【私のオススメ本】横浜市立中央図書館長 山口隆史さん推薦!
「沈黙」(遠藤周作 著)新潮社

  ◆人を支える信仰の力
 私は10代の頃、父の本棚にあった初版本をこっそり借りて読みました。父の書棚には500冊以上の本がありましたが、一番覚えているのがこの本です。2016年に映画化されたことがきっかけとなり、久しぶりに読み返しました。
 ビブリオバトル物語は江戸時代初期、キリスト教信者が弾圧される長崎の五島列島が舞台。聖職者であるセバスチャン・ロドリゴは、厳しい航海を経てポルトガルから日本にたどり着きますが、奉行によって信徒が虐殺される光景を目の当たりにします。自分が棄教すれば信徒は助かりますが、それは自分の身を投げ出すようなもの。苦悩の末、ロドリゴが決断した後に起きる出来事に心が揺さぶられます。
 最初にこの本を読んだ時は、歴史の授業で習った「踏み絵」が生々しく描かれていたことが強く印象に残りました。改めて読み返したところ、宗教が人のよりどころになる、その事実に気づかされました。困難の中でも信じるものがあったから、ロドリゴたちは生きられたのだと思います。
 私は1978年に横浜市に入庁しました。2014年に定年を迎え、中央図書館長として第二の人生を歩く今、これからいかに生きていくかを考えています。84歳で亡くなった父は晩年、再発するがんに苦しむ一方で、趣味を通じて人生を精いっぱい楽しんだ人でした。
 著者の遠藤周作は作中で、「人々は心のよりどころをどう見つけるべきなのか」を問いかけました。東日本大震災という未曽有の災害を経験した私たちにも通じるテーマではないでしょうか。この本を開きながら、自分自身もその答えを探していきたいと考えています。
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 新潮社から1966年に出版され、第2回谷崎潤一郎賞を受賞。世界各国で翻訳された。71年には篠田正浩監督によって初めて映画化された。2016年には、アカデミー賞を受賞したマーティン・スコセッシ監督が手がけた映画も米国で公開された。スコセッシ監督は本を手に取った88年以来、映画化の構想を練り続けていたという。

※4月6日付けの読売新聞神奈川県版にも掲載されています。

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