学校図書館げんきフォーラム@東京

主催者あいさつ

西川太一郎掲載写真.jpg西川太一郎・荒川区長

区内の小学校では、1年間に300冊の本を読む子供たちが増えています。本と向かい合って思索を深める習慣を子供の頃からつけていくことが大切だと感じています。今後も学校図書館の施策をもっと充実させていきたいと思います。

河村建夫掲載写真.jpg河村建夫・学校図書館活性化協議会会長(元文科相)

資源のない日本は、人づくりによって成長を遂げてきました。学校図書館を活性化させることは、その原点を見直すことになります。国会議員の超党派で結成した協議会が、声を大にして各方面に働きかけていきたいと思っております。

公開授業 「荒川区立汐入東小学校」

全教科で活用

フォーラム会場に近接する区立汐入東小学校では午前中、図書館を活用した授業が公開され、フォーラムに参加する教諭らが食い入るように見学していた。

 この日の授業は、5年生社会科の「生活と食料生産」単元に関連して、物流に携わる様々な交通機関の特色を調べていく内容。あらかじめ準備された百科事典や図鑑、年鑑など豊富な資料を元に、児童は文章にまとめていく。参加者の間から「うちの学校には司書がいないから、とても無理」といったため息も漏れた。

 終了後には、授業を行った5年1組の担任で司書教諭でもある栗山智子教諭や野崎よしみ学校司書と参加者の間で活発な質疑が交わされた。「準備資料や図書館運営に関して、どうやって打ち合わせをしているのか」という質問に、栗山教諭は「なかなか時間を取れないが、休み時間に図書館に足を運んだり、手紙や交換ノートで意思の疎通を図っている」と答えていた。

 荒川区は学校図書館関連の施策に力を入れている全国有数の自治体。区教委は全学年、全教科について図書館を活用する年間指導計画や学習指導案を作成、ベテラン司書教諭が各校に赴いて、図書活用の模擬授業を行うなどして指導者のスキルアップに努めている。埼玉県新座市立栗原小学校教諭の福冨まどかさんは「資料の準備の仕方が完璧。児童が落ち着いて学習できていた」と感心していた。

公開授業掲載写真.jpg

基調講演 「生きる力を育てる読書」 明大教授 齋藤 孝氏

子どもたちに「きっかけ」を

齋藤孝掲載写真.jpg 子どもたちに本を読んでもらうために学校図書館をどう活用したらいいのか。まず、授業として子どもたちを図書館につれていき、本を借りさせることが大事です。読書マラソンのように何ページ読んだかをグラフに記録させると読むようになる。1か月で30冊以上読む子供が出てくると、他の子どもも頑張る。要はきっかけなのです。多いと感じるかもしれないけれど、年間の目標読書量は200冊程度にするといいと思います。
 
 私が教えている大学では、4人グループをつくらせて、各自が1週間に新書を5冊読んできて、3人に内容を説明させるようにしています。1週間に5冊は多いと感じるかもしれませんが、前提を極端に多くすることが大切です。
 
 司書教諭の方も、司書の方も、子どもに薦めたい本があるはずです。そういう時は、宣伝文句を書いた小さな紙、ポップをつくってみてください。今、書店ではポップづくりが一つの重要な仕事になっています。最初は先生がつくってもいいけれど、子どもにやらせてみてください。友達が面白いと言うから読んでみようという気持ちを起こさせる相互作用が理想的です。ポップは本の下にぶら下げる形がいいでしょう。ぶら下がっているポップが多ければ多いほど人気がある本となり、ちょっと手に取ってみようかなと思うはずです。

 図書館に新聞がないという話をよく耳にします。新聞は社会を凝縮したもので、社会科であろうと、国語科であろうと、教材としては非常に優れています。図書館はいろんな教科で活用可能なので、新聞がないというのは考えられないですね。新聞の文章は、一番効率よく情報を伝えるようになっていて、極めて実用的な日本語です。新聞を読んで、過不足なく要約し、人に意味を伝えたり、自分の意見が言える人間を育てることが学校教育の一応の目標だと言っていいくらいです。

◇さいとう・たかし 1960年生まれ。静岡市出身。東大大学院博士課程。『身体感覚を取り戻す』で新潮学芸賞。『声に出して読みたい日本語』で毎日出版文化賞特別賞に輝き、日本語ブームをつくった。著書に『読書力』『新聞で学力を伸ばす』など。 

パネル討論 読めば「利益」  学校教育の「心臓」に

役割と意義

【橋本】 子どもたちが最も長い時間を過ごす学校での読書環境は、心の成長に大きな影響を及ぼすと思います。また、新しい学習指導要領では言語力の充実が強調されています。司書の経験が長い阿刀田さんは、学校図書館の役割をどうお考えでしょうか。

阿刀田高掲載写真.jpg【阿刀田】 学問は本を読むことと密接に関係があります。図書館は教育において非常に重要な役割を担っていると思います。欧米の学校は、校門をくぐると図書館があるように設計され、学校教育の起点になっているし、授業も課題図書を話し合うスタイルが主流だと聞きます。

【橋本】 学校経営者の立場から、羽中田さんはいかがですか。

【羽中田】 考える場所、表現する場所でもあると考えています。一環として私の学校では小論文コンテスト、絵本づくりを行っています。学校図書館長として情報センター、学習センターとしての機能をより高めていきたいと思っています。

進まぬ整備

【橋本】 荒川区は全校に司書が配置され、新聞もきちんと届いていて、いわば学校図書館の先進自治体です。ところが、全国に目を向けると自治体間の格差が大きい。国会議員時代から図書館の充実に力を注いできた肥田さんはこの現状をどう思われますか。

【肥田】 1992年に文科省が全国調査をしたら、多くの施設は人がいなくて鍵が掛かっている、本がない、カビ臭いという状況でした。あれから20年の歳月が過ぎましたが、今なお、人も本も整備が遅れています。学校教育の心臓部であることに気づいている政治家や行政、学校関係者が少ないということですね。

羽中田校長掲載写真.jpg【羽中田】 荒川区は蔵書数も国の基準を超えているし、恵まれた環境です。国や都に要望したいのは、教務主任や生活指導主任のように、司書教諭にも授業軽減の制度をつくってほしいということです。そうすれば今以上に学級担任と協力して複数教諭で授業をしたり、適切な資料を提供したりできます。

【橋本】 政治家は日本をリードするわけですから、深い教養を求められるのですが、本を読まなくなっている。国の取り組みが鈍いのも、その辺に原因があるという気がします。

【肥田】 総務省から学校図書館図書整備のための交付税が出ても、首長さんが「本より道路を造ろう」と言ってしまえば、消えてしまうわけです。蔵書の数を1993年時点の1・5倍にすることを目標に、約20年間でざっと2500億円が交付税として自治体に措置されていますが、図書標準を達成しているのは小学校ではいまだに半数程度です。情けないことです。

読書環境

【橋本】 家庭も含めて読書環境を整えるには、何が大切だと思われますか。

【阿刀田】 一番大切なのは子どもと接して本の楽しさを教える人です。司書の方には本の楽しさを訴えることができる人であってほしい。家庭でも、お父さん、お母さんにその役割を担ってほしいですね。

【羽中田】 同感です。人がいることで図書館に“命”が入ります。地域の協力も大切です。本校には45人の保護者ボランティア登録があり、新聞のスクラップや、季節にあった館内の装飾をお手伝いしてもらっています。

肥田美代子掲載写真.jpg【肥田】 本棚がなかったり、新聞を取っていなかったりする家庭も少なくありません。PISA(経済協力開発機構による国際学習到達度調査)で高得点を挙げているフィンランドの場合、家庭に本が何冊あるかということが誇りになっています。家庭からも考え方を変えていく必要があるのではないでしょうか。

橋本五郎掲載写真.jpg【橋本】 最後は阿刀田さんにまとめていただきましょう。

【阿刀田】 資源のない日本という国で、読書くらい役に立つものはなく、養老保険のようなものだと感じています。若い頃から修練して、読書習慣を身につけておけば、必ず“利益”が配分されるのです。そのためにも学校図書館をしっかりと位置づけていくことが大切だと思います。(敬称略)

〈自治体間の格差〉
 文部科学省の最新調査によると、司書教諭と学校司書が配置されている小中学校は全体の3割にとどまっている。司書教諭の発令状況を見ると、法律で義務づけられている12学級以上は小学校99・5%、中学校98・2%に対し、11学級以下になると、小学校21・3%、中学校25・5%と一気に下がる。また、学校司書の配置割合や蔵書数は自治体によって大きな格差が生じているのが実情。
◇あとうだ・たかし 1935年、東京都生まれ。国立国会図書館司書として11年間勤務。79年『ナポレオン狂』で直木賞。
◇ひだ・みよこ 1941年、大阪市生まれ。『先生しごいたる』で童話作家デビュー。参院議員1期、衆院議員3期。
◇はながた・さきこ 1953年、兵庫県生まれ。東京・世田谷区、大田区で小学校教諭、東京都教育庁勤務などを経て現職。
◇はしもと・ごろう 1946年、秋田県生まれ。政治部記者などを経て読売新聞特別編集委員。

主催=学校図書館活性化協議会、東京都荒川区教育委員会、活字文化推進会議
主管=読売新聞社
 

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