【私のオススメ本】
鎌倉市文化人権課担当課長 石川雅之さん推薦!
「杉原千畝 情報に賭けた外交官」(白石仁章著) 新潮社

 ◆情報担当官 千畝の実像
 大学時代は万葉集の研究に打ち込み、約10年前から映画、演劇の評論活動をしています。教員時代は国語を教えながら、生徒に「金融やITが世界を動かしているというが、わずか100年程度の歴史。1000年を超えて読み継がれる万葉集のように文化には長い歴史があり、人間の根本だ」と言い続けてきました。
 だから、昨年3月、県立鎌倉高校副校長を最後に定年退職した後、鎌倉市の文化人権課担当課長公募を広報誌で見つけた時、「第二の人生として、文化都市・鎌倉で未来につながる発信をしたい」と思いました。
 この職に就いて最初の仕事で本書に出会いました。市内での講演会に白石氏を招いた際、第2次大戦中のリトアニアなどで多くのユダヤ人にビザを発給し、ナチスの迫害から救った外交官の杉原千畝(故人)が晩年、私の自宅(同市腰越)近くに住んでいたと知り、縁を感じて読みました。
 本書は、外務省の命令に逆らってでも己の信念を曲げなかったヒューマニスト・杉原の姿を伝え、重要な外交情報を集める「インテリジェンス・オフィサー」(情報担当官)だった杉原の実像に迫っています。外務省外交史料館勤務の白石氏は、電報など膨大な外交資料を25年以上かけて地道に分析し、杉原が現地で築いた諜報(ちょうほう)網を駆使して当時の日本の戦略に大きな影響を与えた独ソ開戦(1941年6月)を1か月半前に察知していたことを解明しました。
 研究者としての白石氏の真摯(しんし)さと、杉原のように信念を貫く大切さ。文化という「情報」を後世に伝える己の職責に重ね合わせ、感銘を受けました。白石氏が情報担当官の存在意義について記した「重要情報を入手し、それが正しく理解され、活用されることにある」との一節は、新たな挑戦を始めた自分へのエールのように感じます。今後は、松竹大船撮影所に代表される映画文化再興などに取り組み、様々な文化を発信していきたいです。
     ◇
 新潮社から2011年2月に刊行された「諜報(ちょうほう)の天才 杉原千畝」を改題。大幅な加筆修正がされた上で、文庫化された。杉原が、なぜ政府の命令に背いてビザを出し続けることができたのかを含め、情報のプロフェッショナルとして活躍した素顔に迫っている。

※9月21日付けの読売新聞神奈川県版にも掲載されています。

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