【話題の一冊③】「つみびと」 山田詠美著 中央公論新社

 母親が育児放棄で幼い子ども2人を餓死に至らせたという、実際に起こった、あの痛ましい事件を山田詠美が挑んだ迫真の長編小説。

23歳の母・蓮音は、灼熱の夏にマンションの自室に幼な子を置き去りにし死亡させた。蓮音も母に見捨てられ、しかし自分のいる場所から決して逃げ出そうとせず我が子との幸せな日々を送っている。が、心の栄養分として、昔馴染みの仲間であったり、知り合った男たちであったり、はしゃぐためだけの女友達と夜な夜な遊び、生きるに必要なエキスを得てしまう。この小説は、一章ごとに「蓮音の母、琴音」と「蓮音」、「蓮音の子供」の3つの視点で展開する。蓮音の長男・桃太の章での一文を紹介する。「桃太は、そっと萌音に触れてみました。すると、少し前まで、行儀良くかちんかちんに硬くなっていたその体が湿っているのです。」

 

 

<著者の言葉>

 私なりの『罪と罰』を描きたかった、と言ったら、あまりにも大それているでしょうか。日頃から、事件報道に接するたびに、ここにある罪とは、いったいどんなふうに形造られて来たのだろうと考えてみるのが癖になっています。何が発端になって、そして何が層を成して、その人に一線を越えさせてしまったのだろうか、と。

 すると、自分の内なる小説家のプリズムとも言えるものが既存のモラルなどとはまったく無関係なところで、罪の濃淡や明度などを選り分けて、私の心に映すのです。そこで知るのは、犯罪と罪は必ずしも一致しないということ。犯罪者と罪人(つみびと)も、またしかり。そして、もちろん同一である場合も。『つみびと』では、私のプリズムによってさまざまに色分けされた心模様を、もう一度束ね直してみようと思いました。子供たちの受難は、そのまますべての人間の受難にも通じています                  

 

 

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