池上彰氏がトランプ、中東、北朝鮮を語る

世界情勢について語る池上さん(諫早文化会館)

世界情勢について語る池上さん    (諫早文化会館)

 

  長崎といいますと、元々世界に開かれたところですよね。この際ですから、中東、アメリカ、北朝鮮問題といった世界情勢について「こどもニュース」風に説明します。

 サウジアラビアなどアラブの国々がカタールと国交を断絶し、中東情勢が緊迫しています。なぜこうなったのか。背後にトランプ米大統領が出てきます。イランと敵対しているイスラエル寄りのトランプ氏はイランを敵視しています。トランプ氏が、サウジ訪問でイラン包囲網を作ろうとあおった。けれども、イスラム教スンニ派のカタールはスンニ派のサウジとシーア派のイランの間に位置し、両国と仲良くしないといけないと考えている。サウジはアメリカの後ろ盾でイランを痛めつけようとしたけれど、イランと仲良くしなければいけないといったカタールを、裏切り者としていじめている、といった構図です。   

 トランプ氏は言うことが定まりません。長女イバンカの夫で左寄りのクシュナー大統領上級顧問、そして右寄りのバノン大統領上級顧問・首席戦略官に、両方から引っ張られて右往左往しているからです。シリア攻撃やイラン包囲網はクシュナー氏、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」離脱はバノン氏に引っ張られました。トランプ氏はすでに次の大統領選に向けて選挙運動をしています。では政権が大丈夫かというと大丈夫ではない。共和党を支える優秀な人たちは政権に入っておらず、政権の中枢は空洞化しています。大統領選でトランプ氏は炭鉱労働者の支持を得ました。グローバリズムが進む中で、古くからある石炭産業などのアメリカの産業が衰退することへの反発があったからです。ベルリンの壁が崩壊し、ヨーロッパでは欧州連合(EU)に東欧の国々が入ってきて、人の移動も自由になった。東欧から大勢の人がイギリスに住み着くと、高い税金を払って社会保障を維持していたイギリスの人にすれば「けしからん、EUから離脱すればいいんだ」となります。グローバリズムへの反発がトランプ現象であり、イギリスのEU離脱です。                      

 もう一つ、日本を取り巻く大きな国際情勢が隣の北朝鮮問題です。 金正恩(キムジョンウン)は、自分に自信がないので、父親ができなかった核兵器の小型化や弾道ミサイル開発をして父親を超えようと必死です。唯一絶対の指導者の言うことを聞かないと自分の命が危ういとなれば、従わざるを得ないですよね。国全体が、上から指示されたことだけを聞くような指示待ちになれば、国がどんどん衰えていくのは明らかです。上から指示される前に自分から考えて動くことをやらないと国の将来は危うい。我々は北朝鮮から学ぶことができます。

  ぜひ活字に親しんで、もっと勉強しようという気になっていただきたい。そうすれば、若さを保つこともできる。一石二鳥でしょう。    

 

池上さんの講演に熱心に聞き入る聴衆

池上さんの講演に熱心に聞き入る聴衆

 「池上彰のニュースから世界を読み解く」(活字文化推進会議、鎮西学院主催)は6月10日、長崎県諫早市の諫早文化会館で開かれました。池上さんは米国や欧州、中東、北朝鮮の情勢と背景を解説するとともに、新聞などの活字文化に親しむことの大切さを訴えました。会場に詰めかけた約1000人の市民らは、分かりやすく軽妙な語り口にさかんにうなずいていました。聴衆との質疑応答で「中高生に国際的な興味、関心を持ってもらうために必要なことは何でしょうか」と尋ねられ、「親子でテレビを見る機会をつくっていただいて、北朝鮮のミサイルが発射されたら、『怖いよね』だけじゃなく、『何であんなことをするのだろうか』と質問を投げかけてみることです。また、親が新聞を読んでいる時に、『新聞にこんな面白い話が載ってるんだけど』と語りかけるのがいいんじゃないかな」と応じていました。

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