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成毛眞の新読書スタイル

2014/02/19

おすすめの本(28)『怒り』

吉田修一/著、中央公論新社、上下各1200円(税別)

怒り.jpgまさかお前か?それともお前か?やめてくれよ、お前だなんて!!一体誰が犯人なのか、これほど「犯人ではなければいい」と強く願い、それでも「犯人は誰なんだ」と、貪るように読んだ小説はない。

八王子郊外で起きた夫婦惨殺事件の犯人「山神」は、整形をし、1年もの間、逃亡を続けていた。現場に「怒」という血文字を残したが、動機は不明である。そこから物語は、房総半島・東京・沖縄の離島、と3つの舞台に分かれる。房総半島には、漁協に勤める前歴不詳の男がいた。東京には、男同士の発展場に前歴不詳の男がいた。沖縄の離島には、そこからさらに船で渡った無人島に、前歴不詳の男がいた。

その3人の男たちは、それぞれの場所で人とつながり、浅からぬ関係を築いていく。最初は、この中の誰かが山神かもしれないということは、読者にしかわからない。しかし、警察は山神を必死に追い、テレビの公開捜査番組では、山神の手配写真や特徴が全国放送される。出会ったばかりではあるが、今や大切な人となってしまった彼は、自分と出会うまでに、どのような人生を歩んできたのか。何故彼はここにいて、過去を語ろうとしないのか。信じたい気持ちと疑う気持ちが激しく闘い、壊れそうになる。

誰が犯人なのか。誰が犯人だったとしても、誰かが深く傷付くではないか。そして疑う気持ちが生じた時点で、犯人ではなかったとしても、もうすでに深く傷付いているのだ。それでも、祈るように読む。どうか・・・どうか・・・!

三省堂書店有楽町店                                                      新井見枝香

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