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成毛眞の新読書スタイル

2014/03/10

第1回対談 江戸にタイムスリップ                  「息吹感じて 驚いてほしい」

ノンフィクションの書評サイト「HONZ(ホンズ)」代表で、読書家の成毛眞(なるけまこと)さんがナビゲーター役となり、話題の新刊の著者と対談する新企画「成毛眞の新読書スタイル」。初回ゲストに時代小説家の車浮代さんを迎え、江戸期の名版元、蔦屋重三郎を描いた新作「蔦重の教え」(飛鳥新社)について語り合った。

リズム感

車浮代2.jpg
 成毛 読みやすい本でした。僕はノンフィクションを専門にしていますから、小説を読むのは5年ぶりくらいかもしれません。やはり小説っていいですね。サイエンスなどの本と違って、セリフが多く入っているので、どんどん読み進めることができます。
 車 セリフ力はシナリオの勉強で磨かれました。シナリオはセリフだけで全部伝えないといけないので。
 成毛 たしかにシナリオはセリフだけで、ストーリーを進めなければならないですね。シナリオはどのように勉強したのですか。
 車 映画監督の新藤兼人先生に師事しました。おかげさまでシナリオ作家協会の「大伴昌司賞」をいただいたこともあります。私はまた、文章のリズムを意識して書くようにしています。とんとんとんと先に読めるようなリズム感です。
 成毛 蔦屋重三郎に着目したきっかけは何ですか。
 車 若いころに印刷会社に勤めていたこともあり、同じ印刷物である錦絵(浮世絵版画)に興味を持ったのがきっかけです。いつかは浮世絵をテーマにして作品を書きたいという思いを強く抱いていました。いろいろ調べてみると、絵師以外に名前が挙がったのが蔦屋重三郎という大プロデューサーです。作品にしたいと長年温めていました。
 成毛 たしかに、これまで蔦重について触れた本でも、主人公は蔦重というよりも写楽が多いようです。
 車 そうですね。写楽の謎解き本とか、写楽小説の中に蔦重が出てくることが多く、あっても長編にはなっていないと思います。
 成毛 蔦重は、そのビジネススタイルなどが現代に通じているにもかかわらず、あまり知られていない。なぜ、これをビジネス書でなく、小説に。
 車 蔦重のキャラクターがまず小説向きでした。また、この本のコンセプトが「今も昔も変わらない成功の本質を伝える」ことでした。そのため、通り一遍のビジネス書の形ではなく、破天荒な蔦重に人生の勘所を教わる小説形式なら、読者の心にストンと収まるのではないかと思いました。

食にも注目
 

 成毛 本の中で、ここは注目してほしいというところはありますか。例えば、江戸の庶民食のところとか。
 車 ここまで、“成毛眞 対談写真2.jpg食”を書いている人はあまりいないんじゃないかと思うんです。江戸の庶民料理の研究をやっていまして、ある意味でここが「浮代節」なのではないかと思います。
 成毛 時代小説ですが、主人公が現代から江戸時代にワープするというSF的な仕掛けです。
 車 現代人に江戸の息吹を伝えるというのが、私のテーマの一つでもあるんです。そういう意味では、江戸の中で特化するのではなく、現代の人間が江戸に行くことで、より江戸を身近に、あたかも自身が主人公になって時間をさかのぼっているように感じていただきたかったんです。現代人が江戸の町人にふれて、驚き戸惑うさまを描くことで、江戸を立体的に表現しようと考えたのです。
 成毛 たしかに江戸の湯屋、つまり風呂屋の構造などはテレビなどの映像では表現しづらいだろうし、現代人がそこにいたらさぞかし驚くでしょう。
 車 そうですね。混浴とか、女湯をのぞくことができる部屋があったこととか。男性の成毛さんには印象深く読んでいただけたのではないかと思います。

「教え」

成毛・車2.jpg
 成毛 作家生活の中で、これまでに最も影響を受けた本はなんでしょうか。
 車 本当に自分で時代小説を書こうと思ったきっかけは、皆川博子先生の「みだら英泉」です。浮世絵師が主人公の本ですけれど。これに出会った時に、私は、こういう小説を書く作家になりたいんだという息吹が上がった気がしまして。
 成毛 ところで、巻末にある箇条書きの「教え」が大変面白い試みだと思います。本文を読みながら付箋を何枚か付けたのですが、やはりその「教え」を語るエピソードに付箋を付けていました。中でも、例えば「何かを捨てなければ、新しい風は入ってこない」などという「教え」にはいろいろ考えさせられました。
 車 私をプロデュースしてくださった作家のいつかさん(旧名・角川いつか)から学んだ一つです。
 成毛 私はHONZという書評サイトを運営しているのですが、本のレビューを書く立場からすると、本のタイトルが短い方が紹介しやすいのです。本のタイトルとともにキャッチコピーなどを追加しても、画面の収まりがいい。ぜひとも紹介したい本です。
 車 ありがとうございます。私もタイトルは気に入っています。
 成毛 次のテーマは何でしょうか。
 車 今、構想中です。蔦重の時代は物語の宝庫なので、そこをテーマに現代と江戸をつなぐようなお話が作れればと思っています。
 成毛 楽しみにしています。

書店員からの質問

 
 新読書スタイルでは、企画を支えてくれる書店応援団の書店員の皆さんが著者に質問します。
     ◇おすすめ本リスト(成毛・車).jpg
 ――資料集めで特に苦労した点はありますか(田村書店園田店・西田克彦さん)。
 「私が今回の小説の舞台にした天明期の蔦重というのは、まだ歌麿を売り出す前の時期で、資料が少ないため、初期の蔦重が作ってきたものを調べるのが少し大変でした」
 ――事前に読んでいるとさらに楽しめるという本はありますか。陳列での参考にさせていただきます(くまざわ書店鶴見店・金子圭太さん)。
 「読んでいる時にそばにあると楽しめるという意味で、私が浮世絵の勉強を始めた時に一番最初に参考にした稲垣進一先生の『浮世絵入門』(河出書房新社)。ほかは、『江戸の用語辞典』と対になっている『江戸の町とくらし図鑑』(廣済堂出版)などが良いかと」 
 

  「成毛眞の新読書スタイル」協力書店(26社)


 旭屋書店、アバンティブックセンター、大垣書店、喜久屋書店、紀伊國屋書店、くまざわ書店、コーチャンフォーグループ、三省堂書店、三洋堂書店、ジュンク堂書店、須原屋、積文館書店、ダイハン書房、田村書店、東京ブッククラブ、明屋書店、福岡金文堂、ふたば書房、ブックファースト、文教堂、丸善書店、宮脇書店、未来屋書店、八重洲ブックセンター、有隣堂、リブロ(50音順)


  

書店応援団のおすすめ本 

miyawaki.jpg
 ◇翔とぶ少女(原田マハ著、ポプラ社)
 新読書スタイルでは、書店応援団が折々の「イチオシの本」を紹介します。
 ◆奇跡を願う深い思い
 この小説の発行日は2014年1月17日。1995年1月17日の「阪神・淡路大震災」を忘れないという著者の思いを刻み、この日に発行されたのです。
 震災で両親を亡くし、兄妹3人で残された小学1年生の少女、丹華(にけ)が愛する家族のため、自身の未来のために勇気を出して羽ばたこうとする。
 著者は作家になった時から、この物語を構想していて、書き始めた時に東日本大震災が起きたそうです。せめて小説の中だけでも奇跡を起こしたいという思いが深く伝わってくる作品です。老若男女問わずに読んでほしい。そして色々考えてほしい。そんな思いを込めてお薦めします。 〈宮脇書店本店・藤本結香さん〉


 
蔦重の教え(つたじゅうのおしえ)


 リストラを言い渡された55歳の主人公武村竹男が、天明年間(1781〜89)の江戸にタイムスリップしてしまう。23歳に若返った武村の前に現れたのは、蔦重と呼ばれる蔦屋重三郎。18世紀後半の江戸で浮世絵や吉原のガイドブックなどを出す版元で、浮世絵の喜多川歌麿、東洲斎写楽、戯作の山東京伝らを見いだし、名プロデューサーと呼ばれていた。武村は、売り出し前の歌麿や当時の一流文人をはじめとする人々と出会う一方、蔦重の厳しい指導を受けながら、生き方、仕事の心得を学んでいく。当時の庶民の生活、文化なども随所に盛り込まれている。

  
 ◇なるけ・まこと 1955年、北海道生まれ。早稲田大学ビジネススクール客員教授。元マイクロソフト日本法人社長。著書に「面白い本」(岩波新書)、「ノンフィクションはこれを読め」(中央公論新社)など。

 ◇くるま・うきよ 大阪芸術大学卒。時代小説家。江戸文化、特に浮世絵、江戸料理に造詣が深い。著書に「“さ・し・す・せ・そ”で作る〈江戸風〉小鉢&おつまみレシピ」(PHP研究所)など。監修作に「体験! 子ども寄席」全5巻(偕成社)。 

主催 活字文化推進会議、主管 読売新聞社、協賛 飛鳥新社

 

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