全国高等学校ビブリオバトル初代チャンプ 中村朱里さん推薦!『ことばのしっぽ-「こどもの詩」50周年精選集』
(読売新聞生活部監修)中央公論新社

   読売新聞家庭欄の人気コーナー、「こどもの詩」。中学三年生以下の子どもたちが書いた詩を掲載するこのコーナーは、今年でなんと50周年。この『ことばのしっぽ』は、そんな50年間の精選集だ。

せきがえ(小野里奈・小1)

 きょう/せきがえが ありました/一がっき つかっていた/つくえと いすに/みんなにわからないように/チューしました

(豊田敏久・3歳)

 ママ/ここに/カンガルーがいるよ

   一学期間使っていた机への愛着や離れる淋しさを「チューしました」と表現するかわいらしさ。初めて出会った字の中にカンガルーを見つける発想。まだ沢山の言葉を知らない子どもたちが、知らないものに出会ったり、感じたりしたことを自分の世界の言葉全てで表現しようとするとき、そこに詩が生まれるのだと気づかせてくれる。

  「こどもの詩」は、どの詩にも愛が溢れている。子どもが詩に書く、幼い兄弟への不満や口うるさい父母への文句も、それを詩にするだけの余裕や豊かな心があり、根本には愛があるからこそ、読んでいて楽しい。また、そんな子どもたちを見守る大人たちの愛も「こどもの詩」には欠かせない。まだ字が書けないだろう小さな子どもたちが口にした言葉も、周りの大人が書き留めて、詩として掲載される。誰が書き留めたのだろう。誰が新聞に送ろうと言い出したのだろう。紙面に載って、子ども本人はまだわからなくても、周りの大人はきっと嬉しくて盛り上がるだろう。新聞の切り抜きを大きくなったその子に見せるのだろうか。その子は今、どうしているのだろうか。そんな想像が膨らむほど、こどもの詩の周りは、愛と幸せでいっぱいなのだ。

  「こどもの詩」の選者は、日本を代表する詩人が務めてきた。初代が山本和夫さん、二代目が川崎洋さん、三代目が長田弘さんと代替わりし、2015年からは平田俊子さんが担当している。「こどもの詩」の人気の一つでもある選者による短評は、川崎洋さんのときからつくようになった。それぞれの選者によって、その短評に個性がある。しかし、どの選者にも共通して言えるのは、選者と詩を書いた子どもが紙面で会話しているような優しさ。また、どんなとっぴな表現であっても子どもを一人の詩人として扱い、同じ目線になって答えてくれる暖かさだ。ときにユーモラスで、ときに哲学的な短評は、それも含めて「こどもの詩」であると感じさせる。

    沢山の言葉を知って、様々な体験をして、私たちは大人になった。そしていつのまにか“ことばのしっぽ”が見えなくなってしまった。あの頃の私の世界では、おひさまの光は確かにすっぱくておいしかったし、扇風機はいつも誰かを探していたのに、だ。でも、「こどもの詩」を読めば、子どもにしか見えない世界を見せてくれる。忘れてしまった気持ちを思い出させてくれる。ページをめくれば、私でもまだ“ことばのしっぽ”をつかまえられる。そんな気にさせてくれる一冊だ。

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