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成毛眞の新読書スタイル

2014/02/25

おすすめの本(29)『エンドロール』

鏑木連/著、早川書房、680円(税別)

エンドロール.jpg昼間はアパートの管理会社、夜は工事現場…

アルバイトの身でありながら様々な仕事を転々としていた門川は、ある日、担当しているアパートの一室で、住人の帯屋老人の孤独死を目の当たりに。彼の遺品整理をしていたとき、8ミリフィルムを発見した。映画監督になることを夢見ていた門川は心躍る。家族もなく、看取る人もなく孤独にその生涯を終えた彼の過去を、門川はひとり、遡る。そのフィルムには、リアカーを引く帯屋老人の姿、彼をとりまく優しい笑顔の人々が、ありありと映し出されていた。

皮肉にも、帯屋老人がこの世から去ったあとに、彼がどのような人だったのかということを知るきっかけになった。門川はこの物語の中で、帯屋老人を知る人々と出会い、彼が映画という自分と同じ分野に興味をもち、まして彼が撮影した映像が手元にあると、奇跡が起きたかのごとく、興奮し、仕事も忘れて彼の軌跡を辿ります。門川は、辿る彼の道筋に、そこに確かに生きていた帯屋老人と、彼がフィルムを通して伝えようとしていたこと、限界集落や戦争体験のこと。様々な真実が明らかになっていきます。

私達書店員は、この書評のように、どなたかが書かれた本を読み、その感想を書かせて頂く機会はあれど、自分で本を書く機会はありません。せめてこの書評を読んで下さる方に何かを感じ取って頂ければ嬉しい…と思いながら書かせて頂いています。震災以降、孤独死のニュースを耳にすることが多くなりました。自分に関すること以外は興味を持たない、またはその対象にならない、無縁社会といわれることも珍しくなくなった現代に、この物語がなにかを伝えるきっかけになれば、書店員として嬉しく思います。帯屋老人が孤独に亡くなったことがきっかけ、あるいは彼が誰かに伝えたかったなにかを、そのフィルムにこめていたのかもしれないとさえ思います。

人と人との絆、繋がりは、必ず存在するものだと実感させられたのは、折りしもこの文庫が刊行された、あの東日本大震災も、そのきっかけのひとつといってもいいと思います。なにか運命的な、メッセージのようなものを感じます。まさしくタイトル通り、エンドロール、思い出や軌跡が走馬灯のように、蘇ります。こころ温まるストーリーです。

大垣書店四条店                                                         小林素紀

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