【私のオススメ本】ミニシアターシネマ・ジャック&ベティ支配人・梶原俊幸さん推薦!
「五分後の世界」(村上龍 著) 幻冬舎

 ◆大戦後も戦争続く日本舞台 
 大学1年の頃です。作家活動にとどまらず、映画監督やテレビ出演など様々な舞台で活躍していた村上龍さんに興味を持ち、この本を手に取りました。勢いのある文章にのめり込んで一晩で読み終わり、感傷に浸ったことを思い出します。
 物語は、第2次世界大戦後も戦争が続く日本が舞台。1994年に箱根でジョギングをしていたはずの主人公は、ふと気がつくと45年8月15日に日本が降伏しなかった「5分遅れ」の「もう一つの日本」に迷い込みます。広島、長崎だけでなく、日本各地に原爆が投下され、人口が26万人まで激減しながらも、ゲリラ戦を続ける日本軍の姿を描いています。
 ビブリオバトル作品中、主人公の内面はほとんど説明されないまま、詳細に書き込まれた壮絶な戦闘場面にひたすら直面させ続けます。文学的な評価を気にすることなく、「書きたいものを書いているんだ」という村上さんの思いを感じました。
 私は学生時代、数学が好きで、読書の習慣はほとんどありませんでした。高校時代には友人からもらった本を計算用紙にして怒られるほどでしたが、この本を読んだことで小説の面白さに気づき、東京・吉祥寺の自宅近くにある古本屋に通い詰めました。
 今思えば、その頃からアクション映画だけでなく、様々なジャンルの映画にも手を伸ばし始めた気がします。映画には小説などを題材にした作品もありますが、「想像と違った」という声も耳にします。読者がそれぞれに想像を豊かに膨らませられるのが、小説の最大の魅力だと思います。
 私は大学卒業後、ライブハウスや学習塾などで働き、2007年に横浜のミニシアター「シネマ・ジャック&ベティ」の支配人になりました。この作品のように、作り手の熱量で見る人を引き込む挑戦的な作品を多く上映し、映画館から街を盛り上げていきたいと考えています。
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 幻冬舎から1994年に出版された。前年秋に同社を旗揚げした見城徹社長らに対し、村上氏が「友情の証(あかし)」として書き下ろしたとされ、村上氏は当時、「今まですべての作品の中で最高」と語っている。96年にはウイルスや免疫の世界をテーマにした続編「ヒュウガ・ウイルス 五分後の世界2」も発表した。

※4月13日付けの読売新聞神奈川県版にも掲載されています。
 

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