大盛堂書店 山本亮さん推薦!
「もう生まれたくない」(長嶋有 著) 講談社 

ビブリオバトル  読中、まず日常にまつわるゴシップに浸る愉しみに満たされる。本作は2011年の震災をきっかけに、普通に日々を過ごす大学の女性職員や学生たち登場人物の日々を通じて、今までよりも身近になった「死」ということに、様々な問いや考えをそれぞれが著者を通じて表している。もちろん、その登場人物たちは、大なり小なり周囲の耳目を集めるゴシップに彩られているが、それらを覆うように、メディアやSNSを通じて実際起こった死や娯楽が淡々と綴られて続けている。

 だが、物語や彼女たちがその情報や感情にただ支配されるわけではない。抗うことのできないそれらに対して、受け身でもあるが時に生身の人間として能動的でもある。例えば、自身の子供とある出来事に遭遇した大学の職員であるシングルマザー・美里に、“類型的であれ平板であれ、そういう全ての生に”自然としがみつかせる。

 生死に大きくも小さくない、それは本書において一貫とした姿勢でもあり、さらに思い出したように吐露する“「ひっそり」愛するという「愛し方」”ということ。この言葉に著者が最も伝えたい感情が詰め込まれているのではないだろうか。そして読み終わった後も、この生と死の波間に身を委ね、その先に広がる長島有の世界を読まずして、果ての終わりを見つけるのはまだ早いと感じるのは、自分だけではないはずだ。これからも折に触れて手を伸ばして、その感触を密やかに楽しみたい物語である。


 

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