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成毛眞の新読書スタイル

2015/03/25

第2回対談 「記者群像真実に迫る」

ノンフィクションの書評サイト「HONZ(ホンズ)」代表の成毛(なるけ)眞(まこと)さんがナビゲーター役となり、話題の新刊著者と対談する「成毛眞の新読書スタイル」。2回目のゲストに、ノンフィクション作家の門田隆将(りゅうしょう)さんを迎えた。11日で3年を迎える東日本大震災の発生直後、現場にとどまり、取材活動を続けた福島の地方紙記者を描いた「記者たちは海に向かった」(KADOKAWA)を巡り、熱いトークを繰り広げた。

 「企画力、次に突破力」 
 

門田隆将20150325.jpg
 成毛 今回の作品を書くことになったきっかけは何ですか。
 門田 前作「死の淵を見た男」(PHP研究所)で、福島第一原発のことを書いています。次に原発の外側の真実も描けないかと考えたとき、地元紙の記者の姿を通じて描くことを思いつきました。前書きで「新聞エリアの欠落」ということを書いたのですが、要するに取材する側も、配る側も、そして受け取る読者もいなくなったわけです。日本の新聞史上かつて経験したことのない状況で、どのような闘いが行われたのかということに、同じマスコミの人間として非常に興味があったので、次はこれでいこうと考えました。
 成毛 実際に取材に入る前に考えていたことと、入った後で違っていた点はありますか。
 門田 福島民友の浜通りの担当記者は、合わせて11人いたのですが、そのうちの5人は誰が命を落としてもおかしくない状態でした。実際、1人が津波にのまれ命を落としてしまいました。ここまで危なかったのかと知って正直驚きました。地方の場合、記者が写真も撮るわけです。取材は後からでもできるが、写真はそのときに撮影しないといけないわけで、津波を撮らなければいけないという職業意識というか、使命感の強さには驚かされました。
 成毛 この本を読んでいて、最初に折り目を付けたのが、浪江支局長のトラウマの原因です。取材をしていて津波から老人と子供を助けられなかったという悔恨の念ですよね。こうした心理描写は映像ではなかなか描きにくい。活字の力はすごいと思いました。
 門田 映像であれば相当な名優でなければ表現できないでしょう。1人の記者が持つ心の中の悩み。報じる側も人間ですから。彼は新聞記者をやめようと思っていましたが、僕はずっと「絶対にやめたらいけない」と言っていました。
 成毛 全体を読むと、非常にスピード感があって、ビジュアル的に楽しめると思いました。群像にもなっていますし。
 門田 スピード感、リズム感は意識しています。週刊誌のデスクを18年間もやっていましたので。昔の週刊新潮は、5、6ページの特集記事が普通なんです。最後まで読んでもらわないといけないわけですから。この作品に関しても「一挙に読みました」という感想が一番うれしいです。
 成毛 ノンフィクションに触れていなかった人たち、漫画しか読んだことがない人も楽しめるというのは非常に重要ですよね。
 門田 ノンフィクションが売れないというのは、やはり読みにくいからだと思うんです。
 成毛 そうだと思いますね。HONZは、読みやすくて面白いノンフィクション以外は取り上げません。ほかにノンフィクション作家として何か心がけていることはありますか。
 門田 一つは企画力です。「死の淵を見た男」にしても今回の作品にしても、どのようなことに視点を置くかということです。次に、相手に取材に応じてもらうためにどう説得するかという「突破力」です。もちろん「取材力」「文章力」「構成力」は必要です。

雑誌と新聞

 
 成毛 門田さんは今回の作品で、新聞記者を取材して、ご自身は雑誌の編集者、記者でした。ジャーナリズムという点で、新聞成毛眞20150325.jpgと雑誌にはどのような違いがありますか。
 門田 視点が全然違います。新聞記者の場合は、今日取材したものを、すぐに紙面に載せなくてはならない。短時間で「要件事実」を抽出して正確に物事の事象を伝えなければならない。その際、省略されることのある「事情」に本質があるのではないかと考え、書くのが雑誌メディアではないかと思います。
 成毛 ところで、出版界の現状をどのように考えていますか。
 門田 1970年代とか80年代の人は、活字を読むことで知的喜びを得る人が多かった。自分もその一人でした。
 成毛 僕は意外と本は売れているのではないか、紙と電子を合わせると、実は活字に対する接触時間は上がっているのではないかと考えています。特に一時期、10代後半の女性たち、17、18の女の子たちがあんなにいっぱい携帯で小説を読むということはなかったと思います。これがボディーブローのように効いて、主婦になった時、もう一回、活字に戻る時期がいつか来るのではないかと期待しています。

鴎外の文章


 成毛 門田さんのお薦めの本を教えてください。おススメ本リスト20150325.jpg
 門田 週刊誌の編集部にいたとき、当時の編集長に、「お前の文章はくどい。余計な装飾の言葉は要らん。森鴎外の文章を読んでみろ」と業務命令のように、よく言われました。中でも「阿部一族」は読みやすく、お薦めです。森鴎外ばかり読んでいた時期もあります。
 成毛 変な話なんですけど、余計な言葉がないっていうのは、意外にもネットの文章なんですよね。ほかには、いかがですか。
 門田 石川達三の「人間の壁」ですね。教職員組合に属する女性教師が教育の理想と、労働組合の現実の間で悩む姿が見事に映し出されています。ノンフィクションでは、取材対象者に、心の奥底まで開いて話していただけるかどうかということが勝負になる。石川達三の場合、実際の人物をモデルにして心理も含めて活写しているので、それをノンフィクションでは、どう描くのかという点で参考になります。ノンフィクションはありのまま、真実のままを読者に伝えることができる。これからも日本人の生きざまそのものを描いていきたいと思っています。
 

 
「記者たちは海に向かった」 


 東日本大震災で被災した福島の地方紙「福島民友新聞社」を舞台にしたノンフィクション。福島の浜通りにあった二つの支社、五つの支局には計11人の記者がいた。彼らの多くは、大地震発生と同時に津波の写真を撮影しようと、海に向かった。このうち、入社2年目、相双(そうそう)支社勤務の熊田由貴生記者(当時24歳)は、津波取材の最前線で、自分の命と引き換えに地元の人の命を救う。津波とそれに続く福島第一原子力発電所事故による放射能汚染は、二つの支局を閉鎖に追い込むことになる。
 
 

書店員からの質問


 新読書スタイルでは、企画を支えてくれる書店応援団の書店員の皆さんが著者に質問します。
         ◇
 ――ノンフィクションは、小説のように売れるものではありません。今回のような作品を多くの読者に届けるには、書店側の努力も問われるように思います(くまざわ書店四条烏丸店・佐々木俊章さん)
 「ノンフィクションは小説のようにエンターテインメントに徹することはできません。しかし、小説よりもはるかに大きな感動があると思っています。書店員の皆さんも一緒になって読者に伝えてもらえれば、筆者としてこれほどうれしいことはありません」
 ――震災に関する書籍の発刊、メディアでの取り上げ方が減っていますが、どう思いますか(須原屋本店・舞田敏也さん)
 「ジャーナリズムの一員として、新たな視点と取り上げ方で、大震災について『発信』を続けたいと思います」
 

 書店応援団のおすすめ本


 ◇怒り(吉田修一著、中央公論新社) 
 新読書スタイルでは、書店応援団が折々の「イチオシ本」を紹介します。
       書店員20150325.jpg  ◇
 まさかお前か? それともお前か? やめてくれよ、お前だなんて!! 一体誰が犯人なのか、これほど「犯人ではなければいい」と強く願い、それでも「犯人は誰なんだ」と、貪(むさぼ)るように読んだ小説はない。
 東京・八王子郊外で起きた夫婦惨殺事件の犯人「山神」は、整形をし、1年もの間、逃亡を続けていた。現場に「怒」という血文字を残したが、動機は不明である。
 そこから物語は、房総半島・東京・沖縄の離島、と三つの舞台に分かれる。3人の前歴不詳の男たちは、それぞれの場所で人とつながり、浅からぬ関係を築いていく。

三省堂書店有楽町店・新井見枝香さん
 
 

 

 ◇なるけ・まこと 1955年、北海道生まれ。早稲田大学ビジネススクール客員教授。元マイクロソフト日本法人社長。著書に「面白い本」(岩波新書)、「ノンフィクションはこれを読め」(中央公論新社)など。
 
 
◇かどた・りゅうしょう 1958年、高知県生まれ。ノンフィクション作家。「週刊新潮」特集班デスクなどを経て、2008年に独立。「この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡」(KADOKAWA)で第19回山本七平賞受賞。 


 主催 活字文化推進会議 主管 読売新聞社 協賛 KADOKAWA
 

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