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成毛眞の新読書スタイル

2014/01/27

おすすめの本(23)『儚い羊たちの祝宴』

米澤穂信/著、新潮社、546円(定価)

儚い羊たちの祝宴.jpg特別、ミステリー小説を好んで読むという訳ではないですが、なんとなくただ手にとってみた、というのがこの本との出会いです。

本好きが講じて書店員になり、8年間文庫担当として関わってきましたが、ここまで読後に身震いを覚えた本は初めてといっても過言ではないと(あくまで私個人の感覚でしかないですが)思います。この本を読み始めたきっかけは冒頭の記述の通りですが、本当に軽い気持ちで読んでみたらなんと!!…仕事の合間の休憩時間を忘れるほど、夢中になりました。初めて触れる作風と、ストーリーの展開の速さと衝撃に、驚きを感じました。

それぞれが独立した5編のストーリーで構成されている物語ですが、夢想家のお嬢様たちが集い好きな本を読む読書の会「バベルの会」が物語のカギとなっています。

「夢想家」という言葉を調べてみると、【実現できそうにないことばかりを考える人】とあります。常に何かに追い詰められて、思うように身動きがとれない、世間知らずのお嬢様は、文学という物語の世界に囚われてしまい、現実とマボロシの区別がつかなくなってしまうのでしょうか。少なくとも私はこの、5編の物語の主人公の印象は前述の通りです。

それぞれの物語は、お嬢様とその使用人の設定がメインなのですが、一番強烈な印象を受けたのは、「山荘秘聞」の主人公・屋島守子と歌川ゆき子のコンビ。東京の貿易商、辰野家に仕える屋島守子は、辰野家のご婦人の病気療養のための別荘の管理を任された。しかしそのご婦人が亡くなったことで用途もなくなってしまった別荘には誰一人利用客がないまま。そこへある日、雪山で遭難した山岳部の青年を保護し、守子はその別荘で彼を手厚く介抱する。やがてその遭難した青年を捜索すべく、仲間の救助隊が現れ、彼らもまた守子の手厚い歓迎をうける。救助隊は、その別荘を拠点に何日も青年の救助に尽力するが全く手がかりが得られず、あえなく下山する。ただひとつの手がかりがあったにも拘らず、守子が故意にそれを隠した。遭難した青年は、別の部屋で介抱を受けており、まるで彼は軟禁されているかのようにも思える。それを疑い始めた人物が、守子と一緒に介抱していた歌川ゆき子。守子が手がかりを消したことも既知。彼女は、そんな守子の異常なまでの固執と頑なに青年の存在をひた隠す行動に不信感を覚え始めた。はっきりとした表現はないが、せっかく別荘にきたお客様を逃すわけにはいかない、とでもいうような執拗なまでの感覚は、後に口封じのためにその存在を消さねばならなかったゆき子と、その遭難した青年の死によって明らかになるのではないかと思います。口約束を絶対に信用しない守子は、その別荘に匿われたことを知られたことは口外しない、と言われたことももちろん、信用せず、結局殺すことによって、「あなたの沈黙を買います…」と。

このほかの物語の主役のお嬢様たちには、文学や願望、夢にとらわれ、なにか大切なもの見失ってしまったようなものが、共通しているのではないかと思います。かといって、誰にも感情移入できないまま読み終えてしまったのですが、本当に好きなものは誰にも譲りたくない…という思いだけは理解できたような気がします。

大垣書店四条店                                                         小林素紀

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