【私のオススメ本】平塚市博物館長 沢村泰彦さん推薦!
「中国詩人選集第十四巻」(李賀 著) 岩波書店

 ◆李賀の詩 感性に励まされ 
 大学で専攻したのは中国文学の古典、漢文でした。この本は大学1年のとき、後に卒論のテーマにした李賀と最初に出会った本です。
 李賀は李白、杜甫、白楽天と同じ唐の時代の詩人です。李白が天才、白楽天が人才と言われたのに対し、李賀は鬼才と呼ばれました。空想的、幻想的な詩風が特徴です。
 「蘇小小(そしょうしょう)の歌」は、この世にいない晋の時代の有名な歌姫が主人公。繊細な観察眼と研ぎすまされた感性を感じさせ、この歌に一発で引き込まれました。ビブリオバトル
 平塚市役所には一般職で入りましたが、欠員が出たため、博物館で天文担当の学芸員になりました。畑違いの仕事に就いて、身も心も削られるような毎日で、これでいいのだろうかと自問自答の連続でした。
 李賀は仕官をあきらめて故郷に帰り、病床に伏せているときに詩をつくりました。李賀がちょっと泣き言を言うと、召し使いは「非君唱楽府 誰識怨秋深」と勇気づけます。あなたがうたを歌うのでなければ、誰が悲しみの秋の深いのを知るでしょうと。私はこの漢字10文字を書いて机に貼り、これを見ては自分を励ましました。自分を肯定してくれる大事な言葉です。
 この本は詩人の感性があらわになっています。本を開くたび、感性ってこういうものだったのだなと思い出します。李賀と出会った若い頃の自分が、本から飛び出てくるような気がします。
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 岩波書店から1959年に出版された全18巻の中国詩人選集の第14巻。27歳で夭折した李賀が残した詩は300に満たないが、「二十にして心已に朽ちたり」という句が有名。芥川龍之介や三島由紀夫らも李賀の詩を愛したという。

※5月25日付けの読売新聞神奈川県版にも掲載されています。

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