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成毛眞の新読書スタイル

2013/12/13

おすすめの本(12)『「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい』

森達也/著、ダイヤモンド社、1680円(税込)

自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか.jpgオウム真理教についてのドキュメンタリー映画「A」「A2」で知られ、ノンフィクション作家としても活躍する著者が、ダイヤモンド社のPR誌に連載した文章をまとめたのが本書である。取り上げられるのは時事的・社会的テーマで、死刑制度の問題に始まり、北朝鮮の拉致問題、原発事故、ハンセン病、動物愛護センターにおける犬や猫の殺処分など、いずれも容易に解決することのできない難題ばかりである。

そうした一つ一つの問題を前にして、著者は時間をかけて資料やデータを調べ、自分の目で事実を確認し、自分の耳で関係者の話を聞きに行く。そして最後は自分の頭で考える。幾度となく戸惑い、悩み、ときにはネット上で多くの罵声を浴びながら、それでもひるむことなく考え続ける。

具体例を挙げれば、尖閣諸島を中国に譲渡するのも選択肢の一つであるとの意見や、また犯罪者に対する厳罰化を押し進めることへの異議など、このような著者の考えに違和感や反感を抱く読者も少なくないだろう。だが、さしあたってここで最も大切なことは、著者の個々の主張に同意するかどうかではない。

いつのまにかこの国では、合理性や利便性の追求が社会のあらゆる領域を覆い尽くそうとしている。複雑(=非効率)なものは敬遠され、善か悪か、真か偽かといったわかりやすい二元論に物事が単純化される傾向が強まった。即効性と実利ばかりが求められ、長い時間をかけて培われるものへの敬意や、目に見えず数値で計量できないものの価値が忘れられようとしているのが今の日本社会である。しかし、こうした世の流れに抗おうとする著者の誠実な文章は、この複雑な世界を複雑なものとして真正面から考え続けることの大切さを伝えて余すところがない。本書はそんな貴重な一冊なのである。

くまざわ書店四条烏丸店                                                   佐々木俊章

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