こどもの本フェスティバルinゆうばり  本の魅力に酔いしれて

落合恵子さん(作家) <大人は無理強いやめて>

子どもの本の専門店「クレヨンハウス」を、東京で始め、32年になります。最初の20年は、大笑いするほど大赤字。本屋以外の収入を全部つぎ込んで、今ようやくほっとしている状態です。

 原点にあるのは、私の子どものころの経験です。私に父はおらず、母は仕事をしていました。「いつもひとりぼっちでかわいそうだね」と、よく言われました。でも、私にとっては本の登場人物と出会えるとても豊かな時間でした。

 本には好きにお金を使え、と母は言ってくれました。それでも足りず、本屋で立ち読みをすると、店主さんがすぐ横でハタキをかけ始めました。そのときに「大人になったらハタキをかけない本屋さんになろう」と思ったんですね。

 20代の後半に「スプーン一杯の幸せ」というシリーズがベストセラーになり、入った印税を全部使ってやろうと考えたときに思い出したのが、子どもの本屋のことでした。オチアイ.jpg

 しばらくすると、これは教育、福祉、政治にもかかわる問題だとわかりました。子どものアトピーに悩む母親に出会うと、食べるものが気になりだしました。一つ一つ取り組んできました。

 子どもの本にかかわると、本の中で完結してしまいがちですが、本の中の海しか知らない子どもより、本物の海の塩っ辛さや、波に乗ったときのふわっとした感覚を知っている子どもの方が幸せでしょう。子どもの本と現実をどう結びつけていくか、これが大人の仕事だと思います。

 「本を読む子は良い子」という呪縛(じゅばく)から、大人がまず解放されなくては。怖いのは、読書の数を競い合ってる子どもがいること。本当は、1冊大好きな本が1年に一つでも見つけられたらすてきなことなのです。

 大人が変わらなくてはいけない。ですから、本を読んだあとむりやり感想文を書かせたりしないでください。私たちは、子どもが何か困ったなと思うときに「ねえ聞いて」と呼びかけられる存在ですか。その問いかけを忘れないでいたいと思います。

 1945年、宇都宮市生まれ。行動する作家として、子どもの本の専門店「クレヨンハウス」を開店し、「月刊子ども論」「月刊クーヨン」も発行している。主な著書に「崖っぷちに立つあなたへ」「ぼくはぼくでいい」など。

 

 木村裕一さん(絵本・童話作家) 
 <工作に子どもたち夢中>

キムラ.jpg木村裕一さんによる「しかけ絵本とオモチャを作ろう」には、5〜12歳の子どもたち約170人が集まった。

 「人前で話すのは苦手なんだよ」と言いながら、紙袋のお面をかぶった木村さん。「へんしーん」と声を出しながら、1枚、2枚、3枚とお面を外して素顔に変身。あっという間に子どもたちの心をつかんだ。

 紙切れに動物の絵を描き、二つ折りにして洗濯ばさみの足を装着し、ジャンプさせて高さを競うゲーム。ストローと牛乳パックの切れ端で作る「紙コプター」。見知らぬ子のグループに入り緊張気味だった12歳の男の子も、いつの間にかガッツポーズを見せるほど、生き生きとした表情に。

 子どもたちが元気になったところで、さっそく絵本。「あしたのねこ」「オオカミグーのはずかしいひみつ」などを読み聞かせ、絵本の世界に子どもたちをいざなった。

 1948年、東京都生まれ。戯曲やコミックの原作、小説などでも活躍している。著書は500冊以上。中でも累計900万部の「あかちゃんのあそびえほんシリーズ」や、映画化もされた「あらしのよるに」は大ベストセラーになった。

 

長谷川義史さん(絵本作家) <アドリブで笑いの渦> 

長谷川義史さんは「大人も子どももみんなのおはなし会」を開演。大きな画用紙に次々と絵を描いていく「ライブ紙芝居」や、アドリブを利かせた軽妙な絵本の読み聞かせで、会場を埋めた約600人の聴衆をとりこにした。
 hasegawa.jpg紙芝居は、おなじみの「さるかに合戦」と思いきや、出てくる仲間はなんと、大阪の名物人形「くいだおれ太郎」と「グリコの看板」。

 「一緒に道頓堀を盛り上げた仲じゃないか」と助太刀を申し出る太郎に、「人を気にしてる場合じゃないんじゃないですか」とカニからツッコミが入ったり、サルを追いかけたグリコの看板が300メートルで走れなくなったり。

 結局、サルに逃げられてしまう破天荒な内容に、大人から子どもまで会場中が笑いの渦に包まれた。choushuu.jpg

 絵本「おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん」の読み聞かせでは、「ひいじいちゃん、ひいひいじいちゃん……。ひいひい読みきれないほどさかのぼる。みんなお猿さんみたいなのとつながってる。考えてみいな。大変なことやで」と、生命の神秘さを問いかけた。

 絵本4冊を朗読した後は、ウクレレの生演奏によるライブステージ。「幼稚園に行くの嫌や。僕はお母ちゃんと一日一緒にいたいだけなんや」と歌う「幼稚園児のブルース」には、割れんばかりの拍手が送られた。
 

 1961年、大阪府生まれ。ユーモラスでおおらかな長谷川ワールドを次々に生み出し、主な著書に「おたまさんのおかいさん」(講談社出版文化賞絵本賞)、「ぼくがラーメンたべてるとき」(日本絵本賞)など。

 

赤木かん子さん(子どもの本研究家) 
 <「良い本」より「好きな本」> 

楽しい読み聞かせと言った場合、誰が楽しいのかが置き去りにされていることがあります。大事なのは、聞く子どもが楽しむということなのに、大人が「聞かせたい」本を読んで楽しんでる場合がある。akagi.jpg

 子どもに本を読んでもらいたいなら、「良い本だから」と大人が選んではだめ。欲しくないものを押しつけられても、子どもは困るだけです。

 子どもが読んでもらいたい本を選ぶ。つまらない本を面白く読むには技術が必要ですが、面白いものは普通に読んであげれば、子どもは楽しめます。

 何が面白いかは、子どもが今何を考えているかで変わります。一昔前人気だった「ふしぎなかぎばあさん」や「ズッコケ三人組」は売れなくなりました。大人が子どもを守るのが当然だった時代とは、現在は違うからです。「ハリー・ポッター」にしても、最初から読みはじめる子どもはもうほとんどいません。

 大人の多くは、自分が読ませたい本を読ませようとします。つまり「私が好きだというものをあなたも好きだと言って」という甘えです。ですが、子どもは、たとえそれが母親でも、おばさんの期待に応える義理はありません。子どもたちだって自分で選びたいんです。

 読み聞かせでは、本をたくさん持って行って、一番人気のあるものを読めばいい。それを聞いて喜ぶ子どもの笑顔を、輝くほっぺたを楽しんでください。
 

 1957年、長野県生まれ。「こちら本の探偵です」でデビュー。子どもの本や文化の紹介、書評などで活躍し、近年は小中学校の図書館改装まで手掛けている。主な著書に「かんこのミニミニ世界児童文学史」「図書館へいこう」など。

 

◆夕張子ども文化の会「かぜちゃる」

 夕張市の財政破たんで、図書館が廃止されるなど教育環境が厳しさを増すことに危機感を募らせた市内外の主婦らが、昨年発足させた。読み聞かせ、講演会などに積極的に取り組んでいる。「かぜちゃる」とは、夕張の子ども言葉で「仲間に入って」の意味。

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