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成毛眞の新読書スタイル

2013/12/24

おすすめの本(15)『ジェローム・ロビンスが死んだ なぜ彼は密告者になったのか?』

津野海太郎/著、小学館文庫、690円(税込)

ン.jpgミュージカルに興味がない方でも、『ウエスト・サイド物語』、『屋根の上のバイオリン弾き』の作品名ならばいちどは耳にしたことがあると思います。その両作品の振付家兼演出家でもあり、米国モダンバレエ界、ブロードウェイにおいて燦然と輝く業績を残した人物ジェローム・ロビンスが本書の主人公です。

著者の津野海太郎氏の少年期、次々と公開されるハリウッドのミュージカル映画とともに、「底ぬけの幸福感の記号」としてジェローム・ロビンスの名は深く記憶に刻まれていました。しかし、ある日、ジェローム・ロビンスの追悼記事の一節で、彼が下院非米活動委員会で証言し、かつての仲間や同志を共産党員として名ざし(naming names) してしまった事実を知った氏は、なぜ彼の身の上にこのような拭い難い悲劇が起きてしまったのか、映画『市民ケーン』の<ばらの蕾.>の探索の如く、謎の解明への旅がはじまります。

その理由の中身は、ゴシップあり、同時代人(エリア・カザン、レナード・バースタイン、ジーン・ケリー、モンゴメリー・クリフト等々)の群像劇ありと驚きの連続です。

多人種、多文化の共存共栄、大衆文化と前衛文化とを融合し<新しいアメリカの文化>を形成することを夢見かつ実現していくために己の道へまい進していく過激なニューディールの申し子たち。もうすこしで成功を勝ち得そうなその瞬間、米ソ冷戦体制が深まる下、時代の空気は一変し、マスメディアが注目する中、「裏切っても地獄」「裏切らなくても地獄」の証言台にひきずりだされてしまった才能ある多くの映画人や演劇人。

本書は彼の自伝的な舞台『パッパ・ピース』の実現が頓挫してしまい、密告してしまった理由は終生語らず、沈黙のままこの世を去っていった事実を伝えて閉じられています。

その沈黙は、彼がわたしたちにこう問いかけているようです。「この残酷で悲痛な歴史を過去の出来事として無自覚に生きていくのか、それとも現実のものとして重く受け止めて生きていくのか、きみたちはどっちだ」と。この時代の作家と作品とに新たな視線を注ぎながら、作品が問いかけてくる声に耳を傾ける必要な時期に私たちはいるのではないでしょうか。

田村書店園田店                                                         西田勝彦

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