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成毛眞の新読書スタイル

2014/02/27

おすすめの本(30)『新釈 走れメロス 他四篇』

森見登美彦/著、祥伝社、1470円(税込)

走れメロス.jpgこの短編集は山月記/中島敦、藪の中/芥川龍之介、走れメロス/太宰治、桜の森の満開の下/坂口安吾、百物語/森鴎外5編を原作とし、著者の“新釈“により舞台を現代の京都大学に変えたパロディ集となっている。

それぞれ趣が異なり、それぞれの原作に合わせて語り口を変え、「山月記」では自らの文学の才を信じ没頭していくうちに次第に孤独になっていく京大生がユーモラスに、「桜の森の満開の下」では満開の桜と女性の狂気に振り回される男の姿が静かに描かれている。

「走れメロス」では“阿呆学生”のドタバタ劇がハイテンションで展開される。太宰治の原作は誰もが学生時代に国語の教科書で一度は読んだことがあるだろう。人間の信頼と友情の美しさを描いた、まさに“教科書的”な作品である。メロスは妹の結婚式に出席するため、親友のセリヌンティウスを人質として王に差し出し、命を懸けて困難を乗り越え親友の元へ戻ってくる。セリヌンティウスもメロスが必ず戻ると信じて疑わない。

しかし、森見版「走れメロス」の主人公である芽野は悪名高き図書館警察長官に親友の芹名を人質として差し出し、存在しない姉の結婚式に出席すると嘘をつき逃げる!電車やバスを駆使して京都中を駆け回り、マンガ喫茶で時間をつぶす。メロスは命を賭して濁流を渡ったが、芽野は逃げるために鴨川を渡る。一見、原作とは真逆の裏切りの逃亡に見えるが、芽野と芹名の間には常人には理解できない信頼と友情があった。

この短編集をきっかけに読んだことのなかった原作を読んでも面白いし、読み比べながら再読するのも面白い。学生時代に教科書で“読まされた”ときとは違った感想を持つのではないだろうか。特に「走れメロス」の冒頭と結末部分はぜひ原作と読み比べてほしい。つい、ニヤリとしてしまうに違いない。

なお、文庫版には芽野が逃げ回った京都の地図も収録されているので、ぜひ読書のお供に。

福岡金文堂アニマート筑後店                                                 馬場大彰

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