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成毛眞の新読書スタイル

2014/03/31

おすすめの本(39)『未明の闘争』

保坂和志/著、講談社、1900円(税別)

未明の闘争.jpg力作です。小説は、絵画や音楽と同じ「芸術」なのだと改めて感じる作品です。それもかなり先鋭的な。冒頭から、文章は意図的に文法が変になっているし、話の途中で別の話が挿入されたかと思うと、元の話に戻らずに、その話からまた別の話につながってしまい、元の話はもうどこかに行ってしまっています。時間は一方向に流れるものではない、というようなことを登場人物が語っているが、この小説はそれをそのまま表しています。とにかく、私たちが普段読み慣れている小説とは全く違う構造です。保坂和志の小説論やエッセイを読んでいれば、これこそが狙いなのだというのは納得できるものの、慣れていないので読みづらく、それぞれの話は面白いので、つい時系列に並べ直したい誘惑に駆られてしまいます。頑張って読み進むと、146頁で主人公がセシル・テイラーのCDをかける場面に出くわしました。そうかフリージャズを聴くように読めばいいのか。職場の同僚だった死んだ友人の通夜の話から始まって、共通の友人「アキちゃん」が登場し、彼がドストエフスキーの「分身」などを引用しながら輪廻や前世の話をします。子供の頃に飼っていてもう死んだ犬、妻と飼っていた猫達、にまつわるいくつかの話。死、時間、というテーマが明確になりだしたかと思うと、若い恋人との不倫旅行の話が挟まりだして、二人が公園のベンチに辿り着いた350頁あたりから延々20頁にもわたって、公園の風景やそこにいる物語とは関係のない人々の描写が続きます。これが圧巻です。長めのドラムソロかベースソロを聴いているような、「もっていかれる」感覚です。すごい。

ああしかし、どれだけ言葉を並べても保坂和志の作品の面白さを伝えられない気がします。私の言語力が足りないのはもちろん承知していますが、著者がいつも言っているように、小説の面白さは小説の中にしかありません。エンタテインメント小説が全盛の昨今ですが、このような小説を同時代に読めるということは、とっても文化的に幸せであるなあ、と心から思います。

喜久屋書店 心斎橋店
辻中健二

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