【私のオススメ本】TBLSサービス社長 荒木雅己さん推薦「プリズンホテル」(浅田次郎 著) 集英社

 ◆交流が生む異なる視点
 東芝野球部時代は、練習場が近い東京都府中市で働いていましたが、38歳の時に異動が決まりました。自転車通勤から電車通勤に変わり、会社まで1時間ほどかかるようになりました。この時間が意外と長く感じ、せっかくなら本を読もうと考えて手に取ったのが、この本です。
 物語は、暴力団の親分が経営し、組関係者らが利用するホテルが舞台。そんなホテルとはつゆ知らずに来る宿泊客ですが、彼らも変わった人々ばかり。情緒不安定な作家、無理心中する場所を探しに来た家族、熟年離婚まで秒読みの老夫婦といった様々な事情を抱えた人たちが、笑いあり涙ありのドラマを繰り広げてくれるんです。
 本の中身も見ずに書店で適当に選んだものでしたが、通勤時間があっという間に感じるほど夢中になり、「続きを読みたいから駅に着くな」と思いながら出勤するようになりました。この本と出会ったことがきっかけとなり、読書する習慣が身についたと思います。
 登場人物は皆、違う世界を生きてきましたが、ホテルで交流しながら異なる視点を得たことで、それぞれが抱える問題の解決に近づいていく。この発想は、仕事をしていく上でも大切だと考えています。
 私は企画会議をするときなどには、必ずと言っていいほど全く関係のない話をし、様々な部署の部下に意見を求めます。そうすることで、当事者は考えつかない意外な答えが見つかることがあるからです。
 色々な角度から物事を眺めれば、新たな見方が生まれる。言うはやすしですが、実行できる人は多くはないと思います。人はどうしても目の前のことに集中してしまうからです。
 人は自分が見えているものしかわからないので、見えていない部分は他の人に助けてもらうしかない。これが、本を読んで覚えた仕事術の一つです。
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 徳間書店から1993年に出版され、秋・冬・春と97年までに続編3巻が刊行された。文庫本化もされ、テレビドラマや舞台にもなった。

 ※4月27日付けの読売新聞神奈川県版にも掲載されています。

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