21世紀活字文化プロジェクト

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読書教養講座

2007/12/23

「今昔おかね物語」

■出演
神坂次郎さん(作家)

 読書の大切さを広めようと、読売新聞社が21世紀活字文化プロジェクトの一環として展開している「読書教養講座」(活字文化推進会議、関西大学主催)の公開授業が、関西大学で相次いで行われました。10月13日には作家の神坂次郎さんが「今昔おかね物語」と題して、12月7日には絵本作家、いわさきちひろさんの作品を集めた「ちひろ美術館・東京」の松本由理子副館長が「いわさきちひろの絵本と人生」について講演。河田悌一学長もそれぞれあいさつして、本を読むことの楽しさなどについて語り、参加した学生や市民らが熱心に聞き入りました。

関西大学 読書教養講座 一般公開授業

基調講演

人生を動かす金遣い お釈迦様も蓄財の勧め 金の沈黙より銀の雄弁

20071223a_01.jpg 歴史小説を商業誌に書き始めて、来年で50年。その間、いろいろな資料にめぐり合った。その中で我々にとって一番大事なお金に関する話を、庶民の目線からさせていただきます。

 お金の話でよく勘違いするのは、「沈黙は金、雄弁は銀」という言葉です。べらべらしゃべるより、黙っているほうが奥ゆかしい、というのは間違い。紀元前4世紀、ギリシャの雄弁家デモステネスが「市民諸君、君らも私のようにしゃべりたまえ。沈黙は金ほどの値打ちだが、雄弁は銀のごとく大きい」と演説した。金は砂金など形で手に入るが、銀は方解石を化学処理しないと作れない。黄金が幅をきかせるのは日本では戦国時代以降、欧州ではコロンブスが大陸を発見したころ。時代によって物の価値は変わるのです。

 それから「情けは人の為(ため)ならず」。ある医者が江戸の両国橋を通りかかると、若い女がじっと川面を見詰めている。事情を聞くと、「主人から預かった銭200匹を落とした」という。放っておけず、この医者は懐から金を出し、名乗らず立ち去った。

  数年後、医者が向島で藤(ふじ)見をしようと渡し船を待っていたら、その女が走り寄ってきた。「あの時のご恩で、今の亭主と一緒になって子どもにも恵まれた。ぜひお礼を」と、強引に家へ連れ帰った。そうこうするうちに、医者が乗るはずだった渡し船は突風でひっくり返った。こういう随筆を読むと、ホッとしますね。

  江戸時代は、10両盗むと死罪です。私の好きな盗人で、ねらった獲物は外さない「スッポンの亀五郎」は、捕まって首を切られる前に〈万年も生きよと思う亀五郎、たった十両で首がスッポン〉と、江戸っ子気質(かたぎ)でしゃれのめし、この世からおさらばしております。

  徳川秀忠の家臣・山口小平次が合戦で討ち死にする直前に、妻子にあてた手紙が残っていて「わしのことは忘れて、再婚して娘2人を託せ。武具も馬も売れ。葬式はするな。柱に名前を書いて、その日はツメを切って髪を洗って拝んでくれたらいい。これからは金が頼りだ。無駄金を使ってはいかん」と書いています。お金への配慮も人それぞれ、様々な人間模様がある。

  戦国時代、陸奥国に岡左内という豪傑がいた。めっぽう強いが、座敷に金銀をまき散らし、ふんどし一つで転げ回るほどの守銭奴ぶり。だが戦が起こると、同僚に快く金を貸した。当時は武具や馬、家来の給料や食料、すべて自弁です。「金をためていたのは、この日のためだったのか」と誰も悪口を言わなくなった。

  岡は伊達政宗との合戦で政宗に切りつけ、その力量を買われて「3倍の禄(ろく)でどうか」と誘われたが、断っている。死ぬ時も、長持ちいっぱいの借用証を全部返してやり、主君に何万両も献上した。ある随筆には、勇壮無双で金を愛した珍しい侍として出てきます。

  山内伊右衛門(一豊)はパッとしない男だったが、妻の千代が利発だった。織田信長が京で天皇を迎え、一世一代の閲兵式を行う時、一際目立つ名馬を買うよう、手鏡に納めていた小判10枚を差し出した。侍のステータスシンボル、名馬のおかげで、山内の評価が高まった。千代女は黄金10枚で、名馬でなく「山内は素晴らしい侍だ」という、うわさを買ったといえる。戦国というキャンバスいっぱいに愛する夫の名前を書きなぐった、素晴らしい妻です。

  戦国時代は陣借(じんがり)浪人、いわゆるフリーランス侍の時代でもある。そんな一人で、山崎の合戦で明智光秀を殺した入江長兵衛という男。明智軍追討に加わり、翌日の城攻めに備え大津城を眺めていると、昔の仲間が城主になっていて「お主もわしも浪々の身で、いずれは一国一城の主(あるじ)にと命がけで働いてきたが、見よ。城主になったところで、わしは明日死ぬ。これを元手に町人として暮らせ」と、革袋に金300両を包んで投げ落としてきた。入江はそれを元手に、一生安楽に暮らしたという話が「武将感状記」に載っております。

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  お金の話を考えてきましたが、実はお釈迦様も蓄財を勧めている。妙法蓮華経に「財を積むには小より起こし、蜂(はち)が花から蜜(みつ)を集めるように毎日たゆまず小さなものを集めよ」、そして財産ができたらおごりを慎み、食するに足るを知り、修行して懈怠(けたい)なきように。お経には、世俗のこともちゃんと書いてある。

  今日でも、例えばビートルズの『MONEY』というお金の歌がある。「自由なんか鳥やミツバチにくれてやれ、僕はお金が欲しいんだ」。現代の世相が3000年の歳月を超え、お釈迦様と対峙(たいじ)しているのが面白いですね。

(2007/12/23)

神坂次郎(こうさか・じろう)
1927年、和歌山県生まれ。主著に『縛られた巨人 南方熊楠の生涯』『熊野御幸』『特攻隊員たちへの鎮魂歌』など。和歌山市在住。 

 

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