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成毛眞の新読書スタイル

2015/04/16

第6回対談 おもしろ自己啓発

ノンフィクションの書評サイト「HONZ」代表の成毛眞さんが、話題の著者と対談する「成毛眞の新読書スタイル」。3回目は、ファンタジー仕立ての自己啓発書『夢をかなえるゾウ』シリーズの3作目『夢をかなえるゾウ3』(飛鳥新社)を書いた作家の水野敬也さんを招いた。

  1日1課題

 
 成毛 『夢をかなえるゾウ』シリーズですが、累計で300万部売れていると聞きました。好調水野敬也20150416.jpgな理由は何ですか。
 水野 難しいですね。シリーズ1作目が売れ出したのは、関西からでした。関西の書店に行くと、「君の関西弁は完璧だね」とよくほめられたんですよ。私は愛知出身なのですが、編集者が京都の大学を出て、校正も大阪、兵庫出身の人に丁寧に見てもらっています。それが売れた理由ではないかもしれませんが、関西の人は非常に言葉を大事にしている人が多いと思うので、おそらくこういった細かいところで読者は本を大事にしてくれるのだなとは思っています。
 成毛 シリーズ自体を書くことになったきっかけは。
 水野 そもそも自己啓発書、成功法則書、実用書というのはたくさん出ているのですが、実際に読んだ人みんなが成功したという話は聞きませんし、僕の場合もそうでしたが、なかなか行動につながらない。それは、現在ある、こうした自己啓発書自体に問題があるのではないかと思いました。そこで、課題のハードルは下げるけれども、一日一つ何か行動を起こそうよ、たとえできなくても自分を責めないでいいよ、というように行動に移しやすい内容の本を作りたいと思ったのです。本の中で、神様が一日一つの課題を与えるという形にしました。
 成毛 なぜゾウの神様だったのですか。
 水野 神様が成毛眞20150416.jpg関西弁で話すという設定はすぐ決まりました。そこで、インターネットで、どのような神様がいいかなと探していたところ、ゾウのガネーシャの画像に出会ったのです。おなかは出ているが、ちょっとありがたみがありそうな感じで、まさにこの神様しかないと思いました。今はキャラクター自体が独り歩きしていて、勝手に物語ができていく感じですね。
 成毛 『夢をかなえるゾウ』というタイトルは、どうしてつけたのですか。
 水野 「夢をかなえる」という言葉だけでは、あまりに自己啓発書すぎる感じで気持ちが悪かった。そこで、最後に「ゾウ」をつけると、ダジャレになりますし、実用書ではなく、ファンタジーの要素も加わるようにも思って、そう決めました。
 成毛 このシリーズで心がけていることは。
 水野 自己啓発書とはいうものの、行動を始めても三日坊主で終わるとか、そのときに自己嫌悪に陥るとかいうようなネガティブな気分を救うことがまず大事だと考えています。教祖と信者のような関係で誰かが成功したことを一方的に教えるというのではなく、ゾウの神様にもユーモアを交え、物を言うという作風を大事にしています。
 成毛 “教え”を守ったら、その次に何かいいことがあるというのが普通の啓発書ですよね。でもそれがない。新しい形の啓発書ですね。
 水野 この本にもある程度そういった話はあるのです。エンターテインメントでは予定調和を崩すことを考えるじゃないですか。実用書の中に出てくる話を読むと、あまりにも予定調和になりすぎていて、これはウソだろうと感じるものがよくあります。このシリーズでは、いくつか故意に予定調和を崩し、“教え”を守っても、成功しないという話も入れてあります。個人的にも、実用的な知識がありながら、エンターテインメントの面白さもきちんとある本が好きだからです。
 成毛 そう考えて読んでみると、漫画のようなところがありますよね。
 水野 学生のときから漫画はよく読んでいます。漫画を読んで、ゲームセンターに行く毎日でした。漫画の影響はとても受けています。
 成毛 もともと何かを書くのは好きだったのですか。
 水野 本でいろいろ影響を受けてきたので、あこがれはありましたけれど、それを自分で書くとはまったく思っていませんでした。
 成毛 書くときはどこで書くのですか。
 水野 事務所で書きます。結構、神経質なので人がいると、集中できませんが、人がいないとさぼります(笑)。かわいそうなのはアシスタントですね。ちょっと向こう行っててとか、ちょっとこっち来てとか、しょっちゅう言っているので。
 成毛 万人が読める自己啓発書というのはあまりないですよね。
 水野 『夢をかなえるゾウ』を初めに書いたのは30歳のときでした。執筆中も、たとえば60歳の人が、僕みたいな若造の意見なんか聞きたくないよなと思っていましたので、僕自身が表に出るような手法は避けました。どんな人でも偉人のすばらしいエピソードであれば勇気付けられるはずだと思って、懸命に具体例を探しました。
 成毛 読者からの反響で面白いものはありましたか。
 水野 家族で回し読みしたというのが一番うれしかったですね。たとえば中学生が読んで面白いと言って家に置いておいた本を、父親がたまたま見つけて面白いじゃないかといって家族がつながる。本の力でギュッとなる。本当に離れていたり、けんかをしていたり、いろいろな家族がいると思いますが、コタツの上のミカンのような感じで家族みんなをつなぐことができたらというのが僕の理想ですね。
 成毛 お薦めの本を教えてください。
 水野 回転ずしチェーンの社長も務めた豊崎賢一さんの『まっすぐバカ正直にやり続ける。』です。ビジネスの上では、粗利益を高くしろというのが、正しいと思いますが、この本では原価率を上げろ、粗利をあまり取るなと言っています。つまり原価が高いものを出せばお客さんは喜ぶだろうという至極まっとうなことを言っているわけです。
 成毛 ほかには何かありますか。
 水野 高田侑さんの『うなぎ鬼』です。僕がふだんあまり読まないホラー小説なのですが、たまたま読んだら、本当に面白かった。ただ怖がらせるだけでなく、骨太のテーマが底流にあるのです。
 成毛 「活字離れ」と言われていることについてどう考えますか。
 水野 本というものに絶対的な信頼を置いています。僕自身、本に救われた経験もあり、将来においても本がなくなることはないと思っています。本で伝えたいテーマは残り続けると思いますので、本を作る側としては、活字離れということを決して言い訳にしてはいけないと思っています。僕は何かを調べようとするときに、国会図書館によく行きます。1週間続けて通うときもありますし、何もなくてもふらっと行く。僕が抱えている課題も、ここに行けば絶対解決してくれる。そんな本が見つかる場所なのです。本当に国会図書館は最強だと思います。
 成毛 本をあまり読まない若い人に何かメッセージはありますか。
 水野 僕は、悩むと絶対に本に行き着くんです。本で解決できない悩みはまずないと思っています。そういったとき、初めはネット検索から入っても、最終的には本にたどり着くような方向に若い人たちを連れていければと思います。
 成毛 今回がシリーズ3作目ですが、第4弾というのはあるのですか。
 水野 すでにテーマが見つかっているので、少なくとも5作目までは書くと思います。 

◇なるけ・まこと 1955年、北海道生まれ。早稲田大学ビジネススクール客員教授。元マイクロソフト日本法人社長。著書に『面白い本』(岩波新書)、『ノンフィクションはこれを読め!』(中央公論新社)、最新刊『メガ!―巨大技術の現場へ、ゴー』(新潮社)など。 
◇みずの・けいや 1976年、愛知県生まれ。作家。『ウケる技術』(共著、新潮文庫)でデビュー。『人生はニャンとかなる!』(共著、文響社)、『あなたの物語』(画・鉄拳、文響社)、DVD『温厚な上司の怒らせ方』の企画・脚本や、映画『イン・ザ・ヒーロー』(2014年)の脚本も手がける。


 主催 活字文化推進会議 主管 読売新聞社 協賛 飛鳥新社
 

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