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読書教養講座

2015/03/20

西南学院大学 読書教養講座

■出演
又吉直樹(タレント
作家)
津村記久子(作家)

西南学院大学読書教養講座(主催=西南学院大学、活字文化推進会議 主管=読売新聞社)の公開授業が6月22日にお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さん、12月8日には芥川賞作家の津村記久子さんを迎えて、福岡市の西南学院大学で行われた。又吉さんは「衝撃と感激、太宰との出会い」と題して講演、津村さんは「創作と読書」のテーマで、コーディネーターの田村元彦・同大准教授(政治学)らとトークセッションをした。学生たちとも、読書を巡って意見を交わした。

お笑い芸人 又吉直樹さん「衝撃と感激、太宰との出会い」 

 好きな一冊 熟読を

又吉直樹20150320.jpg
 一番好きな作家は太宰治です。『人間失格』は中学2年の時に初めて読み、100回ぐらい読んでいます。特にこの5年で50回ぐらい。読むたびにどんどんおもしろくなっています。
 最初はびっくりしたんです。主人公の葉蔵は、人との距離感がわからず道化を演じている。僕も無邪気にはしゃぐふりはできても、心からはしゃげない子どもだった。あれ、自分と同じやつがおるやんと。
 ところが、さすがにこれは冷めるわと思う場面があった。鉄棒の逆上がりをするふりして、わざと尻もちをつくんです。ちょっとわざとらし過ぎるんです。
 すると、竹一というやつが出てきて、葉蔵の背後から「ワザ。ワザ」と言うんですよ。つまり、尻もちのシーンは、おまえわざとやろうと、竹一に言わせるための布石やったんです。うわっ、この人めっちゃおもろいなとはまりました。
 『人間失格』は太宰の人生が投影され、こんな弱い自分ってかわいそうでしょ、と言っている小説とみられがち。そうではなく、最低で弱いキャラクターはあえて設定されているんです。太宰に師事した小説家小野才八郎さんの本によると、太宰は執筆前、ネガティブな悪人を書くと宣言したらしい。
 では、その設定の意図や小説の主題はどこにあるのか。
 皆さんも悩みがありますよね。でも人に相談したら、「あんたより大変な人いっぱいおんねんから」と言われることってありませんか。
 黒板をギーッとひっかく音がとにかく嫌だとか、他人にはたいしたことないと思われる悩みが、ほんまの悩みやったりする。悩みが比較され、その大小で問題にされないことがある。その状況ってどうやねんと批判的に言っている小説ではないでしょうか。
 他人に同情されないネガティブな悪人の悩みを扱い、当事者にとってのほんまの痛みとはどういうものなのかを、問うていると思う。
 いま一番好きな場面は、竹一が「お化けの絵や」と言って1枚の絵を葉蔵に見せるところ。ゴッホの自画像なんです。葉蔵はそれと知っているが、竹一は「お化けの絵や」と言い張る。
 この時、葉蔵は思います。見えたままに描いたものが、人からはお化けに見られる。でもそれでもいい。いびつに見えたらいびつに描いていいんだと。
 周りの目を気にし、目立たないように生活していた葉蔵は、ありのままの自然な表現をしている人たちを知って、ここに将来の自分の仲間がいる、いつか自分の全てを解放したいと願う。〈僕も画(か)くよ。お化けの絵を画くよ。地獄の馬を、画くよ〉とのセリフは、その気持ちの表れやと思う。太宰が投影された部分があるなら、この場面じゃないでしょうか。
 こんなこと、最初は全く考えなかった。何回も読むうちに、そう思うようになった。好きな作家を1人、もしくは1冊を選んで、繰り返し読んでみてはいかがでしょうか。読み方が変わっていくはず。読書の楽しみ方の一つだと思います。

「緊張から崩す」お笑いに通ず 


 又吉さんと女子学生5人のトークセッションでは、太宰の『人間失格』『恥』などを巡って語りあった。
 『恥』について、学生が、自分が恥をかいた時の感情と、同じ感情が書かれていて共感したと発言。これに対して、「僕も恥ずかしがり屋です。本来の自分を超えて、他人に自分をよく見せようと思っている時に、恥を感じる。恥ずかしい感覚って、永遠のテーマだと思うんです」と又吉さん。
 『人間失格』の葉蔵を好きになれないとの意見も出た。又吉さんは、「『人間失格』は、ラブソングみたいなもの。いろんな立場から共感するポイントがあると思う。これ自分やって思う読み方も、何やねんこの変なやつと面白く読む読み方もある。葉蔵みたいな嫌なやつ、周りにいるでしょ」と投げかけた。
 さらに、「太宰はおもろいことを書く時も、今からボケますよという雰囲気は絶対出さない。緊張させといて一気に崩す。実は僕のお笑いの仕事でも役に立っているんです。ほんま、師匠みたいな存在なんです」と笑いを誘った。

またよし・なおき 1980年大阪府生まれ。綾部祐二さんとお笑いコンビ「ピース」を結成。テレビのバラエティー番組で活躍するほか芸能界有数の読書家で知られ、書評家、エッセイストの顔も持つ。著書に『第2図書係補佐』『東京百景』など。


 
 作家 津村記久子さん「創作と読書」 

全部津村記久子20150320.jpg失った時 力に 
 

 田村元彦准教授 子どものころから読書が好きだったのですか。
 津村記久子さん とにかく本が好きでした。本を持たせたら静かになるので、親がどんどん買ってくれたんです。幼稚園児のころにヘレン・ケラー、ナイチンゲールなどの伝記、小学生になると、少年少女向け世界文学全集の『若草物語』『デブの国ノッポの国』などを読んだ。幼稚園の年長のとき、小説家になりたいと思ったことを覚えています。
 学生 『ポトスライムの舟』に登場する小学生の女の子、恵奈ちゃんは客観的に物事を見られて、すごく大人びている。津村さんの少女時代と重なるのですか。
 津村 私はもっと落ち着きがなくて、言いたいことを全部言ってしまう、大人からしたらうざい子やったと思う。そもそも子どもは、大人になりたい願望を常に持っているもの。心は子どもなんやけれど、大人びた振る舞いをしようとする。作品では、そういうことを表現したかった。
 田村 では、大人になるとはどういうことなのでしょうか。「大人には歯を食いしばってなるもの」という言い方をする人もいるようですが。
 津村 その通りだと思います。例えば、就職活動などは大人になる一種の儀式なんですよね。私がそれを乗り越えられたのは、子どものころから読んだ本や、聴いた音楽の支えがあったからだと思う。14歳ぐらいからずっと洋楽に浸っています。ピアノも4歳から18歳までやってました。
 学生 津村さんの『ミュージック・ブレス・ユー!!』は、音楽さえあれば生きていけるという女子高校生が主人公で、すごく好きです。
 津村 主人公は、音楽に出会えたことを恩寵(おんちょう)だと考えている。天国からおりてくる幸せですね。今の社会では、お金、良い配偶者、学歴など、一般的に価値があるとされているものを持っていないとダメだとされる。そういうものを何も持っていないむき身の人間を描き、肯定したかった。
 学生 米国のSF作家カート・ヴォネガットの『タイタンの妖女』を愛読されていたそうですね。
 津村 この小説から大きなテーマをもらいました。両親の愛を受けなかった登場人物のクロノが最後、両親に〈ぼくに生命の贈り物をありがとう〉と感謝する場面がものすごく好きです。ここには、生きていることそのものへの肯定があります。愛されなかったことすらも肯定する。何でも持たないといけないと言う社会とは全く逆です。全部失ってしまったと思う時に力になる小説です。そういうものを私は書いていきたい。
 学生 「真空を埋めないままで待ちなさい」という言葉を、津村さんはよく使われますよね。
 津村 人は空(むな)しくなったときに、この空しさを社会的価値があるもので埋めようとする。でも、私は埋めなくていいと思う。空しいんやったら空しい時間を過ごしたらいい。そうしているうちに、世間が指し示すのではない、全く別の次元で人間って生きているんやな、幸せやなって感じることがきっとあると思います。

ゆるく働くススメ
 

 「働く」ことをテーマにした作品が多い津村さんは、学生たちに「ゆるく働けばいい」と語りかけた。
 近年、仕事相手が理不尽でも、感情を抑えて働かざるをえない「感情労働」の概念がクローズアップされ、学生から「働くことにネガティブなイメージがある」との意見も出た。コラムニスト深澤真紀さんとの対談集『ダメをみがく』で、余計な感情労働をしないコツが話題になっており、「ダメなふりをするなど、切り抜け方はいろいろある。仕事もできて、人当たりもいいという完璧は目指さなくていい」と津村さん。
 また、フランスの哲学者のシモーヌ・ヴェイユの言葉を引き、働く喜びについて「生産性の追求だけではない。『働く』『家に帰る』『休む』というサイクルの繰り返しの中に得られる」と強調。さらに、「最初から仕事のやりがいはわからない。でもとにかく仕事を覚えるとの気持ちで働き続けていると、誰に褒められるでもなく、『あ、この仕事しててよかった』という瞬間が来る。どの仕事にも美しさはある」と続けた。

◇つむら・きくこ 1978年大阪府生まれ。2005年、「マンイーター」(『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で太宰治賞を受けてデビュー。09年、「ポトスライムの舟」で芥川賞。11年には、『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞。
 

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