新読書スタイル  ケント・ギルバートさん×成毛眞さん 対談

 ノンフィクションの書評サイト「HONZ」代表の成毛眞さんが新刊本の著者と対談し、読書の醍醐(だいご)味やお薦め本を語り合う「成毛眞の新読書スタイル」。今回は、明治期以降に活躍した日本人を紹介した「日本人だけが知らない世界から尊敬される日本人」(SBクリエイティブ)の著者、米弁護士のケント・ギルバートさんをゲストに招き、日米の読書事情の違いなどについても話が弾んだ。

ケント・ギルバートさん(右)と成毛眞さん(1月12日、東京都千代田区の読売新聞東京本社で)∥秋山哲也撮影

 

            ◆若者よ 挑戦しよう◆

成毛 日本とアメリカでは、大学に入ってからの進路選択が異なっているようですね。
ギルバート 理科系は別ですが、入学後も専攻が決まっていない1、2年生は多いです。必修だけやって色々な科目を勉強し、その中から面白いと思うものを選びます。僕は4年時に専攻を決めました。
成毛 高校、大学生時代は、本をどのくらい読んでいましたか。
ギルバート 法科大学院では教科書と授業に関連する本を、毎日何百ページと読まされました。高校時代は代表的な英文学を大量に読みました。ただアメリカの高校生は遊ぶのがメインなので、要約本で済ませることも多かったです。
 成毛 アメリカは昔から要約本がありますからね。
 ギルバート 試験問題としてよく出る例題も載っていて助かります。(笑)
 成毛 僕と同じ年代のアメリカ人は要約本で大量に読んでおり、500~1000冊の中身を大体知っています。日本の知識人には、本は最初から最後まで読まなければ読んだことにならないと語る人が多いけれど、同じ時間をかけてどちらが得なのか考えさせられます。ところで、普段の読書ライフはどういう感じですか。
 ギルバート 電車など移動の時間を使って読みます。特に地方出張で、空港がなかったり、新幹線が通っていなかったり、片道5~6時間かかる場合は読書がはかどります。読み始めると早いですよ。「MUSASHI」は英語ですが、3日で読みました。
 成毛 日本の文学にも造詣が深いそうですね。
 ギルバート 沖縄海洋博でアメリカ展示館のガイドとして勤務しているとき、空いた時間で英訳されていた日本文学を読みふけりました。三島由紀夫や遠藤周作とか。
 

≪主体的であれ≫

成毛 ケントさんは若者を念頭に置いて、新刊の「日本人だけが知らない世界から尊敬される日本人」で、チャレンジすることの素晴らしさに触れています。宣教師として1971年に来日した頃と比べて、日本の若者の変化を感じますか。
 

ケント・ギルバートさん(1月12日、東京都千代田区の読売新聞東京本社で)∥秋山哲也撮影

ギルバート 昔はもう少し素朴でした。教会で若者向けに開くパーティーや無料英会話に、よく集まりましたね。当時は自分から出て行かないと情報が入らないから、ハングリーだったのでしょう。

成毛 若い人が挑戦する意欲や行動力を持つには、どうすればいいでしょうか。
 ギルバート 目標設定が大事ではないでしょうか。大学院でMBA(経営学修士号)を取った時、「7つの習慣」(キングベアー出版)を書いたスティーブン・R・コヴィー先生の授業を受けていました。不思議な授業で、目標を立てさせ、達成度で成績の一部が決まります。高すぎる目標を設定して達成できないと低い成績になるが、低すぎる目標を設定しても過小評価される。目標設定の仕方を学びました。
 成毛 目標設定の仕方とは。
 ギルバート 目標を設定するには、自分の価値観を考えなければいけません。7つの習慣の中で著者が大きく取り上げているのはプロアクティブ、主体的という言葉です。反対語はリアクティブ、つまり受動的。主体的を僕の言葉で言うと、自分で動く“自燃型”。周りはみんな受動的なので、少し頑張ればいい。最近だと、アプリを考案する中学生なんかは素晴らしいと思います。
 成毛 主体的かどうかというのは年齢を問いません。80歳になっても十分主体的な人もいます。
 ギルバート 主体的に生きていくには目標と好奇心が必要です。新刊で取り上げたソニーの創業者のひとり、盛田昭夫さんは、アメリカのベル社が開発したトランジスターに目を付けて、製品化しました。情報収集に加えて自分から求めていく姿勢も大切です。サラリーマンの会社依存症は一番だめ。僕らが学生の時でさえ、就職センターから「会社に入って最初の職種自体がなくなると思った方がいい。常に勉強していないとだめですよ」と警告されていました。
 成毛 何年前ですか。

成毛眞さん(1月12日、東京都千代田区の読売新聞東京本社で)∥秋山哲也撮影

ギルバート 40年以上前です。実際にそうなっていませんか。
 成毛 今はAI(人工知能)が出てきて、これからもっと仕事がなくなりますね。
 ギルバート 主体的の話に戻ると、主体的でない人は自尊心がない人。自分の力を信じない人です。子どもに自尊心を付けるのが教育なのに、日本は減点主義なので、欠けているところばかり指摘する。自分の存在が認められていないから、自尊心が傷つけられる。

 

 ≪世の中を知ること≫

成毛 著書で人生の選択肢は多い方がいいことについても触れています。
 ギルバート 大学院生の頃は法律とビジネスの両方に関係する国際的な仕事をしたいと考えていましたが、貸借対照表が読めない弁護士だと、役に立たないと、法律を1年勉強して気がつきました。それでMBAを取りました。
 成毛 仕事がなくなった時にどうするのかという意味で選択肢は増やした方がいい。選択肢を増やすには、世の中を知っているかどうかが大きい。読書はその手段の一つとして役に立ちます。

 

  ≪面白い本 読み聞かせ≫
 成毛 若い人にお薦めの本を挙げていきましょう。私からはまず「ネパール・ムスタン物語」(近藤亨著、新潟日報事業社)。ネパールの秘境ムスタンに暮らし、70歳を過ぎてから取り組んだ高地での稲作に成功したほか、農業指導や学校・病院建設の民間支援活動を行った男性の話です。次が指揮者の小沢征爾さんの「ボクの音楽武者修行」(新潮社)です。ほかに、「佐治敬三と開高健 最強のふたり」(北康利著、講談社)と「旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三」(佐野眞一著、文芸春秋)、「ルワンダ中央銀行総裁日記」(服部正也著、中央公論新社)です。色々な世界があることを知ってほしい。
 ギルバート 金融関連の本は多少アレルギーがありますね。(笑)
 成毛 「ルワンダ中央銀行総裁日記」は、1960年代の独立間もないルワンダに赴任し、経済の立て直しに奮闘する銀行マンの話です。銀行マンや金融マンが読むと、人のための金貸しにならないといけないと感じるはずです。
 ギルバート 僕は「7つの習慣」を読んでほしいです。昔読んだ人は、もう一度読んでもいいと思います。デール・カーネギーの「人を動かす」(創元社)も。人づくりの基本ですから、この2冊は一度は読んだ方がいい。日本人としての誇りを持つには、百田尚樹さんの「海賊とよばれた男」(講談社)もいいですね。
 成毛 若い人は本を読まないと言われているけれども、読んでいる人は読んでいます。とにかく自分にとって面白い本を読むのが一番いい。その面白い本が、たとえライトノベルであれ、ノンフィクションであれ、純文学であれ、推理小説であれ、それで十分。とにかく面白い本を読まないと読み続けられません。
 ギルバート 東京に住む息子には6人の子どもがいます。ハリー・ポッターシリーズが出ると、アメリカにいるお嫁さんのお母さんが毎日30分、インターネットの無料テレビ電話のスカイプを使って読んでくれているそうです。上の子たちは、シリーズすべて読んでいます。
 成毛 作者のJ・K・ローリングさんは、がんで死ぬ直前の少女に、発売前の本を読み聞かせていました。日本人は、子どもに対する読み聞かせが、意外と少ないかもしれません。祖父母が幼稚園や小学校低学年の子どもに読み聞かせをするのはお勧めです。

 

≪「寝る前30分」習慣に≫
 ギルバート 読み聞かせを通じて、本を読む習慣が付くと思います。孫たちも寝る前に30分くらい本を読むのが習慣になっています。
 成毛 昔から本を読む人は読むし、読まない人は読みません。全世界の人が本を熟読する世界はやってこない。逆に言うと、本に興味がある人は、本当に読んだ方がいい。本を読んでいる人は子どもや孫にもきちんと読ませてください。そのときには面白い本から読んであげる。難しいものから読むと、難しいものだと思って、20年くらい読まないかもしれません。
 ギルバート 読んでいてつまらない本もだめですね。

【Kent Gilbert】

1952年米国生まれ。ブリガムヤング大学在学中に宣教師として日本に約2年間滞在。80年に法律コンサルタントとして3度目の来日、タレントや作家、経営者として活動。「わが子を国際人にする方法」(近代文芸社)など著書多数。

【なるけ・まこと】 

1955年、北海道生まれ。中央大学卒業。早稲田大学ビジネススクール客員教授。元マイクロソフト日本法人社長。著書に「AI時代の人生戦略」(SBクリエイティブ)など。

 主催=活字文化推進会議
 主管=読売新聞社
 協賛=SBクリエイティブ

新読書スタイルの一覧へ戻る ビブリオバトルとは

ご登場いただいた著名人