21世紀活字文化プロジェクト

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読書教養講座

2009/12/21

関西大学で川上 未映子さん、西 加奈子さんが講演

■出演
川上 未映子さん
西 加奈子さん

 読書の喜びを伝えようと、読売新聞社が進める21世紀活字文化プロジェクトの一環である「読書教養講座」(活字文化推進会議、関西大主催)が、大阪府吹田市の関西大で相次いで開催された。11月14日には、芥川賞作家の川上未映子さんが「読書のひみつ、読書のよろこび」と題して小説の持つ魅力を語った後、3人の学生代表と作品を巡ってトークを繰り広げた。12月4日には、作家の西加奈子さんが「読書体験が残すもの」をテーマに講演した。

川上 未映子さん講演 「読書のひみつ、読書のよろこび」

言葉で他者とつながる

WEB用川上さん紙面.jpg なぜ書く側の人間になったのか。作品を書いてわかったことですが、私は死について言葉にできない違和感が常につきまとっている子どもでした。その違和感をうまく説明してくれるものを探して、図書室で本を読むようになった。でも当時、手に取れる範囲には、教訓や勧善懲悪といったパターンが決まった物語しかなく、私の知りたいものは見いだせなかった。

 高校に入って、カントの入門書に出合い、哲学的な考え方を知った。子どもの時から感じていた違和感は、哲学といわれているものの考え方に近いのではないか。そう思い、一生懸命勉強しました。

 そんな風にやっていると満足するのですが、頭の中で考えるだけになる。そんな(形のない、感覚でとらえることができない)形而上(けいじじょう)的なものだけでなく、私たちは肉体など(形のある)形而下的な存在でもある。私たちはこの二つを同時に生きている。この両方を兼ね備えた〈形而中〉のようなものを扱えるものはないのかと思った時、立ちあらわれてきたものが文学でした。文学は普通の読み物に足りないものと、哲学に足りないものとを奇跡的なバランスで成立させていました。そして再び本を読み始め、読むだけでは飽きたらず、小説を書くようになりました。

 初めに書いた小説が『わたくし率 イン 歯ー、または世界』でした。脳で考えるところを、「歯」で考える人がいてもいいんじゃないか。科学ではバカにされるようなことも、文学なら物語を実験的につくりあげることができる。疑う余地がないことも、文学なら疑ってみることが可能なんじゃないか。そう思って書いたものです。

 私たちは、言葉がないと、自分の考えや感じたことを伝えることができません。暑いとか寒いとか、自分の感覚を他人に伝えるためには言葉を介さなければならない。自分だけの世界だったら言葉なんていらない。でも他者がいて、他者と自分の感覚の溝を乗り越えるためには言葉が必要です。言葉がないと他者とつながることができない。そんな言葉を使って書かれているのが小説なんです。

 そしてそこに自分の感覚を言い表している一行を読んだ時、人は感動する。そこから新しい世界が生まれ、そういう世界をつくるのが小説家の役割だと思う。一方で、どんなに本を読んでも自分の気持ちが書いてないこともある。これだけは言葉にならないのだということを再発見するのも、読書の不思議な体験です。

 本が必要とされなくなって久しいと言われています。でも、人が言葉を欲さなくなるということはないし、人間がフィクションである物語を読むという体験自体もなくならないと思う。その体験を必要としている人に、私はこれからも届けたいと思っています。 

学生と対談 「ノートで小説組み立てる」 「作品に即した文体使う」

 講演の後、学生3人が壇上に上がり、川上さんと語り合った。司会は柏木治・関西大文学部教授が務めた。

【学生】 小説を書く時、ノートに作られるそうですが。

【川上】 こんなシーンを書きたいとか、こんなことを考えたいとかをノートに一つずつ書いていく。一つだけでまとまっていれば短編に、物語の中で全部つながりそうだったら、集めて一つにする。例えば、『ヘヴン』だったら「ヘヴンノート」を作って、登場人物の役割や関係性、セリフやシーンを書きながら組み立てていきます。ノートは手書きですが、小説を書く時はパソコンです。私は横書きです。

【学生】 『ヘヴン』の中のいじめのシーンがとてもリアルですが、体験されたのでしょうか。

【川上】 体験や取材はなく、あれは〈言葉〉で書いています。戦争を体験された方全員が戦争文学を書けるわけでもないし、すごく悲しい思いをした人が悲しい物語を書けるわけでもない。やはり大事なのは本を読むこと。どれだけ言葉を知っていて、どれだけ言葉の組み合わせができるか。それが小説を書くということだと思います。小説では、戦争を体験したことがなくても、戦争を書くことは可能です。

【学生】 『乳と卵』では大阪弁で、『ヘヴン』では標準語を使われてます。

【川上】 『乳と卵』は、夏の暑い3日間に女の人3人が集まり、体のことについてあれこれ語り合う。その世界観には、大阪弁の持っている身体性のようなものがぴったりきた。『ヘヴン』は、いじめにあっている男の子の、朴訥(ぼくとつ)とした語りから始まっている。大阪弁だとちょっと楽しい雰囲気になってしまう。大阪弁の持っているリズムは『ヘヴン』の世界観には合わなかった。これからも書こうとする作品の世界観に即した文体を使っていきたい。

【司会】 本日のタイトルは「読書のひみつ、読書のよろこび」と平仮名を使っていますね。

【川上】 見た目、デザインですね。リズムとデザインの両方で漢字を開いたり閉じたりします。最初に出した随筆集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』では漢字を多用しました。漢字だと読むときの速度が速い。リズムを出すには漢字は便利です。

WEB用学生と.jpg

◇かわかみ・みえこ 1976年大阪府生まれ。2002年に歌手デビュー。08年『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。09年に詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞を受賞する。随筆集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』、小説『ヘヴン』など。映画「パンドラの匣」にも出演。

西 加奈子さん講演 「読書体験が残すもの」

本読み 衝撃的体験を

WEB用西加奈子さん紙面.jpg テヘランで生まれて、小学1年生から5年生までエジプト・カイロの日本人学校に通っていました。学校に図書室があり、そこにある本をよく読んだ。周囲がアラビア語ばかりで単純に日本語に飢えていたからです。当時、むさぼるように読んだ「ファーブル昆虫記」を今読むと、その時の感動を思い出して、めっちゃ興奮するんです。

 日本に帰国してからは、日本語があふれまくって、読書の刺激はすぐに忘れてしまった。ある時、父から遠藤周作さんの『深い河』を「読んでみい」と渡され読んだら面白かった。心がちょっとざわざわとして、「この感覚は何やろ?」。でも、読書というのは勉強の延長だとか、賢い子がすることのようなイメージがあった。

 高校1年の時、思春期みたいなものがきた。急に孤独を感じたり、憂うつになったり。そんな時、書店で平積みされたトニ・モリスンの『青い眼がほしい』を見つけ、最初の一文に衝撃を受けた。〈秘密にしていたけれど、一九四一年の秋、マリゴールドはぜんぜん咲かなかった〉

 これは父親に妊娠させられる黒人の少女を描いた物語です。少女はみんなから愛されるために白人の象徴である青い眼がほしいと祈る。それがタイトルです。マリゴールドの種は、少女の友人が赤ちゃんが無事に生まれることを願って植えたもの。それなのに咲かなかった。冒頭の一文は、本の内容を知らない状態で読んだだけで私の心をえぐった。毎日覚えるくらい読んだ。何でこんなに何度も読めるんやろ? 今までにない読書体験でした。

 その素晴らしさを誰かと共有はしなかった。これは個人的な体験、私とトニ・モリスンだけの秘密だと思った。16歳の私は確実に彼女とつながっていた。本は作者との甘くて濃密な時間があるカルチャーだと思う。

 作家として与えられているのは私も村上春樹さんも全員平等に50音だけ。それをどうつなげるかで全く違う物語ができる。自分が問われる仕事です。そして、誰かがうちの本を読んでくれている限り、その人とつながっているなと思います。

 脳みそが揺さぶられるような衝撃的な体験は自分の糧になる。今からでも遅くないので、本を読んでそんな体験をしてください。それが自信になります。

◇にし・かなこ 1977年イラン・テヘラン生まれ。エジプト、大阪で育つ。2004年に『あおい』でデビュー。05年『さくら』がベストセラーに。『通天閣』で織田作之助賞を受賞する。
〈読書教養講座〉 本好きの学生を増やそうと、2005年から大学の協力を得て始めた正規の授業。活字文化推進会議から作家や学者などの特別講師を派遣し、一部は市民にも公開している。今年度は関西大のほか近畿大、青山学院大、西南学院大。

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