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読書教養講座

2011/02/13

関西大学「読書への誘い」講演会開催

■出演
玉岡かおるさん
梨屋アリエさん

 読書の楽しみや喜びを知ってもらおうと、関西大学は「読書への誘(いざな)い」講演会(読売新聞社、活字文化推進会議後援)を相次いで開いた。昨年12月15日には大阪府高槻市の同大学高槻ミューズキャンパスで、「お家さん」などで知られる作家の玉岡かおるさんが「青年よ、読書人たれ 日本のこころをつなぐ道」をテーマに、読書が人間形成につながることなどを語った。1月29日には吹田市の同大学千里山キャンパスで、児童文学作家の梨屋アリエさんが同大学併設の3校の中学生らを対象に「読書の楽しみを伝える」をテーマに講演した。

作家 玉岡かおるさん講演
「青年よ、読書人たれ 日本のこころをつなぐ道」

多読で立身出世した大番頭

 かつて日本一の年商を上げた商社が、神戸にありました。私が「お家さん」で描いた鈴木商店です。何の後ろ盾も歴史もない小さな個人商店が財閥系の三菱商事をしのぐ商社になる。そののし上がっていく過程に、興味がありました。
 
 城山三郎さんは、この鈴木商店を読み解く時に、大番頭に目をつけました。経済界の怪物と呼ばれた金子直吉です。私は女性ですから、この大番頭を取り立てていった社長の鈴木よねの心理に着目したのです。
 
玉岡かおるさん.jpg この金子という人は、高知の貧しい家に育ち、家計を助けるために小さい時から働いてきた。学校も出ていない。その彼が質屋に奉公に出された。蔵には質草の本がいっぱい眠っていた。その本を片っ端から読みあさるわけです。『四書五経』などの中国の哲学書、政治書、兵法……。書物から、人間としての倫理観や正義感、仁義、忠義といったものを身につけていった。

 ある時、質屋の主人が訴訟に巻き込まれると、金子少年は弁護士の役を買って出て、見事に勝訴しました。主人は、こんな少年を高知に置いておくのは、もったいないと神戸に送り出しました。それが当時従業員8人程度の砂糖問屋、鈴木商店だったのです。

 金子は背が低くて風貌もさえない。しかし、彼が一言しゃべり出すとその話のおもしろさに全員が引きつけられ、物を売りに来ると、なぜか注文せずにはいられなかったそうです。

 彼はたくさんの手紙を書いています。その中で一番有名なのが、「天下三分の計の手紙」と呼ばれるものです。1914年に第1次世界大戦が勃発し、ヨーロッパでは、物資や武器を運ぶ船が不足します。これを千載一遇のチャンスととらえて、彼は各支店にあてて手紙を送った。「このまま日本の中に埋もれて、一商社として終わるか、それとも三井、三菱と並んで天下を三分するか、その運命を決めるのは今である」と。この手紙で社員たちは発奮して、鉄を買い、つくった船を売った。

 米騒動の1918年(大正7年)に、鈴木商店は焼き打ちに遭いますが、その年に年商日本一を記録します。金子は海外に一度も行ったことがないのに、世界の情勢はすべて頭に入っていた。それは書物からでした。また、人を奮い立たせるような手紙が書けたのも、かつて読んだ本の中の文字が自身の中で消化され、自分の言葉としてあふれ出してきたのでしょう。貧しい家に育ち、ろくに学校も行かなかった金子の成功は、読書から得られたものです。

 読書には二通りがあります。一つは人間を築き、魂を刻んでいく読書。もう一つは知識を増やす読書です。金子はこの二つの読書を並行してやったのです。これは本の種類でも分けられます。知識を増やす本は新書です。活字離れと言われますが、今は空前の新書ブームです。これだと、簡単に便利に知識が頭に入る。一方、魂を揺り動かされるような本はあまり読まれなくなっています。

 中国の秦の始皇帝は、国中の本を集めて燃やし、儒学者や作家、読書人を生き埋めにして、文明を根絶やしにしようとしました。本を読まない、本を燃やすということは、文明が亡びるということです。幸い、日本には、いろんな本がたくさんあります。それを、読まないというのは、まさに文明を崩壊させる、人間を朽ちさせることにつながります。心を感動させ、自分の魂を肥やして生きる。その永遠の友としてあるのが、本ではないでしょうか。

◇たまおか・かおる 1956年兵庫県生まれ。87年「夢食い魚のブルー・グッドバイ」で神戸文学賞を受賞し、文壇デビュー。代表作は「をんな紋」「天涯の船」「銀のみち一条」など。2009年、「お家さん」で織田作之助賞を受賞した。 

児童文学作家 梨屋アリエさん講演
「読書の楽しみを伝える」

社会とつながるため読もう

 みなさんは本が好きですか? どうして本が好きな人と嫌いな人がいるのでしょうか。生まれた時から本が好きという人はいません。字が読めないし、言葉も知らないからです。でも、どこかで本とかかわって、何かきっかけがあって、本が好きになるわけです。

 出会いにはステップがあります。小さい頃は大人に絵本を読んでもらいます。それから一人で本を見るようになって、文字にも興味をもちます。そして、文字中心の児童書を読み出して、ヤングアダルト向けの本や一般書を読むようになるのです。

 これがうまくつながっていく人もいるし、途中で途切れてしまう人もいます。実は、私は小学生の時は本が苦手で嫌いでした。なぜ、嫌いだったのでしょうか。私の家族は読書をしない人たちだったので、家に本がありませんでした。読書する場所や時間もなく、本を勧めてくれる人も身近にいないので、「読まず嫌い」だったのです。その環境は中学生のときに変わりました。学校に読書の時間があったのです。家では自分の部屋をもらい、静かに過ごす場所ができました。それから通学路に書店ができたり、図書館へ行ったりして、自分で本を探せるようになりました。世の中のことに興味が広がり、本で調べたくなりました。読み始めると、もっと先が知りたくて、どんどん読み進み、読む習慣がつきました。その結果、本が好きになったのです。

 中学生のみなさんは、体も心も成長していく時期なので、読書のきっかけ作りにちょうどいい年齢です。読書はいつからでも始められます。まずチャレンジしやすい本からスタートです。初めは準備の期間なので、途中でやめても違う本に換えてもOKで、無理をしないこと。それを繰り返すうちに、自分に合った本の選び方がわかってきます。

 文章で表現されたものは、読者にさまざまなものを想像させる自由度があります。映像と違って特定のイメージを押し付けることはありません。本は概念がたくさん集まってできています。本は、言葉によって、人の意思や感情など、さまざまな情報を表現し、記録し、そして伝達するものです。

 本には、他人の体験や知識が詰まっているので、自分の足りない部分を補うことができます。そして、自分のペースで読んでいけます。読む人自身に主体があるメディアなんです。
 なぜ読書をするのでしょうか。一つは、自分のため。楽しみたい、感動したい、好奇心を満たしたい、教養を深めたい。つまり、よりよく生きるためです。そして、もう一つは社会とつながるためなのです。知識や物語を人と共有し、共通の認識を持つ。他人の人生や考えを読んで経験することで、他の人の気持ちや困っている人のことがわかるようになる。これは暮らしやすい世の中にすることにつながります。読書は、そんな精神の活動なのです。

 本を読まなければ、身近な人としか知識の共有ができませんが、読書することで周囲にいない人の考えも深く知ることができます。本は、自分を映す鏡にもなり、自分の可能性を知ることにもつながります。ぜひ、読書を楽しんでください。
         ◇
 講演の後、梨屋さんと、関西大学第一中の瀬野貴之教諭、同大学北陽中の竹田勝哉教諭、同大学初等部の塩谷京子教諭を交えてトーク。3人の教諭らは自らの読書体験を披露しながら、各校での読書の取り組みや本を読む楽しさ、創作の秘密などを語り合った。

◇なしや・ありえ 1971年、栃木県生まれ。98年「でりばりぃAge」で講談社児童文学新人賞、2004年には「ピアニッシシモ」で第33回児童文芸新人賞を受賞。最新作に「雲のはしご」などがある。「日本YA作家クラブ」世話人など務めている。 

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