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新!読書生活

2005/07/26

第2回「君に贈る夏の一冊」

■出演
松田哲夫さん(編集者)
あさのあつこさん(作家)
hanae*さん(モデル)

 夏休みを迎え、中高生を中心に読書の楽しさを伝えるトークショー「新!読書生活〜君に贈る夏の一冊」が7月9日、読売新聞東京本社で開かれました(岩波書店、講談社協賛)。編集者の松田哲夫さんを読書ナビゲーターに、ゲストの作家あさのあつこさんと、今回のブックフェアPRポスターのモデルにもなっているhanae*さんが、この夏、読んでほしい本について自身の思い出を交えながら語りました。

「出会いにはタイミングも」〜松田さんによるイントロダクション

未知の世界へのスイッチ 友だちとしてつき合おう

20050726a_01.jpg 編集者として36年間、400冊以上の本をつくってきた過程で、いろいろな人たちと出会い、様々なジャンルのことを勉強してきました。本には未知の世界へのスイッチが隠されていて、それを見つけたときの喜びは何物にも代え難いと思っています。

 今年4月に『世にも美しい数学入門』を出版するまで、僕はずっと数学アレルギーでした。それが、この本のおかげで、数学の美しさ、楽しさを知った。本が新しい世界を開いてくれたんです。

 本を読む上で、こうしなきゃいけないという約束事はないと思います。本当に自分の気に入ったものから読み始めればいい。人から「非常にいい本だ」と薦められて読み始めても、なかなか頭に入ってこない本だってあります。そんな時は無理に読もうとしない方がいい。本には出会うタイミングがあり、また違う機会に開いてみると、思わぬ入り口が見つかることだってあると思う。

 僕自身は子どものころから友達同士で、読んだ本について自分なりの意見を戦わせあったり、「おもしろかったよ」とすすめあったりしています。ある一冊をほかの人がどう読んだのかを知るだけで世界が広がります。

 読書を重ねていけば、本が友達のように「読んでほしい」と呼びかけてくるようになります。すばらしい本はたくさんあります。ぜひ「友達」としてつきあってみて下さい。

「バッテリー」私の10代再び、ウェブで変化「小学生日記」〜トークショー

【松田】 東京や大阪に住む作家が多い中、あさのさんは岡山で著作活動をなさってますね。

【あさの】 小さな町でずっと生きてきて、空気や空の色、闇の濃さまで自分の肌にしみこんでしまった。それが今でも書く力になっています。

【松田】 hanae*さんは6歳のときから日本で暮らしています。生まれた米国との違いは。

【hanae*】 英語だと文章の始めは必ず「I」なので、最初は日本語でも「私が」「私が」と言っていたら、周りの子と何か違う。それで主語を言わなくなったら、友達がたくさんできるようになりました。

【松田】 お二人が本を書くようになったきっかけは。

【あさの】 最初は漫画家になりたかったのですが、絵が描けなくて、あきらめました。12、13歳のころ、感銘を受ける本に出会って、本当は物語を書きたかったんだと気づいたのが最初の一歩です。

20050726a_02.jpg【hanae*】 小学3年生の時、夏休みの自由研究として、読売新聞の作文コンクールに応募し、入選したのがきっかけです。ウェブ連載の日記とあわせて本にしたんです。

【松田】 今日の大きなテーマは中高生の読書です。どんな本を読んでいますか。

【hanae*】 期待を裏切る終わり方をするような本が大好き。重松清さんの『ナイフ』に衝撃を受けたんです。本を選ぶときに一番影響されるのが母。寝る前によく2人で同じ本を読んでいます。

【あさの】 私は中学生になるまで読書経験がほとんどなかったんです。初めて読んだのが、コナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』。こんなおもしろい世界があるんだと扉を開いてくれた本です。サマセット・モームの『人間の絆』は、出だしのシーンの美しさに圧倒されて、いまだに胸が震える。この2冊との出会いで、私自身が読者におもしろいと言わせる物語を紡いでみたいという野心を抱いたんです。

【松田】 今の中高生にどんな本を読んでほしいですか。

【あさの】 あくまで主体的にいろんな読み方をしてほしい。だからこそ、どの子にも好きな本を選べる環境を与えてもらいたいなと思います。

【松田】 子ども向け、大人向けという本の境界線はあるんでしょうか。

【あさの】 私は、若い人に向かって何かを書くときは、滅びや死で終わるような徹底的な絶望だけは書くまいと心がけています。明日を生きる人たちに本当にささやかな希望を語ることができるのか。そう自分に問いかけながら書いています。

20050726a_03.jpg【松田】 今回、「君に贈る夏の一冊」として紹介する本も、いろんな意味で希望なり元気なりを与えてくれます。まずは、あさのさんの『バッテリー』ですね。

【hanae*】 タイトルの意味さえ知らなかったけど、ちょうどテレビで高校野球を見ていたころに本屋さんで出会ったんです。ただ一緒に遊んだりするだけでなく、ボールを投げたり受けたりすることで、絶対にだれも間に入り込めないような2人の厚い信頼関係が、すごくうらやましくて、何度も読みました。

【松田】 登場人物の一人一人が、自分というものをしっかり持っているのがすごくすてきだなと思う。敵役もちゃんと主張するお話って意外となかった。

20050726a_04.jpg【あさの】 私は、原田巧という主人公の少年を書きたくてしようがなかった。自分が10代前半の時に置いてきてしまったもの、しゃべれなかった言葉、会えなかった人、そういうかなわなかった思いを含めて、もう一度彼とともに生き直したい、と。バッテリーは集団でやる野球の中で、1対1で向かい合ってる関係じゃないですか。その「こいつでなければだめだ」という緊迫した唯一の関係を書きたかった。私が10代の時に、そういうだれかと巡り合いたかった。その思いだけで、十何年、シリーズを書き続けた物語です。

20050726a_05.jpg【松田】 hanae*さんの『小学生日記』は、小学生が日常に見ている事柄をまっすぐ見つめてしっかり文章にしている。大人でもなかなかできないことです。

【あさの】 小学生が今、こういう目で世界を見ているということがぎっしり詰まっていて、すごく新鮮でした。いろんなものをしょい込んでしまった大人にはたぶん書けない。

20050726a_06.jpg【hanae*】 学校の作文は先生に出すだけだから、どんな風に書いてもいいと思っていたけど、ウェブに載せると、いろんな人が見る。身の回りのことを書いたから、そこに出てくる人も読むかもしれないと考えながら文章にしていくと、いろんな人の違う一面が少しずつわかるようになりました。時間を忘れさせてくれるファンタジー

【松田】 次は、青春小説の3冊について。

20050726a_07.jpg【あさの】 『永遠の出口』は、一人の人間が緩やかに大人になっていく過程をおもしろい物語としてきちっと提示している作品。生きてるって結構いいなっていう思いにさせてくれる。これから大人になろうとしている人たちに、人生を語る大人の言葉として読んでもらえたらいい。

【hanae*】 『4TEEN』のドラマに出た時は、まだ12歳。14歳という年齢にあこがれを持って読みました。今、14歳になってみて、これはリアルなようで、実際に自分の身近で起きたら大変だなとも思う。

20050726a_08.jpg【あさの】 ほとんど読書経験のなかった娘が『GO』を読んだ後、「本ってこんなにおもしろいものだったんだね」と言った言葉が忘れられない。そう言わせた力は何だろう、とショックで敗北感を味わいました。

【松田】 青春期には、屈折も挫折もある。3冊ともちゃんとその辺を向き合って書いていて、最後は元気を与えてくれる見事な青春小説です。次は後藤竜二さんの2作。

20050726a_09.jpg【hanae*】 『14歳ーFIght』を読んだ時、ちょうど14歳だった兄に、「お兄ちゃんの年齢ってこんなに大変なの」って言いました。

【あさの】 『真田十勇士 猿飛佐助』を挙げたのは、血が騒ぐ本だから。昔の活劇というか、楽しくてたまらない。

【松田】 あさのさんはファンタジーの『ナルニア国物語』をどう読まれましたか。

20050726a_11.jpg20050726a_10.jpg【あさの】 お姫様とか、子どものときにあこがれていたものが全部ここにあるなって思いました。

【hanae*】 「ファンタジーを信じると、人間性が豊かになる」と言われたことがあります。

【松田】 地図や人物相関図をつくりながら登場人物の個性や食べ物、小道具などの世界観を共有するおもしろさが、ファンタジーにはある。『クラウド・コレクター』と『すぐそこの遠い場所』は、2冊でその世界が立体的に見えてくるという珍しい本です。

20050726a_12.jpg【あさの】 私、こういう機会では必ずロバート・ウェストールの作品を出すんです。『海辺の王国』も『弟の戦争』も戦争の話なんですが、暴力はいけないとか、犠牲になるものはかわいそうだとかという教条的なことではなく、物語としてはらはらおもしろい。なおかつ、読んだ後に、我々は戦争というものにどう向かい合えばいいのかと考えさせられてしまう。ともかく読んで下さいとしか言えません。

【松田】 最後に、『こんな夜更けにバナナかよ』を紹介させて下さい。筋ジストロフィーの患者と介護するボランティアの交流を描いた本です。患者を支えている人が実は、患者に支えられている、その関係がすごくよく出ていて、さわやかな気持ちになれる。ちょっと重たいテーマですが、いい意味で明るく書いてあるので、すごくいい本に出会えたなと思ってます。

(2005/07/26)

松田哲夫(まつだ・てつお)
東京都生まれ。編集者、筑摩書房専務、パブリッシングリンク社長。「逃走論」「老人力」などのベストセラーを編集。著書に「編集狂時代」など。
あさのあつこ
岡山県生まれ。作家。野球少年を描いた「バッテリー」(以下シリーズで6巻まで刊行)で野間児童文芸賞。ほかに「No.6」「透明な旅路と」など。
hanae*(はなえ)
米国生まれ。モデル。雑誌やCMのほか、女優としても活躍する中学2年生。作文やウェブ上で公開したコラムをまとめた著書「小学生日記」が話題に。

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