで初めて自分の勤め先が新刊書店ではないと知った。かびくさい15坪の店に上から下まで本が積んである。「出世できるような店じゃないな」とがっくりした。

  今になってみると、私の幸運は、古本屋だったことだ。ヒマだから、たくさん本を読める。新刊書店では忙しすぎて本を読む時間などない。

  午前8時から午後10時まで店があり、初任給は月給3000円。大卒が1万1000円の時代だから、かなり給料は良かった。主人は自分の蔵書をもとに一代で財を築いた人物で、よく酒を飲みながら、昔話や仕事の話をしてくれた。

  古本屋の修業として、古典の内容をつかめと言われた。どうするか。解説を読めばいいと気づいた。

  また、索引を見れば、好きな項目から読むことが出来る。例えば、源氏物語にしても、猫が好きな人は猫が出てくる女三宮の場面から読めばいい。関心あるものはだれでも読む。勉強はこうやればいいんだと、自分で方法を見つけた。

20051103_02.jpg  辞書を引くときには、引いた語に赤い印をつける。勉強すればするほど、増えていくのが楽しい。勉強というのは目に見えないものだから、赤い線をひくことで証拠に残すといい。

  本を読んだ時、自分が感動した言葉を書き写すことを勧めている。自分で書いたものは後々必ず読み直すもの。本を読んで楽しみ、書き写して2度楽しみ、後で読み返すと3度楽しめる。自分の精神を培った過程を見ることができ、貴重な財産となる。

  主人には、「君は商人には向かないかも」と言われた。金もうけをしようという気がないからだと言われた。独立開店したが、確かに客が来ない。発想を変え、高い本だけじゃなく、安い本も目録販売したらどうかと考えた。これが当たった。

  また、巻末に書いた文章を面白いと、編集者が本にしてくれた。これがきっかけとなって、後に直木賞をいただくこととなった。

  本が好きで好きで、古書店主になった私が作家になれて、こんなうれしいことはない。授賞式には、主人が来てくれて、手を取って泣いていた。行く先を心配していただけに、うれしかったんだろうと思う。

対談

夏は風呂場で書く/出久根さん 腹這いの執筆姿印象的/山野さん(法学部教授)

20051103_03.jpg【山野博史教授】 出久根さんが経営する芳雅堂は、目録「書宴」による通信販売です。本の形態や内容の解説に特色がある。

【出久根達郎さん】 以前、「チャルメラ」と題した詩集が、楽器の吹き方を説明した本と誤解されたことがあった。お客様は目録販売では現物を見られない。だから、「こういう内容ですよ」と説明したかった。
 
【山野】 目録を1号作るのにかかる時間は?

【出久根】 約1か月で、売り上げは平均して40万円ほど。自分でワープロを打ち込んで作るため、必要経費は1万数千円ぐらい。部数は200部ほどで、50代以上の方が多い。

  古本屋はリサイクル業だが、面白いもので、売った本が自分に返ってくる。お客様は買った本屋に売りますから。だから、よく言われたのは「いい本を売りなさい」ということだった。

【山野】 芳雅堂を開店される前日、お父上が訪ねていらした時のことを、エッセーに書いておられる。

【出久根】 夜、起きると父が店主の席に座り、何をするでもなく本を眺めていた。俳句などを雑誌に投稿し、その賞金で飯を食おうとした父親でしたから、息子が東京に店を持つということはおそらく、大変うれしいことだったのでしょう。

【山野】 雑誌「中央公論」に以前連載されていた「私の書斎」と題する巻頭のカラーグラビアに、腹這(ば)いになって執筆する印象深い写真が掲載された。どこででも原稿を書くらしいが?

【出久根】 そうですね。夏になると、風呂場で書いていた。暑くなればその場でシャワーを浴びればいい。猫というのは涼しいところを知っているが、猫がよくいる階段の途中でも書いた。

【山野】 新聞に入っているチラシ広告の裏に原稿を書いていたとか。

20051103_04.jpg【出久根】 もったいないというか、昔人間としては、紙は貴重なものという意識がある。チラシ広告を押し入れいっぱいとっていたこともある。細かい字でびっしり書くと、原稿用紙4枚ぐらいの字数になるから、なかなか消化できない。最近は裏が白いチラシ広告が少ないこともあり、市販の原稿用紙を使っている。

【山野】 司馬遼太郎著「竜馬がゆく」の登場人物は1146人と数えたそうだが。

【出久根】 司馬さんが偉大なのは、どんな無名の人間も、何をしたとか、こういう人だとか、一人ひとりきちんと描いていること。どんな人間でも、歴史の中にいるんだという思想があった。そこに感動して、登場人物を数えた。

【山野】 ここに、初期の作品集『無明の蝶』がある。私が昔、古本屋で買ったもので、出久根さんの識語、署名、落款入り。さて、いくらで買ってもらえるか。

【出久根】 本当は、高くつけたい。しかし、一方でお金を出したくない。これが人間の弱いところですね。以前、実際に私だと知って著書を持っていらしたお客さんがいた。その心を考えると、やっぱりそれを、安く買っちゃいかんと思いますね。

(2005/11/03)

tatsuro_degune.jpg出久根達郎(でくね・たつろう)
1944年生まれ。92年「本のお口よごしですが」で講談社エッセイ賞。93年「佃島ふたり書房」で直木賞。2004年「昔をたずねて今を知る 読売新聞で読む明治」で大衆文学研究賞特別賞。古書店「芳雅堂」店主。

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