第3回対談 「ディズニー流おもてなし」

「楽しく働けば客も笑顔」 

 成毛 今回の作品は「ディズニーの神様」シリーズの4作目ですが、どうしてディズニーランドで働くことになったのですか。蒲田洋20150326.jpg
 鎌田 新婚旅行で米国のディズニーランドに行き、感動して帰ってきたら日本にもディズニーランドができるという発表がありました。応募して5回目の入社試験でようやく受かったんですよ。最初の仕事が掃除。夜の掃除に、300人ぐらいのキャスト(従業員)が働いていて、そのトレーナー、スーパーバイザー(管理者)という役割を持たされたのです。そこで、ウォルト・ディズニーに「掃除の神様」とたたえられたチャック・ボヤージンさんから仕事を教わりました。
 成毛 シリーズを書くことになったきっかけは。
 鎌田 掃除の仕事の後、教育部門に移ったのですが、ディズニーで学んだことを、普通の企業に応用したいと思い退社し、3年間、外資系のコンサルタント会社にいました。その後、自分の会社をつくり、そのとき、ディズニーの運営会社に入るまで、入ってからのことを小説風にブログに書いていたわけです。それに編集者が目を付け、ずっと断り続けていたのですが、還暦を前にして、何か残したいなということで、本を書くことになりました。
 成毛 書くときに心がけたことはありますか。
 鎌田 ディズニーのノウハウ本はいっぱいありますから、自己啓発本として読めるように書きました。
 成毛 啓発本というより良質の小説であるような気がします。
 鎌田 ディズニーと同じでわかりやすくて、老若男女が読めるものに、また最近は読書離れという現象がありますので、短編にしました。1冊目ができたとき、娘に読ませたんですよ。娘は「これは売れない。本屋で立ち読みで読んじゃう」って。あまり本を読まない娘でも、読んでくれました。
 成毛 実は、1冊目から電車の中で読み始めたんですが、ここで泣いちゃまずいと思って、途中でやめて、危ないなと思って上向いて。人の善意が畳みかけるように出てくる本ですよね。善意というのは本当に力があると思いました。キャッチコピーで書いた方がいいかもしれない。「50過ぎのお父さんが電車の中で読んではいけない本」って。

魅力の秘密
 

成毛 ディズニーランドの成毛眞20150326.jpg魅力って何なのでしょうね。
 鎌田 私の知り合いで、奥さんが5000回、旦那さんが3000回、ディズニーランドに行っている夫婦がいます。ご主人に理由を聞いたら、「ゲスト(客)の顔を見に来るのが一番の楽しみ。いかめしい顔をして歩いている人はいない」と言うのです。恐らく、それが人気の秘密かなと。
 成毛 僕も結構ディズニーランドに行っているんですけど、確かにゲストの雰囲気を見ているだけで幸せになりますよね。鎌田さんにとって、「働く」ということは。
 鎌田 働くって、人のために動くと書くんだけれども、私の場合は自分が楽しくなることなんですよね。ディズニーのキャストたちを見ていると、つらいことはつらいんですよ、雨、風、寒さに加え、ゲストもいろんな人たちがいますから。でも、100人のゲストを相手にしたときに、そのうちの何人かからは反応がある。キャストもそれが楽しみなのではないかと思いますね。
 成毛 今回の本は「おもてなしの神様が教えてくれたこと」です。「おもてなし」ということについては、どのようにお考えですか。
 鎌田 世界のディズニーリゾートのうち、一番評価が高いのが東京ディズニーリゾートなんですよ。
 成毛 そうなんですか。
 鎌田 米国のディズニー関係者がこちらに来て、実際のパークの美しさを見ると驚くのです。例えば捨てられたガムをとるとき、米国ではへらでとるだけなんです。でも日本では、ガムの跡を歯ブラシみたいなもので溶剤を使って一つ一つとるんですよ。ディズニーのサービスと、日本のおもてなしというのがマッチしたのが、日本のディズニーリゾートだと思います。

読書は心の栄養
 

成毛 これまでどんな本を読んできましたか。おススメ本リスト20150326.jpg
 鎌田 高校時代は、とても暗い青春だったんですよ。もう人が怖くて怖くて。私を救ってくれたのは、加藤諦三さんの「俺には俺の生き方がある」です。「人は比較するものではない」というようなフレーズがあって、これが私の人生を変えたんですよ。「Good Luck」。これ、成功の物語なんですよ。だめなやつとだめでないやつとを比較して書いてあるわけです。これは座右の書です。「『原因』と『結果』の法則」というのも最近また売れ始めています。私が読むのは、啓発本が多いですね。
 成毛 ビジネスマンや就職活動をする学生も最近は、新聞や本をあまり読まないと言われていますが。
 鎌田 人間って健康になるためには適度な運動が必要じゃないですか。心にも、やはり適度な栄養を与えなきゃいけないわけで、それが読書だと思うんです。読書をすることは、自分のイマジネーション、感性を高めることですから。
 成毛 まさにそう思いますね。
 鎌田 ディズニーランドにいたとき、評判のよくないスーパーバイザーがいたんですよ。彼はキャストと世間話ができなかった。僕が「新聞読んでるか」と聞いたら、「忙しくて読んでない」って言うわけですよ。僕は「世の中の動きが頭に入っていないと、人との関係づくりはできないよ」と言いました。いつも「身だしなみはいいか」とか、「今日の入園者は何万人だから何々しろ」とか、こんな決まり文句だけじゃ、誰も慕わない。だって、つまらないもの。話をしてもいいなというのは、引き出しがいっぱいある人ですよ。

書店員からの質問

 新読書スタイルでは、企画を支えてくれる書店応援団の書店員の皆さんが著者に質問します。
     ◇
 ――書店に行ったとき、うれしいなと感じるサービスは何でしょうか(宮脇書店本店・藤村結香さん)
 「探している本の売り場まで案内してくれたとき。特に初めて来店した書店で、本のところまで連れて行ってもらえるとうれしく思います」
 ――書店員でも使えるディズニー流おもてなしはありますか(八重洲ブックセンター本店・平井真実さん)
 「笑顔とアイコンタクトが一番です。そして、お客様からの質問にはできる限り調べて答えを返してあげること。最後にお見送りのあいさつがあるといいと思います。『風が強いので気をつけてくださいね』『店頭でイベントがありますので興味があったらご参加ください』など、一言を添えていただけると、足を運んでその書店で購入する意味は大きくなると思います」

〈書店応援団のおすすめ本〉

 ◇未明の闘争(保坂和志著、講談社) 
 新読書スタイルでは、書店応援団が折々の「イチオシ本」を紹介します。書店員20150326.jpg
     ◇
 小説は、絵画や音楽と同じ「芸術」なのだと改めて感じる作品。それもかなり先鋭的な。
 冒頭から、意図的に文法が変になっているし、話の途中で別の話が挿入されたかと思うと、元の話に戻らずに、その話からまた別の話につながってしまい、元の話はもうどこかに行ってしまっている。保坂和志の小説論やエッセーを読んでいれば、これこそが狙いなのだというのは納得できるものの、慣れていないので読みづらい。
 頑張って読み進むと、主人公がセシル・テイラーのCDをかける場面に出くわした。そうかフリージャズを聴くように読めばいいのか。(喜久屋書店心斎橋店 辻中健二さん)

 

 ◇なるけ・まこと 1955年、北海道生まれ。早稲田大学ビジネススクール客員教授。元マイクロソフト日本法人社長。著書に「面白い本」(岩波新書)、「ノンフィクションはこれを読め」(中央公論新社)など。
 ◇かまた・ひろし 1950年、宮城県生まれ。商社、ハウスメーカー勤務を経て、82年、オリエンタルランド入社。99年、コンサルタント会社「ヴィジョナリー・ジャパン」社長。

 
 主催 活字文化推進会議 主管 読売新聞社 協賛 SBクリエイティブ
 

 

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