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成毛眞の新読書スタイル

2014/03/07

おすすめの本(32)『愛と日本語の惑乱』

清水義範/著、講談社文庫、770円(税別)

愛と日本語の惑乱.jpg「汚名挽回」と聞くとすかさず「汚名は返上!挽回するのは名誉!」と訂正してしまうあなた。「おざなり」と「なおざり」の意味の違いをちゃんと把握しているあなた。逆に、「え、違う意味だったの?」とびっくりなあなたにも。

清水義範「愛と惑乱の日本語」を読んでみてください。 日本語の”あるある”“そうだったのか!”がいっぱいで、面白いのです。

主人公は第一線で活躍しているコピーライター。自分の事務所を構え、広告賞も受賞。さらに美人女優と恋愛中で、まさに順風満帆です。 そんな彼が外部委員として選任されているのがSHKという放送局の『放送用語委員』。放送されたテレビ番組の言葉づかい、表記について適切であるか否か、関係者と審議しあうという組織です。

この委員会の議題の、興味深いこと。例えば<数字の書き方について>。日本語って、数字を文章のなかでどう表記するかについて、決まりはないんですね。「2014年」でも「二〇一四年」でも、「200人」でも「二百人」でも「二〇〇人」でも間違いではない。そう言われてみればそうか。作中ではそのせいで放送局の人たちは苦心し、議論が繰り広げられるのですが、出てくる事例、意見のひとつひとつが、「なるほど確かに」と思われるものばかりです。

さらに<中国の地名・人名の読み方について>という議題になると、大変です。「外国の地名や人名は現地での読み方に近い音でカタカナ表記する」という現在のルールを適用すると、劉備玄徳(りゅうびげんとく)や諸葛孔明(しょかつこうめい)が通用しなくなってしまうという。知りませんでした。本当に面白い。

曖昧で魅力的な日本語と、不確かな恋人の愛情に、主人公はやがて飲み込まれていきます。彼が発作を起こすシーンはなかなかに不気味。適切に選ばれない言葉というものは、恐ろしいものです。

最後に。読後、『放送用語委員』を調べて(ネット検索して)みてください。読んでみると、これまた面白い。清水義範氏は実際にNHKの放送用語委員なのだそうで。なるほど。

ダイハン書房
武市和子

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