2009年07月29日
子どもの本フェスティバルin札幌 本の楽しさ、魅せられて
作家・上橋菜穂子さん 「昔語り幸せな記憶」
病弱だった幼いとき、両親からよく本を読んでもらい、父方のおばあちゃんからは昔話を聞かせてもらいました。
とても面白く、私が物語を書く原体験になり、読み、語ってもらったことが幸せな記憶として残っています。私が武術が好きなのも、おばあちゃんから、ひいひいじいちゃんが柔術指南役だった話を聞いたことがきっかけです。
すっかり本好きになった私を心配し、家では本禁止令が出たくらいです。
中学に入ると、自分は生きている価値があるのだろうかと悩みました。その上、映画「天平の甍(いらか)」を見てしまいました。中国へ渡った日本の留学僧が、写した万巻のお経を持って帰国しようとしたとき、船が沈んで僧も死んでしまいます。この世の中に、むなしくない確かなものはあるのかとますます悩みます。本を読んでも、答えは得られません。
そんなとき、イギリスの作家ローズマリー・サトクリフの「太陽の戦士」に出会います。物語の中に引き込まれ、読み終わって、ふるえが来ました。「運命の騎士」は、ハッピーエンドではなく、主人公はむなしさを抱えながらも明日を生きていきます。そんな人間が美しく見え、私は生きていけると思いました。
大学に入学し、自分の知っていた世界は偏っていたのではないかと思い、文化人類学に進みました。オーストラリア先住民・アボリジニを研究し、その経験から書いたのが「月の森に、カミよ眠れ」です。
私自身が好きなものを思い切りぶち込んだのが「精霊の守(も)り人」です。これが出て、読者層がいきなり変わりました。子どもも大人も読んでくれるようになりました。
こんなふうに、幸福な本と出会い、物語が展開する喜びを味わった私が、いま展開していく物語を書けるようになった。とても幸せです。
絵本作家・堀川真さん 「工作大喜び」
フェスティバルでは、お絵かきや折り紙の「あそびのへや」、読み聞かせの「かたりのへや」、エプロンシアターや紙芝居の「おはなしシアターのへや」など、多彩な子ども向けのプログラムも用意され、集まった約400人の子どもたちが各へやを回り、楽しいひとときを過ごした。
このうち、堀川真さんによる子どもワークショップ「つくってあそぼう工作のへや〜いいものつくろう」では、紙コップを利用したクラッカーや、セロハンを張った色めがね、ストローを使った風車作りなど、子どもたちが興味津々で工作に挑戦した。
クラッカーは、紙コップの底に小さな穴を開け、そこから輪ゴムを通し、内側からつまようじとテープを使って輪ゴムを押さえるだけで出来上がり。コップの中に色紙を細かくちぎった紙吹雪を入れ、コップの底の輪ゴムに洗濯ばさみを取り付け、ゴムを引っ張って底を“パッチン”とはじくと、紙吹雪が舞う仕掛けで、子どもたちは大喜び。
堀川さんは、工作に夢中になっている子どもたちに「バッチリ、バッチリ」と声をかけ、「自分で絵を描いたらいいよ」など優しくアドバイスしていた。
作家・村中李衣さん 「心の居場所作る」
本の扉を開くのは、もう一つの世界に生きられるということです。子どもたちに多くの本、外側の世界に親しんでもらうことは大事です。
でも、それだけでなく、子どもたち誰もが持っているであろう自分の内側の世界の物語をどこで開き、どこで閉めるのかということも、生きていく上でとっても大事ではないかと思うのです。
子どもはときどき、自分の内側にある大事な物語を私たちに開いて「ここまで来てもいいよ」と言ってくれることがあります。この物語を大事にしなければなりません。
私たちが子どもに良かれと思って手渡す物語と、子どもが内側で育てている物語が、うまくからみ合い、互いに場所を譲り合っていくことが大切なのです。
そのことが、私が「読み聞かせ」ではなく、「読みあい」を続けている理由のような気がします。互いがかかわりあい育っていく場所が「読みあい」です。
山口県下関市の小学校で「読みあい」をしました。2人1組で、相手のために物語を選び、相手も自分のために選びます。「ために」は、あなたの心に私の居場所を見つけさせてもらい、私の心にあなたの居場所を開いていくことなのです。
本を開くこと、閉じることは、心の受け渡しの場所がそこにあると確かめる行為なのです。
絵本作家・長谷川義史さん 「ウクレレで笑い」
長谷川義史さんは、大きな紙に次々と絵を描いていく「ライブ紙芝居」や、アドリブを交えた絵本の読み聞かせなど「大人も子どももみんなのおはなし会」で、会場を埋めた親子らを楽しませた。
紙芝居では、働きに行かない怠け者に貧乏神がとりついた話を披露した。貧乏神が怠け者に「働いている人を貧乏にするのが貧乏神だ。働きなさい」とけしかける。
しかし、怠け者は「働きに行くから金をくれ」と言う始末で、結局、貧乏神が働きに出かけることに。最後は「貧乏神の私が、貧乏神にとりつかれてしまいました」との“落ち”が付き、場内に笑い声が響き渡った。
読み聞かせでは、自身の初めての絵本「おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん」を取り上げた。「ひいじいちゃん、ひいひいじいちゃん、ひいひいひい……」と、読み切れないほどさかのぼり、自分の命が未来へとつながっていることの大切さをユーモアを交えて伝えた。
また、ウクレレを手にミニ・音楽ライブも行った。―おはよう『さん』、太陽のことをお日『さん』、なんでも『さん』を付ける大阪人、大阪弁ってエレガント
―イチゴ好きなのに、モモ組やから、幼稚園行くの嫌や
楽しい歌に、場内から拍手が沸き上がった。
若者を中心に昨今、活字離れが深刻さを増し、人間力の衰退が心配されている。このため、読売新聞社が出版業界と協力して、本や新聞などの活字文化を守り育てようと発足させた。劇作家の山崎正和氏を委員長に、大学での公開講座など多彩な「21世紀活字文化プロジェクト」を展開している。