中学ビブリオバトル決勝大会 詳細特集

 中学生のお薦め本日本一を決める「第2回全国中学ビブリオバトル決勝大会」が3月24日、東京のよみうり大手町ホールであった。個性豊かなプレゼンテーションを繰り広げる中学生バトラーに、会場を埋めた観戦客は盛んに質問をぶつけ、白熱の書評ライブが繰り広げられた。観戦客による投票の結果、グランドチャンプ本に、東京都立三鷹中等教育学校3年の横田育夢(いくむ)君が紹介した「昆虫はすごい」(丸山宗利著、光文社)が選ばれた。(学校、学年は3月現在)
 
                  ◆無視できない虫の世界◆
   ■優勝 横田育夢君  「昆虫はすごい」(丸山宗利著 光文社新書)
 決勝に進出したバトラーは女子2人が、すらすらと歯切れのいい話しっぷりを見せたのに対し、男子2人は一言一言かみしめるような重厚な口ぶり。
 優勝した横田君は冒頭、意外な言葉で切り出した。「私は昆虫が嫌いです。昆虫が嫌いな人は……手を上げてください」。あちこちで手が上がるのを確認すると「私の仲間ですね」。小学3年生の時、校庭の片隅でカマキリの死骸にハリガネムシがいるのを見たことがトラウマになったエピソードを披露すると、「ある、ある」とうなずく中学生も。
 横田君はこの本が自分を再び昆虫に向き合わせてくれたことを告白。「昆虫は実はチャーミング」「恋愛、戦争……人間がやっていることはたいてい先にやっているんです」。アリなど昆虫への敬意をにじませ、「見た目は嫌いでも生態は嫌いにならないでください」と締めくくった。
 質疑応答ではゲストの推理作家深水黎一郎さんが「昆虫嫌いなのに、どうしてその本を読んだの」と素朴な疑問をぶつけた。「父親の本棚をあさっている時に、タイトルに引かれました」。昆虫嫌いが多いはずの客席から次々と質問が飛ぶ。蝶(ちょう)が苦手という女性から「蝶にもすごいところはあるのですか」と尋ねられると、「冷静に考えてみると、人間は飛べませんが、蝶は飛べますよね」。アドリブのきいた回答で大きな拍手を浴びた。

 

                ◆「嫌いな人に向けて書いた」◆

  ■「昆虫はすごい」著者・丸山宗利・九州大学准教授
 本が(チャンプ本に)選ばれたことは編集者に聞きました。動画も見ました。昆虫が嫌いな中学生が選んでくれて、うれしい限りです。この本は、そういう人向けに書いたからです。昆虫と聞くとすぐ農薬で殺してしまうというのではなく、地球の重要な仲間だとわかってもらえたら。日本では昆虫好きの人がけっこういる、そんな下地があると感じています。
     
 版元の光文社はグランドチャンプ本獲得を記念して、横田君が寄せた「あなたのやっていることはすでに昆虫がやっている」などのメッセージが入った帯を制作した。全国の書店で発売中。
 
               

         ◆思わぬ展開 元校長の本性は◆
   ■準優勝 佐藤桃花さん「神様の裏の顔」(藤崎翔著)
 質疑応答でゲストの直木賞作家森絵都さんが真っ先に手を上げ、「面白そう」と声をあげたのが、準グランドチャンプ本「神様の裏の顔」(藤崎翔著、KADOKAWA)。茨城県立並木中等教育学校2年の佐藤桃花さんが紹介した。
 「ミステリー、コメディー、サイコメトリー、様々なジャンルの要素が詰まっていて、小気味のいいテンポでストーリーが進んでいきます」と佐藤さん。神様のような人とまで慕われた元校長のお通夜に集まった参列者たちの間で浮上した「実は元校長が凶悪な犯罪者だったのでは」という疑惑。「ラストに2回どんでん返しが待っています。あちらこちらに張り巡らされた伏線にも注目ですが、友達に薦めたら、『読んでみたけど意味が分からない』と言われました」
 観戦客から「『読んでも分からない』という友達にはどう返したの」と聞かれ、「分からないなら、何回も読めばって答えました」と説明すると、会場から笑いが起きた。
 
               ◆観戦客ともやり取り活発◆
 優秀賞2人の発表でも、バトラーと観戦客の活発なやりとりが続いた。
 ■井戸幸祐君 「山怪」 田中康弘著
 「日本の山には何かがある」。和歌山県大会優勝者でかつらぎ町立笠田中学校2年の井戸幸祐君は、猟師やマタギが山で遭遇した不思議な体験談をまとめた「山怪」(田中康弘著、山と渓谷社)をひっさげて登場。落ち着いた低い声で一節を朗読し、会場を不思議な空間につくりかえた。ゲストの森絵都さんが「井戸さんが一番出会いたくない山怪は何?」と尋ねると、別の観戦客からはたたみかけるように「じゃあ遭遇してみたい山怪は?」という質問が飛んだ。
 ■加納彩瑛さん「生きるぼくら」 原田マハ著
 小学生に「本から一番教わったことは何?」と問われた東京の豊島岡女子学園2年の加納彩瑛さん。「うーん、なんだろう。人の温かさかな。苦しい時に人の助けを借りながら、少しずつ前に進んでいく主人公の姿に、自分も何かしたいと思えてくるんです」。いじめが原因で引きこもりになってしまった24歳の青年が不器用ながらも奮闘する「生きるぼくら」(原田マハ著、徳間書店)の魅力を身ぶり手ぶりを交えてアピールした。

 表彰式が終わると、ホールロビーに設けられた紀伊国屋書店の臨時売店には人だかりができ、決勝に残った4冊はあっという間に売り切れとなった。
 
 ◆54人が熱戦
 大会には、秋田、福島、山梨、大阪、和歌山、徳島、大分の府県大会優勝者、首都圏や静岡、佐賀、長崎、愛知、京都の学校代表計54人が出場した。まず4会場に分かれて予選を行い、準決勝進出者を決めた。府県大会優勝者は「シード」され、準決勝からの登場となった。
 春休み中とあって、会場には小中学生の姿が目立った。「自分で話すと長い5分がビブリオバトルだと短く感じられる」「聴いているだけで自分のレベルも上がりそうな気がした」といった感想が聞かれた。
 
        ◆「生身の声 胸に響く」 トークセッション◆
 決勝戦開始前のトークセッションには、森さん、深水さん、お笑い芸人の小野島徹さんが登場、ビブリオバトルの魅力などを語り合った。
 高校生の全国大会にゲストとして呼ばれたことがある森さんは「前回は決勝に残った本を読みたくなり、書店で探し、書店になかった本はネットで注文しました。生身の人の声があれほど胸に響くとは思わなかった」と振り返った。
 1月の高校生大会で自著の推理小説「最後のトリック」(河出書房新社)がグランドチャンプ本に輝いた深水さんは「ビブリオバトルで紹介されるのは小説だけじゃない。天文書、哲学書、実用書、何でもありの世界。そこで自分の本を選んでもらったのは作家になって一番うれしかった出来事かもしれない」と笑顔で語った。
 3月に都内で行われた「芸人ビブリオバトル」(松竹芸能主催)で優勝した小野島さんは、推理小説「六枚のとんかつ」(蘇部健一著、講談社)をプレゼンした。「恐いものみたさで手に取った一冊」などと軽妙なトークで会場をなごませた。

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