三省堂書店神保町本店 大塚真祐子さん推薦!
「中国が愛を知ったころ」(張愛玲 著)岩波書店

     女性として生きるということは、命を孕む可能性のある肉体を持ちながら、それこそが欲望の対象になりえるという現実に、たえず引き裂かれながら生きるということだ。

 本書に収録された三作品のいずれにも、様々な女性が登場する。ヒモを自負する男のために身を立てる少女、「自由恋愛」の思潮のもと一つ屋根の下に暮らす三人の妻、異国で再会するかつての女ともだち。どの女性たちもままならない人生の悲しみを背負いながらどこか凛としているのは、彼女たちの背すじを貫く「愛」という思想があるからだ。

 目的のある愛はみな本当の愛ではない(『同級生』)、と言い切る強さは、折り返しに見る張愛玲その人の肖像からも溢れている。本書に出会うまでこの作家を全く知らずにいた。

 恋愛小説とはこの作品集のことだろう。女性として生きることとは、引き裂かれてもなお自分の信じる「愛」のために顔を上げる強さのことだと、この本から教えられた。

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