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成毛眞の新読書スタイル

2013/11/27

おすすめの本(7)『昼田とハッコウ』

山崎ナオコーラ/著、講談社、1995円(税込)

昼田とハッコウ.png本や本屋にまつわる小説を好んで読む。それらの中には書店の苦労や商売の面白さ、物語特有の奇跡などを語るものが多く、本屋を好意的に扱っている。山崎ナオコーラ『昼田とハッコウ』も、その立場に変わりはないのだが、従来の本屋小説とは一風違い、仕事や婚姻、社会と自分の関わりなど著者の揺るぎない思いを本屋の日常内に淡々と描いた新しい小説である。

アロワナ書店の三代目、田中白虹(ハッコウ)と、ハッコウのいとこの昼田実(みなる)は、家業の本屋存続の危機に際し、性格や生き方の違う両者や周辺の人々との毎日の中で、本屋の進むべき舵をとっていく。

「お客さんが書店で味わいたいのは、居心地の良さと、自分の意志と関係なく入ってくる情報」や、「新刊開けにはドラマがある」など本屋の本質を突いた言葉は、職業柄というよりも本好きにはたまらず、思わず膝を打ってしまう。また、本屋に限らず、私たちが日々取り組んでいる仕事が、社会とどのようにつながり貢献しているのかという根源的な悩みにも、随所に表現を変えて答えようとする著者の気迫が伝わってくる。それは、読書をした人が本から影響を受けて劇的に変化することはなくても、明日からの生活に確かな潤いをもたらすという喜びと似ているようにも感じた。

飼っているアロワナのお告げで売れる本が当たる、など羨ましいけれど現実には起こりえない出来事も、もしかすると世界をゆっくりと変えていく事象になるのではと、前向きな思いにさせてくれるのは、著者の本を愛する気持ちの表れであろう。親しみやすい雰囲気や、仕事の仲間と語る言葉を持つ重要性、ひいては口幅ったいと思われるような文化を守る使命感など、多くの人が心の内側に秘めている静かな情熱を代弁してくれるような、素敵な哲学にあふれた物語だ。

喜久屋書店阿倍野店                                                      市岡 陽子
 

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