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成毛眞の新読書スタイル

2013/12/19

おすすめの本(14)『村上海賊の娘 上・下』

和田竜/著、新潮社、各1680円(税込)

村上海賊の娘.jpg
戦国時代、織田信長が室町幕府最後の将軍、足利義昭を奉じて京に入り、西に勢力を伸ばそうとしていた頃のこと、10年もの長きにわたって繰り広げた大坂・石山本願寺との戦いが物語の舞台である。物語の主人公は瀬戸内海の海賊たちを束ね「海賊の王」と称された村上武吉の娘、景。周囲からは気の荒い女、醜い女といわれ嫁の貰い手がない20歳・・・男まさりの武術を駆使して海賊働きにあけくれていた。しかし、偶然救った一向門徒から泉州(大阪南部)では自らが「美女」とされるということを知る。そして景は泉州の海賊との出会いを求めてまさしくこれから戦が行われようとしている大坂・石山本願寺へ。

「のぼうの城」では己の信念を貫くために天下人の巨大権力に挑んでいく姿が描かれ、その圧倒的な武力を前に立ち向かう「のぼう」の姿は大きな感動と爽快感をもたらした。本作は今までの作品よりも戦争本来の姿である残虐で凄惨な合戦シーン、生き残るためには手段を選ばない男たち、自家を守るためには主君を乗り換えることもいとわない武士・海賊たちの姿が描かれている。当時の人間の生命の価値というものが現代を生きる我々とはいかにかけ離れているかを思い知らされる。

にもかかわらず、命の奪い合いをする真只中での関西弁のやりとりなどは笑いを誘われる。この緊張感とユーモアとの絶妙なバランスは凄惨な場面においても物語を読みすすめる手を休められなくさせてしまう。それと何といっても和田作品の特徴は魅力的な敵役達だろう。本作において私は主人公、景の側が陰、敵側の泉州海賊が陽の性格を持っていると感じた。泉州海賊達を応援したくさせられてしまうのである。これでもまた戦争の非情さを思い知らされる。飢えに苦しむ一向門徒に食糧を届けて助けたいという景の思いが、冷酷で打算的な武士たちの心をいかにして動かすのか・・・是非手にとって読んでいただきたい。著者が4年をこの一作だけに注ぎ込んだ最高傑作という宣伝文句は決して嘘ではない。

須原屋本店                                                            舞田敏也

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