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読書教養講座

2017/01/16

挫折と失敗、創作の源流 西南学院大出身・直木賞作家がトーク

西南学院大学読書教養講座in東京

東山彰良さんVS葉室麟さん

学長さん.jpg 【あいさつ】

 学長 K..シャフナー

 宣教師C・K・ドージャーによって創設された西南学院は2016年に創立100周年を迎えました。九州最大のミッションスクールで、現在、保育園から大学院まで約1万人の園児、児童、生徒、学生が学んでいます。私たちは、活字離れが進むこの時代に読書好きの学生を育てようとしています。本学の卒業生3人が出演する今回の読書教養講座はその一環です。言葉の大切さを理解し、日本でも国際社会でも活躍できる人材の育成に取り組んでいきたいと思っています。
 

  福岡市にある学校法人西南学院が学院創立100周年を記念して、「西南学院大学読書教養講座in東京」の公開授業を昨年11月23日、東京都千代田区のサピアホールで開いた。講師は同大OBの直木賞作家、葉室麟さんと東山彰良さん。コーディネーターも同大出身の日本テレビアナウンサー尾崎里紗さんという顔ぶれで、「挫折と失敗、創作の源流」をテーマに、直木賞受賞を巡るエピソードから作家になった経緯、大学時代の話まで話が弾み、満員の会場を沸かせた。

 
  ■アイデンティティー
 尾崎 お二人とも福岡在住でよく一緒にお酒を飲みに行かれるとうかがっています。どんなお話をされるのでしょうか。サイト尾崎アナ.jpg
東山さん.jpg 東山 まじめな話から、くだけた話まで幅広いですよ。
 葉室 私と東山さんとは作品葉室さん.jpgの手法がかぶるところが全くないので、気楽に話をしています。アイデンティティーの面では互いにこだわりがある点で一致するのではないかと感じています。東山さんは台湾籍で日本語の小説を書いています。何か思うところがあるのではないでしょうか。
 東山 僕は台湾で生まれて、9歳から福岡で暮らしています。台湾でも日本でも「どっちの人間だ」と聞かれますが、ある場所に所属しているという感覚があまりない。自分を「台湾で生まれて日本で育った人」としか定義ができない。アイデンティティーとは俗に「空気を読む」と言う時の「空気」みたいなもので、権力が知らないうちに押しつけてくるところがある。自分がこうしたいのに、ある「空気感」のもとでこうしなければならない、あるいは、こうはできないというのが非常に窮屈ですね。
 尾崎 創作活動に影響を与えているのでしょうか。
 葉室 私は日本自体がアイデンティティーの不安を抱えていると考えています。大戦で負け、それまでの日本を否定しました。しかし、それまでは西洋のように近代化しようと懸命に努力していました。だから、その時はやはり、その前の時代を否定したのです。それより前の江戸時代って、一番日本らしくあった時代ではないでしょうか。その時の日本人の感情を作品でたどりたいんです。
 東山 僕は創作については、本をたくさん読んだり、音楽、映画をたくさん聞いて見て、自分のものの見方を相対化して取り組もうと考えています。それが「空気」に対抗する手段だと。
 
  ■直木賞
 尾崎 お二人とも直木賞を受賞されています。
 葉室 私は5度、候補となり、ようやく受賞できた。発表時は編集者らと飲み屋などで「待ち会」をやるのですが、落ちた瞬間のつらさは大変。初めての候補で直木賞に輝いた東山さんには、通らなかった後の場の持たせ方が分からないでしょう。
 東山 僕は2003年にデビューして2015年に直木賞受賞だから、12年もかかっています。賞は本を出し続けるための「回数券」のようなもの。いつまでも有効期限があるわけではなく、切れないうちに次の回数券を手に入れるか、あるいは本が売れるかしなければ、次の作品を出せないかもしれない。直木賞が取れて本当に良かったです。
 
  ■作家への道
 尾崎 作家になるまでの経緯を聞かせてください。
 葉室 新聞記者だったのですが、50歳くらいになって、何か自分らしい仕事を残したいと思うようになりました。若いころはノンフィクションをやりたかったけれど、力尽きて倒れた感じで成就できなかった。小説を書き始めたのは、自分を取り戻したいという思いが強烈だったからです。
 東山 僕は大学時代をのんべんだらりと過ごしました。夢中になったことがあるとすれば、読書と映画・音楽鑑賞、女の子と付き合うこと、後は旅行でしたね。小説を書いたのは、葉室さんと同じく自分を取り戻そうとしたのではないかと思います。大学を出て東京で就職しましたが、駅で乱闘騒ぎを起こした末に退職。大学院に入り直したけど、うまくいきませんでした。そうした時、2000年暮れのある夜、パソコンを立ち上げると、何のアイデアもないまま小説を書き始めました。3か月かかって出来上がった作品がデビュー作となりました。
 葉室 小説家って「最後の職業」だと言われるんですね。人生うまくいかないから、最後のあがきとして書く。あがくことをためらわない、おそれないでやり通すこと。それができるかどうかで小説の道に行けるのかどうかが決まる。背景には人生への深い絶望があるかもしれないし、自分自身への失望があるかもしれない。そうした深さの中で努力しなければならない。ただ、東山さんは音楽に造詣が深く、地元ラジオでDJを務めるなど多才でうらやましい。
 東山 ラジオ世代なので憧れがあるんですね。大してしゃべることもできないんですけど、週1回楽しく番組をやっています。
 葉室 だから東山さんの小説はどこかDJ的で音楽的な、そんな感じを受ける。最初は静かでも語りに熱狂して、その世界に巻き込まれていってしまう。乱闘騒ぎを起こしたという話が出ましたが、作品も人生もロックなんですね。
 
  ■活字と情報
 東山 僕は小説に関してなんですが、いや、音楽でも絵でも、芸術作品は何でもそうでしょうが、基本的に役に立たないものだと思っています。作家のオスカー・ワイルドがそう書いていて、だんだん自分もそう思うようになりました。でも役に立たないからこそ、読んだ人の胸に届くのです。自己啓発本やマニュアル本って、役立ちますよね。役に立つという感動はあるのですが、それは料理人の包丁や大工さんの金づちやかんなのような道具への感動なんです。小説はそういう役立ち方はできないけど、読んだ人の胸にグサリと刺さることがある。それが本当の感動ではないでしょうか。
 葉室 活字文化という観点から私が痛切に感じるのは、世間の人は「文字とは情報だ」という意識が強いのではないかということです。電子機器やスマホがあって、一番新しい情報を手に入れたヤツが勝者だ、みたいな感じ。しかし、活字、つまり本の中にある情報というのは、歴史なんです。1000年、2000年かけて自分たちが培ってきた、自分たちの肌身にしみこんだイメージを自分たちは感じ取りつつ作品を読んでいるんです。
 東山 僕の場合、細胞感覚としてそれを感じます。父親も母親も中国大陸から台湾に移り住んだ外省人だからなのか、僕には日本の歴史・時代小説というのはぴんと来ない。その代わり、北方謙三さんの書かれた「水滸伝」はしっくりと来るんです。
 
  ■大学時代
 尾崎 最後に西南学院大学時代の思い出をお願いします。
 葉室 俳句部に所属して和歌や漢詩などにも親しみました。文学史的に重要だとか名作だとか、そんなことは関係なく、自分がいいと感じたら、いいんだということを学びました。作品の中でいろいろと引用しますが、評価の高くないものがいっぱいある。今の自分の何かにつながるものが培われたのは、やはり大学時代なんですね。
 東山 人間が成長するというのは、だんだん不自由になる過程だと思うんです。赤ちゃんは何にでもなる可能性があるという意味で自由ですね。だけど、大きくなるに連れ、いろんな可能性は捨てられていく。僕は作家だけど、これからメジャーリーガーにはなれない。大学時代は自由に不自由になる道筋を見つけられる最後の時期ではなかったかと思います。
 
 作家 東山彰良(ひがしやま・あきら)
 1968年、台湾台北市生まれ。9歳の時に家族で福岡県に移住。西南学院大学経済学部卒業、同大学院修士課程修了。2015年『流』で第153回直木賞。16年『罪の終わり』で中央公論文芸賞。
 
 作家 葉室麟(はむろ・りん)
 1951年、北九州市生まれ。西南学院大学文学部卒業。地方紙記者などを経て2005年『乾山晩愁』で歴史文学賞を受賞。07年『銀漢の賦』で松本清張賞、12年『蜩ノ記』で第146回直木賞。
 
 日本テレビアナウンサー 尾崎里紗(おざき・りさ)
 1992年、福岡県生まれ。西南学院大学経済学部卒業。2015年、日本テレビに入社。朝の情報番組「ZIP!」などを担当。
 
【西南学院大学読書教養講座】
読書好きの学生を育てようと西南学院大学が2005年から、活字文化推進会議と共同で開催する公開講座。作家、読書好きの芸能人らを講師として招き、読書の魅力や醍醐味、本の読み方などについて自由に語ってもらっている。
 これまでの主な講師は以下の通り(敬称略)。
 為末大(元アスリート)、道尾秀介(直木賞作家)、ヤマザキマリ(漫画家)、又吉直樹(お笑い芸人、芥川賞作家)、津村記久子(芥川賞作家)、光浦靖子(タレント)、川上未映子(芥川賞作家)、池澤夏樹(芥川賞作家)、ロバート・キャンベル(東京大学大学院教授)、町田康(芥川賞作家)

 

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