21世紀活字文化プロジェクト

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読書教養講座

2006/07/01

作家・絲山秋子さん vs 書評家・豊崎由美さん

■出演
絲山秋子さん(作家)
豊崎由美さん(書評家)

 「読書教養講座」(主催・活字文化推進会議・西南学院大学、主管・読売新聞社)の一般公開授業が5月13日、福岡市の西南学院大学で開かれ、ジャズピアニストの第一人者でエッセイストとしても知られる山下洋輔さんが「ピアニストを読め!」と題して、音楽・著作活動について語りました。

  また6月20日の通常授業(学内のみ公開)には特別講師として芥川賞作家の絲山秋子さんと書評家の豊崎由美さんを招きました。

  いずれも読売新聞社が進めている21世紀活字文化プロジェクト。本を読む楽しさを学び、コミュニケーションの力を高めるために昨年度に続いて開講した「快読!怪読!」のひとこまで、コーディネーターは新谷秀明・同大国際文化学部教授がつとめました。

西南学院大学 読書教養講座 公開授業

基調講演

音読で伝わる、こだわり 心の秩序、破壊体験を/絲山さん 涙より笑いが難しい/豊崎さん 

20060701b_01.jpg【豊崎】 子どものころの本との出会いを話して下さい。

【絲山】 小学校のころ動物の本が大好きでシートン動物記とかよく読んでいましたね。図書館荒らしになってしまいました。

【豊崎】 習っていない漢字とか難しくなかったですか。

【絲山】 読んでいるうちに雰囲気で分かってくるものですよ。

【豊崎】 ヒトラーの研究書をたくさん読んだとか。ある種あぶない小学生ですね。ナチズムにひかれたのですか。

【絲山】 とってもドイツ好きの先生がいましてね。私はその先生を好きじゃなかったんですが、何かというとドイツをほめるんです。それへの反発もあったんでしょう。ドイツにもヒトラーみたいに悪いやつがいたじゃないか、みたいな……。すごく安易なんですが。

【豊崎】 小説家には芸術家タイプと職人タイプの二つがあり、絲山さんはご自分で職人タイプと言っておられます。

【絲山】 例えば建物を建てる時、大工さんがカンナで木を削ります。普通にはとてもきれいに出来ていたとしても、職人は、ものすごくこだわりがあって、ちょっとでもずれていたら駄目だ……。私もものを書くときは、ものすごくこだわります。『てにをは』、句読点の打ち方、文体など。これでこの家(作品)は崩れないだろうというところまで何度も何度も書き直します。そうでないと安心できない。

【豊崎】 カンナをかけると言われましたが、絲山さんの作品を音読してみると、どれだけカンナをかけているかが分かると思います。頭の中で黙読で読んでいると伝わらないものが分かって来ることがあるんです。たまに好きな作家を音読してみるって大事なことですね。

【絲山】 私は頭の中で、音で書いている……。

【豊崎】 学生の皆さんから質問をいただいています。みんなが喜ぶ文章を書くにはどうしたらいいのですか。

【絲山】 みんな喜ぶ文章なんてない。ベストセラーであっても嫌いという人はいるし。みんなが喜ぶということは、逆に気持ち悪いですよ。

【豊崎】 作品を読んで、『嫌だ』って思うことも大切ですよね。

【絲山】 そう。『嫌だ』というのは何か心にひっかかりがあるということです。例えば若いときに読んで『嫌だ』と思ったけれど、後でもう一度読んでみたいと思うことがありますね。心の中には一定の秩序というものがあります。その秩序が壊されると不快感があります。読書での大切な体験だと思います。

【豊崎】 確かにそうです。癒やしや、感動も大切ですが、壊されることも大事なことです。若いときは壊されることで、立て直すことができるんです。そこに意味があると思います。

20060701b_02.jpg

【絲山】 私の作品に対する感想で『泣けたけど悲しくなかった』というのがありました。これはうれしかったですね。

【豊崎】 絲山さんの小説の美点のひとつが笑いだと思います。ひとを文章で泣かせるということは、ある意味じゃ簡単でしょう。誰かを死なせればいいんです。愛する人が死ねば誰だって悲しいんです。だけど、笑いは違うんです。ツボが人それぞれ違う。笑いのツボは、センスの問題。その難しい笑いを上手に取り込んでいますね。

【絲山】 私の場合は、登場人物が笑わせてくれるんですよ。私を。

【豊崎】 SFは書かないんですか。

【絲山】 宇宙人とか出てくるでしょ。宇宙人って怖いじゃないですか。

【豊崎】 えっ、怖いって。お化けの方がもっと怖いでしょ。

【絲山】 だって宇宙人って、どこかへ連れて行って人体実験とかするでしょ。お化けは悪いことしないじゃないですか(笑)。

20060701b_03.jpg【豊崎】 『沖で待つ』は福岡が舞台です

【絲山】 もともと3代たどると九州なんです。佐賀、島原、熊本。福岡に来たときすごく血がつながっている感じがありました。福岡の人は熱いし……。

【豊崎】 若い人の活字離れが問題になっていますが——。

【絲山】 確かに電車の中などで本を読んでいるのはおじさん、おばさんが多いですね。でも、若い人は若い人なりのやり方で活字にふれていると思います。ネットでブログを読んだりして。私はそれほど心配していません。でも、少なくとも月に1冊は、いい本を読んでほしいと思っています。

読書教養講座コーディネーター 新谷秀明教授の談 

  西南学院は今年90周年を迎えました。学術文化、教育研究の分野で情報の集積・発信機能を担う大学として地域社会、国際社会に貢献したいと考えています。
読書教養講座「快読!怪読!」は、楽しさと好奇心にあふれた読書の楽しみを知ってもらおうという趣旨でスタートして2年目ですが、昨年に比べて聴講生は大幅に増え、改めて活字にふれる喜びを感じています。

(2007/07/01)

絲山秋子(いとやま・あきこ)
東京都出身。早稲田大学卒業後住宅設備機器メーカーに入社、01年に退職。03年、デビュー作の「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞。「袋小路の男」(講談社)で第30回川端康成文学賞、「海の仙人」(新潮社)で芸術選奨文部科学大臣新人賞。「沖で待つ」(文學界)で第134回芥川賞を受賞した。ほかに「逃亡くそたわけ」「ニート」など。7月中旬に「絲的メイソウ」を刊行予定
豊崎由美(とよざき・ゆみ)
ライター、書評家。「本の雑誌」「GINZA」「婦人公論」などで書評。NHK・BS「名作平積み大作戦」に出演。著書は「そんなに読んで、どうするの?」「百年の誤読」(岡野宏文氏との共著)「文学賞メッタ斬り!」(大森望氏との共著)など。7月下旬に「文学賞メッタ斬り! リターンズ」を刊行予定。

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