【私のオススメ本】
ヨコスカをよくする会共同代表 呉東正彦さん推薦!
「平家物語」(佐藤謙三校註)KADOKAWA

 ◆庶民のクールな目 
 横須賀市で弁護士をしながら、基地問題や市の公共施設のあり方などを考える市民活動にも力を入れています。若い頃から軍記物が好きで、角川文庫版を読みました。最近になって読み返したところ、「武将を主人公にした戦いの物語」という面だけでなく、平家の盛衰を第三者である庶民がクールな目で見た歴史書でもあると実感しました。
 合戦で勝った、負けたの話だけでなく、様々なエピソードがニュースのように出てきます。一話一話がドラマのようでもあり、戦や災害のない世の中を望む庶民の心情がよく表現されています。


 例えば、平清盛の五男・重衡(しげひら)は、南都焼討を行って東大寺や興福寺を焼亡させたため、奈良に送られて木津川のほとりで斬首されますが、処刑される前に浄土宗の開祖・法然上人と面会し懺悔(さんげ)します。敗者にも魂があるということを優しいまなざしで追っています。庶民に念仏が広まった時代で、仏教の教えによる心の安らぎが底流にあるのだと思います。
 世の無常、権力の座から滑り落ちた敗者の物語は、庶民によって語り継がれました。庶民は権力者を冷めた目で見る一方で、ささやかな幸せを求めて大変な世の中を生きてきました。それは現代の平和を求める心にも通じるのではないでしょうか。「驕(おご)れる者久しからず」。物事の本質は念仏の時代も現代も変わりません。
 弁護士の仕事をしていると、競争社会の中で格差が広がり、孤独や病気、貧困など現代人が直面する悩みがリアルに見えてきます。鎌倉時代にも同様の悩みは尽きなかったはずです。そんなところからも、平家物語が現代に通じる庶民のドラマであると思うようになったのかもしれません。
     ◇ 
 「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響(ひびき)あり……」の名文で始まる鎌倉時代の軍記物。平家の栄華と没落、滅亡までを仮名、漢字交じりの和漢混交文で描いている。作者について、吉田兼好の「徒然草」が信濃前司(しなののぜんじ)行長(ゆきなが)としているが、特定されていない。様々な研究者が校訂・注釈した現代本も複数出版されている。

※9月14日付けの読売新聞神奈川県版にも掲載されています。

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