大盛堂書店 山本亮さん推薦!
「つぼみ」(宮下奈都 著)光文社

     昨年本屋大賞を受賞した『羊と鋼の森』(文藝春秋)の著者・宮下奈都さんというと、人々の想いを丁寧に掬い取り静謐な物語を描く作者と、思い浮かべる方も多いだろう。しかし、本書はいささか趣を異なっているのかもしれない。

    本書は全国の書店員はじめ大きな支持を得ている『スコーレNO.4』のスピンオフや(もちろん未読の方でも楽しめる)、ここ数年間に書かれた短編を収録している。どの作品も著者らしい世界に満ちているが、静謐なというより、様々なアンサンサブルに富んだ作品が多くて思わず笑みがこぼれてしまう。なかでも私は、最後の二章「なつかしいひと」から「ヒロミの旦那のやさおとこ」の流れがとても好きだ。この二章によってまた違う著者の魅力が感じられる。「なつかしいひと」は、題材の一つである同じく小説家の重松清氏を意識してか、読む人の心をいつものようにやさしく愛おしむ。反対に「ヒロミ~」はちょっと悪戯小僧のような著者のぴりりと効いた遊び心が楽しい。特に後者は登場人物の少しクセのある女性たちや「やさおとこ」を中心に、一見軽いタッチではあるのだけれど、彼女たちの行動が読者の未だ知らぬ心の隅に思いもかけず、すっと入り労わってくれる。それはちょっと嬉しい不意打ちでもあり、そう、こんな話を見せてくれる作者なんだ、と改めて思い起こさせてくれる。

    不確かなこの世界だけど、自然に軽やかに物語と読者に寄り添い、そっと背中を押してくれる作家、それが宮下奈都という人ではないだろうか。どの作品も読み終わった後、その世界に浸りながら、思わず抱きしめたくなる読者は多いと思う。そして万人が求める読書の「楽しみ」が、この本に詰まっていることに気が付くはずだ。

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