一冊への愛 熱く競う 〜全国高等学校ビブリオバトル2014〜

決勝大会では、4グループに分かれて予選が行われ、決勝に出場する4人を決めた。観戦者ら約400人の投票で、「冷たい校舎の時は止まる」(辻村深月著、講談社)を紹介した東海地区代表の日本大学三島高校(静岡県)2年の中村朱里(あかり)さんが優勝、「わたしが正義について語るなら」(やなせたかし著、ポプラ社)を発表した中国地区代表の浜田商業高校(島根県)3年の榎一真さんが準優勝に輝いた。
また、優秀賞は「恋文の技術」(森見登美彦著、ポプラ社)を取り上げた四国地区代表の新田青雲中等教育学校(愛媛県)5年の北尾奈央子さんらだった。
 

◆ブックフェアも
決勝大会で出場者が発表した16冊=下の表を参照=のブックフェアを全国約80の書店で行っている。実施店は、「21世紀活字文化プロジェクト」(http://katsuji.yomiuri.co.jp/)のウェブサイトで紹介している。

優勝 

◆「冷たい校舎の時は止まる」 中村朱里さん 日本大学三島2年 
物語は、雪の降優勝中村朱里(20150111).jpgる日、高校生が登校してくるところから始まります。校舎に着くと、8人しかいない。ところが、その後も生徒はおろか、先生も一人も来ない。
不思議に思った8人は、外に出ようとするのですが、扉が開かなくなり、校舎に閉じ込められてしまいます。ふと見れば、腕時計も校舎の時計も5時53分で止まっている。そんな中、1人が気付くのです。「私たちは7人のはず。1人多い」と。
この物語の魅力は、ストーリーの面白さなのですが、それを話すと、8人目が誰か分かってしまうかもしれないので、それ以外の3点を紹介したいと思います。
一つ目は、個性豊かな登場人物についてです。彼らは進学校の3年生。全国模試1位の秀才、不良、何でも消極的に考えてしまう女の子などもいます。彼らは8人目が誰かを探す過程で、自らの悩みや不安に向き合わなければならないのですが、私にも覚えがあることばかりで、「どうして私の悩みを知っているのだろう」と思ったほどです。
二つ目は、謎解きについてです。いろいろなところに誰が8人目かのヒントが隠されています。それをひもといて、8人目は誰かを考えながら読んでみてください。ラストの展開には、驚きで鳥肌が立つはずです。
三つ目は、読み終わった後についてです。読んでいるとき、早く続きが知りたいという思いでページをめくりました。しかし、終わりが近付くにつれ、読み終えたら、彼らとは二度と会えないのだ、と寂しくなりました。
しばらくして、辻村深月さんのほかの小説に出会ったとき、懐かしい友人にばったり出会ったようなうれしい気持ちになりました。「冷たい校舎―」で出会った彼らが、物語に登場しているのです。
果たして8人目とは誰なのか、無事に外に出ることができるのか、この本を読んで確かめてみてください。

準優勝 

◆「わたしが正義について語るなら」 榎一真さん 浜田商業3年 
AKB_3209.jpg 島根県の高校の司書が毎年僕たちに読んでほしい本を選んだ冊子で、この本に出会いました。タイトルを初めに見たとき、「正義」って何だろうと思いました。
私がお薦めするこの本の魅力は、二つあります。一つ目は、自分の考えている正義をぶち壊してくれるところです。
著者のやなせさんは兄弟で戦争を体験しています。僕はこの本を読んでから自分の信じる正義というものがはっきりしました。
自分や友人、周りの人がやっていることが正義なのか、悪なのか。アンパンマンの立場なのか、ばいきんまんの立場なのか、ということが判断できる。この本を読めば、皆さんも正義の味方になれるのです。
二つ目のポイントは、身近な幸せに気付くことができるという点です。
たとえば、皆さん、昨日の晩ご飯は何を食べましたか。おとといの晩ご飯は何を食べましたか。食べ物があるということは今の僕らにとっては当たり前です。でも昔の人からすれば当たり前ではないんです。
幸せは薄れて当たり前になります。けれど、みんながもう一度、身近な幸せに気付くことができたら、世界はちょっとだけやさしくなると思います。身近な幸せを再確認させてくれたのが、この本です。

 

優秀賞

◆「恋文の技術」 北尾奈央子さん 新田青雲中等教育5年 優秀賞北尾奈央子(20150111).jpg
主人公は、京都に住む、不真面目で変わり者の大学院生です。彼はあまりの不真面目さゆえ、地方に飛ばされてしまいます。友人も恋人もいない絶望的な状況を何とかするために、彼は一つの手段に出ました。
手紙1通で女の子たちをメロメロにする「恋文の技術」を身につける「文通武者修行」を始めたのです。これは、主人公が友人たちと文通武者修行をしたときに書いた手紙を集めた本になっています。
手紙を書いたり読んだりしているとき、ずっとその相手のことを考える。そうすることで相手を身近に感じることができる。
この本も同じで手紙を読むにしたがって、相手の性格とか、表情とかが見えてくる。そういった手紙の良さが伝わる本だと思います。果たして、主人公は、恋文の技術を身につけることができるのか。読むと手紙を書きたくなる一冊です。
出場者と紹介本一覧(20150111).jpg

 

この日の決勝大会を観戦したゲストの作家・角田光代さんと、詩人の和合亮一さんが参加者や観戦者を前にスピーチした。

人と本との関係見える場所 

◆作家 角田光代(20150111).jpg角田光代さん 
昨年初めて、作家がビブリオバトルを行うラジオ番組に呼ばれました。ほかの作家が話しているのを聞いて、自分で話すのはいやだけれど、人の説明を聞くのは面白いなと思いました。
面白い理由を今日聞いていて分かったのですが、彼女たち彼らは、面白いと思った本を説明しながら、同時に自分について語っていることに気付きました。
私がまったく会ったことのない人たちの内面とか有り様とかが、ポロッと見えたのです。本とその人の関係というのは、全く個人的なものだと思いますが、まさにこういう場では、その人と本との個人的な関係が、見えるんだなと思ったのですね。
多分、みなさんが紹介した作品を、2年後、3年後に読み直したときに感想なども全然変わっていると思います。もし5年後、10年後にビブリオバトルに出たときに、何であんなことを言ったのだろうと思うのではないでしょうか。

 

読書で自分自身と向き合う 
 

◆詩人 和合亮一さん 和合亮一(20150111).jpg
僕が最初に本を紹介してもらったのは祖父からです。祖母は与謝野晶子らの短歌や詩を覚えていて僕に教えてくれました。
僕は、国語の教師をしていて、夜、詩を書いてツイッターに流します。次の日、学校で生徒が「昨日の詩、よかったんじゃない」とか「今一つだね」などいろいろ言います。翌日、生徒たちと自分が書いた言葉についてやり取りできるというのは、これまでの人生の中でなかった。祖父母の時代と今の時代、共有のあり方というのは違ってきているのかなと思います。
みなさんの発表を見ていて面白いと思ったのは、一冊の本に込める思い。その思いはいつの時代でも変わらない。私たち、本が好きな人間として、大事にしていかなくてはいけない。
本を読むことは、今の自分自身と向き合うこと。自分の人生をそこに見つけていくこと。本を開き、本を伝え、本を愛していきたいと思っています。

 

「楽しむ」が大切 

◆考案者 谷口忠大・立命館大学准教授 
ビブリオバトルで大切なのは、参加者みんなが楽しむこと。そうした意味で今回の大会は、楽しい雰囲気に包まれ、高校生たちがみんな笑顔だったのは大変良かったと感じています。
来年度は、いろいろな教育委員会、地域の図書館などが、運営側、大会を開く側に加わってほしい。主催する側も楽しんでほしいと思います。

◆高校大会 来年度も開催 
活字文化推進会議は、来年度も全国高校ビブリオバトルを開催します。各地区大会を開き、決勝大会は来年1月に東京都内で行います。都道府県などが大会を開催した場合、代表を決勝大会に招待します。大会要項などは決まり次第、本紙に掲載するほか、「21世紀活字文化プロジェクト」や「読売教育ネットワーク」(http://kyoiku.yomiuri.co.jp/)のサイトでもお知らせします。問い合わせは、活字文化推進会議事務局(03・3217・4302、平日午前10時〜午後5時)へ。

 
主催=活字文化推進会議
主管=読売新聞社
後援=文部科学省、全国学校図書館協議会、ビブリオバトル普及委員会
協力=トーハン
 
〈ビブリオバトル〉
参加者一人一人がお気に入りの本を持ち寄り、順番に1人5分間で、その本の魅力などを紹介する書評ゲーム。その後、2〜3分間、参加者や観戦者からの質問に答える。全員が発表し終えたら、「どの本が一番読みたくなったか」を基準に全員で投票を行い、最も票を集めた本を「チャンプ本」とする。「人を通して本を知る。本を通して人を知る」というキャッチコピーとともに、若者の読書推進イベントとしても注目を集めている。 
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